112.行き止まりの部屋
左に曲がったり、右に曲がったりしながら、左の壁に沿って進んでいくが、なんにも代わり映えがしない。
天井からコウモリがってこともないし、水は透き通っていてよく見えるけれど、水中に魔物がって感じもなかった。
「退屈なゾーンね」
「今のところ何もないけれど、何もないってところが、僕は少し怖いよ」
マーミンがふっと足を止めて振り返る。
「どういうこと?」
「この地下水路の目的だよ。もしかすると罪人をここに落として放置したとか考えたら、すごく怖くない?」
言いながら僕はブルッと震えてしまう。もしその予想が確かなら、出口なんてないだろう。
「ラル。想像力はすごいけれど、出られないゾーンなんてあるわけ無いでしょ。そもそも赤さんが同じようにここに来たとして、ちゃんと脱出してるじゃない」
もしも赤さんがここに来ているのなら、その言葉はすごく心強い。でも別にここに来たとは言っていないし、発見したのはあの渦だった可能性もある。
「もう。怖がらせないで」
あるわけないと言いながらも、僕の予想はマーミンを怖がらせてしまったようだ。ルードも話が終わったのを理解したのか、再び通路を進んでいく。
(でも確かに、出られないゾーンなんてあるわけないよね)
僕は逆に、マーミンの言葉で安心していた。
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代わり映えのしないなかを歩いていくと、やっと変化を発見した。
「水路のない通路があるわ」
通路はいわゆるT字路になっていて、左に曲がる方には水路はなく、右に曲がる方へは水路が続いていた。
右の方へは、相変わらず脇に歩ける通路がある。でもまずは左を確認したい。
マーミンが左の通路を確認できる場所まで移動すると、いきなり真剣な表情になる。
「どうしたの?」
「行き止まりみたいね」
僕も顔を覗かせて確認すると、少し通路が続いた先に、小部屋のようなものが見えた。でも全体は見えないので、行き止まりかどうかはわからない。
ただ小部屋の奥に、骸骨が横たわっている。
「魔物かな。あれって骸骨だよね。でもなんで行き止まりってわかるの?」
「えっ、あそこで骸骨になったなら、部屋に出口はないのかなって。でも行ってみないとわからないわよね」
きっと出口がないんじゃないかっていう不安な気持ちが、マーミンの判断を狂わせたのだろう。こんな地下に閉じ込められて、代わり映えのしない通路を歩かされたら、誰だって冷静さを失って当たり前だ。
僕だってマーミンが一緒じゃなかったら、もっと不安になっていたかもしれない。
「ルード。近づいてみて」
「モガァ」
ルードは通路を進み、骸骨へと近づいていく。すると横たわっていたはずの骸骨が、カタカタと動き出した。
「ルード、戦闘開始だ!」
ルードが骸骨へブレイクを使って攻撃すると、それだけで骸骨が砕け散る。
「あれ、弱い?」
駆け出した流れで小部屋に入ると、そこは生憎と行き止まりだった。
「上……どこまで続いているのかしら」
マーミンにつられて上を見ると、天井が見当たらなかった。僕にもどこまで続いているかも見えないくらい、高いところに天井があるのだろう。
「もしかして、ここから罪人を落として放置したのかしら……」
さっきの僕に影響されてなのか、マーミンがとんでもないことを言ってくる。
「この高さから落とせば、おそらくこの部屋で終わりだよ。これだけ大掛かりな施設を作っておきながら、一人でおしまいって事はなさそうだし、なにか別の理由があるんじゃないかな」
そんな事を話していたら、砕け散った骸骨の隙間に、なにか紙のようなものをみつけた。
「これは……」
僕が拾い上げた紙には、殴り書きしたような文字が書かれている。
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熱き魔人の宝を手に入れる夢は、どうやら夢で終わるようだ。
仲間はすべて倒された。
俺もここまで逃げてきたが、すでに脱出路はなくなっている。
そういえばもう一つ出口はあるか。
危険を知っていても、そっちへ行けばよかったかもしれない。
思い浮かんでくるのはグチばかりだ。
畜生、アイツがこんなことを言い出さなけりゃ。
止めだ。最期くらい、格好よくいこう。
覚悟していたが、熱き魔人はやってこない。
ここに逃げ道があれば、俺は無事でいられただろう。
ついていない。
食料も尽きた。
助けも来ない。
だから忠告しておいてやる。
熱き魔人は眠らせておけ。
起こしたことが間違いなんだ。
宝なんて忘れろ。
それにどれだけ価値があったとしてもだ。
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僕は手紙のようなものを読み終えると、それをマーミンに渡した。
このメモで施設の存在理由がわかった気がする。熱き魔人と言うくらいだから、冷たいものに弱いのだろう。
だからこういう水路を作って、熱き魔人を封印した。
そしてもう一つ大事なことは、出口はちゃんとあるということだ。ただ危険を知っていてもという言葉から、普通に出ることはできないと予想できる。
「やったじゃない! 出口はやっぱりあるのよ」
「そうだね。それを探して、また水路の脇を歩こうか。っの前に、休憩しとく?」
「ここで? どうせなら他のところで休みましょうよ」
普通の魔物なら消滅するけれど、この小部屋には骨が散乱してしまった。ゆっくり休める気分にはならなさそうだし、マーミンの言うとおり先へ進もう。
「それもそうか。ルード、先頭を頼むよ」
僕らは隊列を組み直し、再び左壁の法則で歩いた。