120.ランダムパーティで戦闘開始
迷宮に転送されたら、なんとなく違和感があった。鉱山迷宮のハードは何回もクリアしているけれど、どこなく雰囲気が違う気がする。
「フルパーティだから、気をつけて行こうぜ」
ウィザードの言葉で思い出したけれど、パーティメンバーが増えたら、迷宮の魔物も数が増えてくる。しかもちょっとだけ強くなっているはずだ。
どうやらそのせいで、違和感を覚えたらしい。
「い、行きます」
ハワワが先頭になって、僕らがついていく。隊列らしい隊列でもないけれど、前衛と後衛でなんとなく別れて進んでいった。
「5くるぞ!」
地面の岩が動き出し、岩石人形の形になっていく。もう少し密集していれば、僕のムーンボムも役に立ちそうだけれど、適度に離れているので、複数には当てられそうになかった。
「少爆裂!」
岩石人形の近くの地面が、いきなり爆発して石つぶてを撒き散らす。それらはガンガンと岩石人形へと命中し、激しくダメージエフェクトを飛ばしていた。
「すごい!」
「闇に滅せよ!」
全く闇と関係ないけれど、その威力は素晴らしい。爆裂が弱点というのもあって、かなり削っているだろう。
でもハワワが名乗りをあげない。そのせいでダメージを与えた3体が、リックの方へと向かっている。
「ハワワ。名乗りをあげて!」
状況に飲み込まれている感じだったので、僕は大きな声で活を入れる。
「はい。ぼ、僕の名前はハワワワワワワ……」
魔法の範囲外だった2体が近づいてきたせいか、ハワワが慌てた感じで名乗っていた。でもスキルは成功したようで、リックを襲おうとした3体も、ハワワの方へと向きを変える。
「ここだ。連撃!」
ウィザードが槍を突き出し、まだノーダメージの岩石人形へと攻撃する。そこそこダメージエフェクトが飛んでいるので、装備しているのは良い槍らしい。
エリスはもう一体の無傷な岩石人形の背後へと回り、両手に持った二本の短剣を振るって攻撃していた。
(思ったよりも弱い。硬い魔物を短剣で切りつけても、ほとんどダメージエフェクトが出ていないよ)
突く感じで攻撃すれば、多少はダメージが上がるかもしれないけれど、ちょっとエリスとは相性が悪い感じだ。
「ムーンボール!」
全員の攻撃を確認してから、一番ダメージを受けていた岩石人形へと魔法を飛ばす。最初の少爆裂が良かったのか、僕の魔法で一体を破壊することができた。
「残り4だよ」
「俺にターゲットを合わせるんだ!」
ウィザードがそう叫んだ。
集中攻撃で数を減らすのには賛成だけれど、初手でバラバラに攻撃した今の状況では、ウィザードの攻撃だけを受けた岩石人形に僕の魔法を撃ち込んでも、絶対に倒すことはできない。
「ターゲットリーダーは私じゃないの? こっちにあわせてよ」
どっちでも良いけれど、最初に決めておくべきだった。
「ALは俺が専門なんだよ」
「私も意外とやるわよ。っていうか、ALってなによ」
そんな言い合いをしながらも、二人はちゃんと攻撃をしている。でも無傷を相手にしているので、まだ倒せそうもない。
「ムーンスピア。ムーンブラスト!」
倒せそうなのは少爆裂でダメージを受けている方なので、僕はそっちを狙ってみた。そして予想通り、この攻撃で倒すことができる。
「後3だよ」
「うおぉぉぉ、我が癒やしの神よ! ハワワを回復させたまえ! ゴッデスヒールでゴンス!」
その3体にハワワが攻撃されていた。初心者なのは間違いなさそうだけれど、しっかりと耐えているみたいだから、装備は充実しているらしい。
それよりもゴリのセリフが長すぎて、沈黙とかどこ行ったとか言いたくなる。
「アタックリーダーに決まってるだろ」
「普通はターゲットリーダーでしょう」
どちらも複数の魔物に襲われた時に、どれから倒すのかを指示する役目だ。言い方が違うだけで、意味は全く変わらない。
「あれ。リックは?」
少爆裂以来、魔法が飛んでいないのが気になってリックの方を見たら、そこには誰もいなかった。どこに行ったのか確認すると、洞窟の陰になっている所に隠れている。
援護を頼もうと思ったけれど、おそらくあれはロールプレイなのだろう。闇魔道士だから、闇に紛れているつもりなのだ。
