118.ハードの黒騎士
ハードの黒騎士の修練場でも、僕らは順調に進むことができた。やはり赤さんの火力はすごく、強くなっているはずの動く鎧でも簡単に破壊していた。
とはいえ、僕だって役に立っていないわけではない。ラビィはもちろんのこと、エリーも火力として優秀だし、僕の魔法だって捨てたものではないのだ。
ボス戦は周囲の魔物のポップ数が増えていたけれど、特に問題なく倒すことができた。
生憎ドロップは振るわないけれど、もともとそれが目的というわけでもない。僕は鎧の卵があったらいいなくらいだったので、それで落ち込むこともない。
僕らは戦闘を終えて落ち着くと、パンクを先頭に例の小部屋へと向かった。
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小部屋への道は、ノーマルの時と変わらなかった。何度か角を曲がった先に、同じように男の石像があった。
ただその像は、最初から左手に盾を装備している。
「こんなところに部屋があったでござるか。気がつかぬとは不覚でござる」
「いわゆる野良パーティでやってたら、そんな余裕もないよね」
黒騎士の石像はノーマルよりも背が高く、2メートルくらいありそうだ。それが下半身を覆うくらいの大きさの、ラウンドシールドを持っているのだから、なかなかの威圧を感じる。
「そういえば盾を装備してるんだね」
「そこがノーマルとは違うんだろうな」
そう言いながら、パンクが石像に装備をセットしていく。僕も持っている装備と、黒騎士の槍を石像にセットした。
「最後は赤さんよろしく」
「任せるでござる」
赤さんが鎧をセットすると、石像が輝き出した。
『我、ビクトール・ランディ。最も統率に長けた黒騎士なり。資格を持ちし者たちよ。我に挑むか?』
前は最弱の黒騎士だったけれど、今回は統率に長けたとか言っている。このことから、対パーティ戦になるんじゃないかと予想できた。
「多対多の戦闘でござるな」
「何人いようと、俺が抱え込んでやるぜ!」
パンクが多数を抱えながら耐えられれば、こっちは一方的に攻撃できるようなものだ。たとえ複数を相手にしても、パンクがいれば大丈夫だと思える。
「よし。やるよ」
「行くぜ!」
『我を倒してみせよ!』
その瞬間、フッと景色が変わった。
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前に黒騎士と戦った時と同じような部屋に転送された。でも予想とは違って、さっきの石像と同じ姿の、ランディしかいなかった。
「最初は一人でってことか? 行くぜ! 我が名はパ……」
「我が名はビクトール・ランディ!」
パンクの名乗りにかぶせるように、ランディが名乗りを上げた。
「っちぃ!」
ランディの背後の床に、6つの魔法陣が浮かぶ。そして姿を見せたのは、ノーマルで戦った黒騎士そのものだった。
「黒騎士パーティでござる。それよりもターゲットを、ランディ殿から変えられないでござる」
珍しく赤さんの声に、ちょっと焦りが混ざっていた。でもそれ以上に、僕に向かってくる黒騎士たちに、ターゲットをあわせられないことに驚いてしまう。
「ルード。サークルアタックだ!」
黒騎士がルードの横を通る時に、範囲攻撃でダメージを与えてもらおうと思っていた。なのにルードは、サークルアタックを発動しない。
「まさか……ブレイクだ!」
「ガモォ」
ルードはブレイクを使って、ランディに攻撃する。それを見て僕は理解した。名乗りを受けると、プレイヤー側はターゲットを変更できないのと同時に、範囲攻撃を封殺されてしまうのだろう。
「ぐっ」
近づいてきた黒騎士の攻撃を、避けきれずに横腹をかすめた。その瞬間、脇腹から全身に電流が走った。
しかもその一撃で、僕の体が硬直する。
「不覚でござった……」
赤さんが黒騎士の槍の直撃を受け、スゥッと姿が消えるのを見た。それと同時に、硬直した僕へ向けて、黒騎士の槍が突き出される。
