12.魔物の名は『はぐれ鬼』
「はぐれ鬼? 初めて見るぞ」
Tシャツの小鬼の例もある。もしかすると夜のレアポップかもしれない。僕は様子を見ながら、魔法力の回復に努める。
「ラビィ。僕が戦うから。ヒールをよろしくね」
「わかったナァ」
『はぐれ鬼』はゆっくりと森の中を歩いている。僕の視界から消えていかないほどの、ゆっくりとした動きだった。でもあの『はぐれ鬼』は小鬼と違い、二メートル以上の背の高さがある。筋肉もムキムキだし、攻撃を受ければかなりのダメージになるだろう。
「よし。そろそろやるよ。ムーンブラスト!」
僕はムーンブラストの最大威力、魔法力消費10で発動した。輝く光の球が『はぐれ鬼』へと正確に向かっていく。『はぐれ鬼』はこっちに気がついたみたいで、魔法の方へと体を向けた。
結果的にそのせいで、ムーンブラストは『はぐれ鬼』の右肩に命中した。
(胸に一撃のはずだったのに……)
「グウォォォォ」
ドシンドシンと音を立て、『はぐれ鬼』が近づいてくる。僕は近づかれる前に、さらに魔法を打ち込んだ。
「腕で受けるのか!」
胸を狙った一撃をかわすでもなく、左手を前に出して受け止めた。いわゆる僕の最大威力の魔法なのに、ダメージを受けているようには見えない。
僕はそこから移動して、ラビィから離れるような位置を取る。『はぐれ鬼』は狙い通り、僕の方へと向かってくる。
「突進ナァ!」
どうやって倒そうかと思案していたところで、ラビィがまさかの突進をした。でもそのおかげで更にまさかが起こる。『はぐれ鬼』の左足の膝。それがラビィの突進の狙いだった。
「グウォ」
「アクアショットナァ!」
横からの突進で折れ曲がりかけた膝に、アクアショットで追い打ちをかける。ブォキィと嫌な音が聞こえ、『はぐれ鬼』は地面に倒れかけた。
「離脱だナァ」
ラビィの方へ倒れかけてくる『はぐれ鬼』から、さっと距離をとった。
「ナイスだラビィ!」
僕の方へ近づいたことで、ぎりぎり『はぐれ鬼』が見えたのだろう。膝を壊して倒れたなら、僕の魔法もかわせないはずだ。
「ムーンブラストぉ!」
倒れ込んだ『はぐれ鬼』の頭に向かって、僕は渾身の魔法を撃ち込んだ。だけど『はぐれ鬼』は右手をかざして、僕の魔法を受けとめる。
(倒れても両手は自由ってことだ)
僕はバスタードソードを振りかぶりながら、『はぐれ鬼』に向かって走り込む。
「それっ!」
横向きに倒れ込んだ『はぐれ鬼』は、右手で僕の剣を受け止めた。でもさすがに無傷ではない。しっかりと右腕に刃が食い込んでいる。それでも『はぐれ鬼』はまだ元気だった。近づいた僕の足に、太い左腕が近づいてくる。
グッとふくらはぎを掴まれると、骨でも砕けたんじゃないかという痛みが走る。だがこれは僕の狙い通りだ。足を掴まれると言うのが、僕の作戦なのだ。
「右手には剣が、左手は僕の足。ならお前の頭は何で守る?」
近距離で青く輝く光が瞬く。それは驚愕の表情を浮かべた『はぐれ鬼』の頭を、正確に撃ち抜いた。
多角形の板を撒き散らしながら、『はぐれ鬼』はすぅっと姿を消していく。
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鬼の角×1
鬼の指輪×1
石貨×7253
人エッセンス×2
獣エッセンス×3
鬼エッセンス×7 を手に入れました
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「僕の勝ちだ!」
「マスター、やったナァ!」
ラビィが突進してくると、僕はその勢いのままに一緒に地面に倒れ込んだ。右足を痛めつけられて踏ん張りがきかず、受け止めきれなかったのだ。
でも痛かったはずの右足から、スッと痛みが消えていった。
(これはヒール? そっか。ラビィの魔法だ)
ラビィを抱きしめながら、無事でよかったと僕は安堵した。
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運が良かったのか、そのまま寝転がって休んでいても、小鬼の襲撃はなかった。僕らは完全に回復すると、まだ暗い森の中に座り込んだ。
「なんで卵はドロップしないんだろう。ドロップはいい感じなのに」
石貨の方はどこかで使えるお金って言う説明だから、いつ役に立つかはわからない。でも『鬼の指輪』は悪くない。何しろ筋力+2。物理攻撃力に換算すると、攻撃力+2の一品だ。
召喚師の物理攻撃力の計算は、筋力×1.2だ。切り捨てなので、この装備だけを考えれば、どちらも+2だけ上昇する。剣士や戦士はこの係数も優遇されているので、単純な強さだけなら、やはり専門職にはかなわない。
「次があるナァ」
「そうだね。今ドロップしないなら、次でドロップすればいい。ドロップするまで頑張るよ」
僕は少しづつ明けていく森のなかで、次こそは手に入れると気合を入れた。