117.ハイペースで攻略
部屋の中にいたはずが、いきなり外へとワープした。
「あれ? パンクに赤さん。何が起きたの?」
「どうやら失敗したようでござるな」
クランクエスト用のゾーンに入る手前の場所に、僕らは転送されたらしい。さっき見かけた森があるけれど、僕らは入れなくなっていた。
「失敗すると、再チャレンジできるようになるまで、時間制限があるんだね」
「悪い。俺が失敗した!」
突然パンクが手を合わせながら、僕と赤さんに頭を下げた。
「いきなりどうしたのさ」
「4桁の数字でロックを解除しようとした時、間違って失敗したんだ。そしたらクエストも失敗になって、こっちに飛ばされた」
「別に気にすることじゃないでござる」
赤さんが微笑みながら、本当になんでもないことのように言った。
「誰にも失敗はあるし、また挑戦すればいいじゃない」
僕も別に気にもならなかった。誰かのせいとかも思わないし、こういうクエストもあるのかと思うだけで、失敗しやがってコンニャローとも考えない。
「あ、すまない。そう言ってくれると助かるよ」
「言葉が重いよ。そもそも数字を伝えられなかった僕も失敗してるからね。って言うか、10回音がしてプラス記号を思いつくなんて、すごい発想力じゃない?」
「そんな事があったでござるか。察するに0でござるな。あれを伝えるのは難しいでござる」
「なんだよ。あれはラルだったのか? もっとわかりやすく教えやがれ!」
パンクが僕の肩を小突いてくる。
「叩いてないんだから、0に気がつかないほうがおかしいでしょ」
僕もパンクの肩を小突き返す。
「大声で教えるとかあるだろ?」
「僕の声は聞こえないようになってるんだよ」
「ならなんとか信号で教えるとか。いろいろあるだろうが」
「なんとか信号とか言ってる時点で、どうせ伝わらないんでしょ」
肩を小突き合いながら、いつしか笑いあっていた。少なくとも攻略に失敗したからって、いちいち責める気にもならない。むしろ気にされて落ち込まれたら、こっちまで滅入ってくる。
「道の真中で、いちゃついてんじゃないわよ」
「これはお三方、おそろいでござるな」
声のする方に眼を向けると、マーミン、ラズベリー、モルギットの三人が道を歩いてくる。
「いちゃついてはいねーよ」
パンクは言い返すけれど、誰も特に反応はしない。
「あれ。もしかしてクランクエスト?」
「そういうラルもクランクエストかしら? よかったら一緒に行かない?」
「俺たちは今さっき失敗したところだ。しばらく再挑戦はできないらしい」
スルーされたことも気にせずに、パンクは話しはじめる。そのパンクの言葉に、マーミンとラズベリーが、驚きで目を丸くした。
「へぇ、珍しいわね。ラルがクエスト失敗って、初めて聞いたかも」
「罠解除失敗もあるし、失敗くらいよくあるさ。そんな風に言われたら、なんだかこそばゆいよ」
「あの、なんでクエストを失敗したのですか?」
モルギットがおずおずとって言う感じで、僕らの会話に入ってきた。
「そこまでよ、モルモル。何があるか事前調査して攻略なんて、そんなつまらないことはないわ。調べるなら体当たり。砕ける時も体当たりが私のモットーよ」
モルギットをモルモルって呼ぶのかって思ったら、他の言葉が頭に入ってこない。
「モルギット。心配かもしれないけれど、多分大丈夫だよ。それに楽しみを奪ってしまう気持ちになるから、僕は聞かれても話さないさ」
「そういえばそうですよね。未知なクエストを楽しんできます」
モルギットが真面目な顔から笑顔になる。悩んだりするものゲームの一面ではあるけれど、やっぱり楽しいのが一番なのだ。
「それじゃ行くわよ。女だらけのクランクエストに出発!」
「おー!」
普段一緒にいる時とは、また違った感じのノリで、マーミンたちは森へと入っていった。残された僕らは、なんだか少し寂しさを感じる。
再挑戦するつもりだったけれど、なんだかあのメンバーなら、最高の結果でクリアしそうだ。
「ちょっと消化不良でござるな。3人で遊びに行きたいでござる」
「いいな。でもどこにする?」
僕はちょっと考えて、ふと黒騎士の事を思い出した。
「赤さんは黒騎士見習いの称号とか知ってる?」
僕の問いかけに、赤さんは首を横に振る。
「なら良いところがあるよ。黒騎士の修練場へ行こう」
「称号でござるか。楽しみでござるな」
「おいおい。黒騎士装備が足りないから、行けないんじゃないか?」
うっかり失念していた。あって言う感じの僕に、赤さんが優しげに話しかけてくる。
「頭と体の二種類を持っているでござる」
「やったな。体があれば大丈夫だ。そうと決まればさっさと行こうぜ」
「おー!」
なんだかさっきのマーミン達のノリが移って、思わず『おー!』とか返事をしてしまった。
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赤さんと行く黒騎士の修練場は、驚くほどハイペースだった。何より赤さんが使う爆裂の属性を持つ矢が、次々と動く鎧を破壊する。
爆裂の魔法の場合には、魔法防御力で軽減されるという弱点があるけれど、武器に属性を乗せた場合、それは魔法ではないという判定で、そのまま軽減されずにダメージになる。
それでいて物理でもないので、爆裂耐性をもっていない限り、大きく軽減することができないのだ。
赤さんの活躍のおかげで、迷宮のボスもあっさりと倒し、黒騎士ですらも苦戦しなかった。遠距離アタッカーの凄さも見せつけられながら、僕らは黒騎士の修練場の入り口広場で、休憩しながら雑談をしていた。
「どんどん強い黒騎士と戦っていくわけでござるな」
「多分だけれど、ハード、ナイトメアから行けば、強い黒騎士に会えて、勝ったら称号が強くなるんだと思うよ」
「あの強さで最弱だからな。油断はできねぇ」
今回もラビィとルードにエリーを召喚して戦ったので、サブタンク問題もないし、回復役と魔法アタッカーが揃っているので、いいバランスのパーティになれた。
なにより赤さんの攻撃力はすごいし、どこでも行ける気がしてくる。
「そういえばレベルはいくつでござるか?」
「僕? えっと、30になったよ」
「なんだよ。それを早く言えよな」
僕のレベルを教えたら、なにかあったという意味かもしれない。
「えっと、ごめん? 30だとなにか良いことあるの?」
「黒騎士の修練場のハードの適正レベルが30以上でござる。つまりラル殿はハードへ行くべきレベルというわけでござる」
「そういうことだ。ラルはノーマルは卒業。もうハードでいいんだよ。ちょうどいいから、次はハードに行こうぜ」
どうやらパンクも赤さんも、ハードの経験があるらしい。でも僕は一度も行ったことがないので、見てみたいという好奇心と、僕で行けるのかという不安が生まれてきた。
「ギミックにたいした違いはないし、いけると思うぞ」
「駄目なら帰ればいいだけでござる」
行ってみなければわからないことは、さっさと行って確認しよう。
「よろしく。次はハードで行こう」
「了解」
「行くでござる」
僕らは立ち上がり、黒騎士の修練場のハードへと挑戦する。