(召喚獣を狙わずに、僕に集中してきた。黒騎士の中身が人間だとするならば、それぐらいの知恵はあるよね……)
名乗りの効果が切れる前に、赤さんと僕は、取り巻きの黒騎士によって倒されてしまったのだ。
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ふと気がつくと、黒騎士の修練場の入り口に飛ばされていた。
「やられてしまったでござるな」
すでに座り込んでいた赤さんが、僕を見て声をかけてきた。
「本当だよね。まさか名乗りを上げてくるなんて!」
予想外の展開に、僕は興奮していた。統率が得意と言っているし、僕に集中攻撃してきたのも、作戦通りなのだろう。
「単体の強さではなく、パーティを活かした戦いだったよ。名乗りがくるなんて思っていないから、初手で遅れてしまった感じだよね」
「そうでござるな。最初の名乗りを防ぐか、先に名乗ってしまう必要がありそうでござる」
名乗るとわかっていれば、対処法はあるだろう。でもできれば初見で倒したかった。仮にも騎士と言っているのだから、名乗る可能性には気がつけたはずだ。
「いやぁ、痛恨だよ。騎士なら名乗りそうなのは、気がつくべきだよね」
「やけに嬉しそうでござるな」
赤さんは落ち込んだ様子はないけれど、興奮している様子もなかった。いきなりテンションが上がった僕を、不思議そうな感じで見つめてくる。
「僕が出会った中で、一番の強敵だよ。こんなにあっさりと倒されるなんて、考えてもいなかった。だからこそどうやって倒すか考えていたら、なんだか楽しくなるのさ」
もともと僕は困難であればあるほど、楽しくなってくる性格だ。だからといって無謀という訳ではないので、レベル1で高レベルゾーンに行ってウハウハとかは思わない。
「困難や逆境を楽しむタイプでござるな。さすがレアハンターでござる」
「僕は必ず手に入れる。あのランディを……」
っと、ノってきたところで、パンクが転送されてきた。
「やられた! あんな技まであるのか……」
パンクは戻ってくるなり、ガシャンと鎧を鳴らして床に座る。
「あいつはやばい。おそらく俺の装備だと、耐えきれなくなりそうだ」
「そんなに攻撃力が高いの?」
パンクの耐久度も防御力も、かなり高いのはわかっていた。それでも耐えられないと言うならば、よほどの攻撃を受けたのだろう。
「赤さんの爆裂と同じで、武器に雷属性を持っている感じだ。魔法防御力では軽減できないし、雷耐性みたいのがないと、まともにダメージが飛んで来るぞ」
そういえば取り巻きの黒騎士の攻撃を受けた時、雷の衝撃で硬直までさせられた。黒騎士全員がそれをもっているのなら、雷対策をするべきだ。
「耐性装備が必要ってことかな」
「爆裂、雷、氷、闇、光の耐性は、聞いたことがないでござる」
「一応黒騎士シリーズを集めたら、黒騎士見習いの称号のおかげで、多少の雷耐性は手に入るぞ」
そういえば失敗した場合は、装備がどうなるのか気になって、インベントリを確認してみた。
ちゃんと戻っていたので、僕は性能を確認する。
「耐性が小さいとは言えあるけれど、そもそも防御力が足りないよね」
「そうなんだよな。性能が微妙だから、黒騎士戦での専用装備って感じもしない」
「いろいろ謎が多いでござるな」
戦ってみた感じで、パンクが耐えられないと言うなら、再戦しても無駄だろう。
「鉱石の謎とかもあるし、他のゾーンとの絡みもあるのかも?」
「あるかもしれないが、今のところは不明だな」
「話の途中でござるが、救援要請がきたでござる」
赤さんは普段からいろいろなパーティと組んでいるから、こういうのはよくあることだ。こっちのきりもいいし、そろそろ解散でもいいだろう。
「はい。気をつけてね」
「またな!」
「では失礼するでござる」
赤さんは素早く街へと戻って行った。
「きりもいいし、こっちも解散するか」
「そうだね」
僕はレベル上げもかねて、一人でアロイ・ガライへと向かった。