いくらロールプレイとは言え、さすがに限度があるはずだ。もしも働かずにあんなことをしていたら、僕は許せなかったかもしれない。
でもこの戦闘においては、一番ダメージを与えているのはリックだ。ちゃんとではないけれど戦っている限り、他のメンバーも文句を言わないならば、ある程度は許容したほうがいい気がした。
「天の癒やし地の癒やし。ハワワを瞬時に救いたまえ。ヒールでゴンス!」
いろいろ言いたいことが有りすぎて、いまいち頭に入ってこない。でもこれで戦闘が維持できているのだから、ハワワの装備にもゴリにも余裕があるのだろう。
「ムーンボール!」
青白い玉が飛び出し、ウィザードが戦っている岩石人形へと命中する。きれいな多角形の板を撒き散らせながら、そのままスゥッと消えていった。
「残りは2だよ」
「おら、連撃だ!」
少爆裂でダメージを受けていた最後の一体だったけれど、それで倒すことはできなかった。全てが同じダメージというわけではないので、ちょっと運が悪い感じだ。
「えい、えいっ!」
さっきからずっとエリスは戦っているが、あまり大きなダメージは与えられていないだろう。
でもふざけているわけではないはずなので、頑張れって応援したくなる。
「ムーンブラスト」
ウィザードが倒し損ねた岩石人形に、僕は魔法をぶち当てる。すでにギリギリだろうという予想通りに、それだけで倒すことができた。
「残り1だよ!」
「集中攻撃行くぜ」
「我が癒やしの力よ。ハワワを癒やすのだ。ヒールでゴンス!」
神様どこ行ったと思うけれど、ゴリに突っ込んだら負けな気もする。
「ムーンスピア」
本当なら爆裂が欲しいところだけれど、もしかしたら範囲攻撃しかないのかもしれない。リックについては他のメンバーが何も言わないなら、僕から言うのは止めておこう。
「槍の秘伝、串刺し!」
見た目では違いがわからないけれど、ウィザードが岩石人形を槍で突いた。すると岩石人形の反対側にまで、ダメージが突き抜けているようにエフェクトが飛んでいく。
「痛っ!」
「あっ、悪い」
「うおぉぉぉぉ、麗しの乙女の柔肌よ! 天の力もて神秘の癒やしを! ヒールでゴンス!」
串刺しはおそらく、背後にいる魔物にまでダメージを与える秘伝なのだろう。岩石人形の陰に隠れてエリスが見えなかったのか、技の選択を間違えたらしい。
でもその攻撃で、最後の一体も消えていく。ランダムパーティでの初戦闘は、なんとか無事に終了した。
「ふぃぃぃ。いやぁ、白熱したねぇ!」
おそらくはウィザードとエリスが喧嘩をはじめると予想し、僕はがんばって話を誘導する。
「そうよね。いい戦闘だったわ。ウィザートは今度は気をつけてよね」
エリスはそう言いながら、胸の下で手を組んで、両足を交差するようにしてポーズをとる。
もしかしたら胸を強調しているつもりかもしれないけれど、革の胸当てがあるので、全くその意味をなしていない。
と言うか、なんでそんな事をしているのか理解できなかった。
「悪かった。気をつけるよ」
ウィザードも素直に謝ったので、特に喧嘩にはならなかった。エリスがぱちっとウィンクした時、僕はなぜなのかピンときた。
(ゴリにウィンクって、麗しの乙女という言葉で機嫌が良くなったってことか。ゴリはこの展開を予想していたのかも)
「あの、エリスさん。素敵です」
「ふふっ、ありがとう」
ますますエリスの機嫌が良くなっていく。でも戦闘には勝ったけれど、まだまだ連携は取れていない。
「そうだ。ターゲットリーダーを決めようよ。最初はウィザードで、次はエリスって感じで、交互にやるのはどう?」
「それは良いアイディでゴンス!」
「ん? ああ、それでいいぜ」
「私が先じゃないのは気になったけど、今ならなんでもいいわ」
エリスがごきげんだったおかげか、思ったよりもすんなり話はついた。
「ハワワは魔物がでたら、慌てずに名乗ってね」
「はい!」
「そうと決まればサクサク行こうよ!」
パンッと手を叩いて、エリスがその場で足踏みをする。笑顔ですごく楽しそうにしているので、パーティの雰囲気もいい感じだ。
喧嘩とかして険悪になりそうだったけれど、意外とエリスはムードメーカーかもしれない。
「ハワワ、頼んだぜ」
「行きます」
再びハワワを先頭に、僕らは隊列を組んだ感じで進んでいく。