110.召喚獣の新たな可能性
「ここでは、人造卵を作成できるのじゃ」
背筋にいきなり電流が走る。人造卵という言葉に、あらゆる可能性を感じて、体が石のように固まった。
「落ち着くのじゃ。それほど簡単ではないぞ」
それもそうだろう。卵のドロップがあれな中で、簡単に卵が自作できたら、つまらなくなりそうだ。
「まずは召喚獣の雫が必要じゃ。これはこの館にある『悦楽の間』で手に入る。そして2種類以上の雫を、この卵殻に投入するのじゃ」
フォードが鶏の卵を、5倍くらいに大きくした真っ白い塊を見せてきた。
表面がツルツルとしていて、なんとも言えない感じがする。
「滴を手に入れて、これに投入する。そして後に契約するというわけですね」
「そうじゃ。そしてこれは、召喚獣と契約している者にしかできん。なぜならお主が契約している召喚獣を悦楽の間に入れ、雫を手に入れるのだからな」
なんとなく仕組みがわかってきた。つまり、ラビィとルードを悦楽の間に入れ、雫を手に入れたとする。それをこの卵殻で合成して、新たな魔物を生み出すというわけだ。
「雫は元の魔物の技能や能力を持っているが、それが生まれてくる魔物に伝わるかは運次第。そして雫を手に入れれば入れるほどに、元となる召喚獣が消滅する危険もある」
「消滅? それならやらないよ」
フォードは左右に首を振る。
「最初の一回目だけは、消滅する危険はない。だが一度でも雫を手に入れた召喚獣は、二度目以降、低確率ではあるが、消滅する危険があるのじゃ。それが嫌ならば、一度にとどめておくが良い」
最初だけはリスクがないなら、僕が実行するのは一回だけだ。低確率だからって、挑戦しようなんて気にはならない。
「人造卵から生まれた魔物からは、雫を手に入れることはできん。消滅を恐れるならば、チャンスは少ないじゃろうな」
ちょっと嫌な施設に感じた。もしこのフォードが消滅も辞さずに雫を搾り取るような男なら、こんな館からはすぐに出ていきたくなる。
「フォードは消滅を恐れず、人造卵の研究を続けるの?」
「まさかな。新たな召喚獣のために召喚獣を失うなど、本末転倒と言うものじゃよ。だがそれでも雫を絞る召喚師はいるじゃろう。そしてそれを、わしは止めることはできない。召喚獣をどう扱うのかは、召喚師に委ねられるからじゃ」
人によるけれど、フォードは消滅反対派らしい。この施設が消滅上等じゃないなら、僕がしっかりしていればいいことだ。
「そして卵殻に投入できるのは、雫だけではないのじゃ。この技符を投入することで、新たなスキルを取得する可能性を生み出せる」
言い回しが微妙だけれど、技符って言うのを投入しても、それを取得できるかどうかは運次第と言う感じだ。
「雫より伝わるスキルは最大7、技符を使用して取得できるのは最大で3。つまり、10までスキルを取得した魔物を生み出せるというわけじゃ」
ちょっと複雑だけれど、うまくすれば欲しい魔物を取得できるシステムだ。
「だが気をつけるんじゃ。雫をたくさん混ぜると、姿が不定形になってしまう」
覚えて欲しいスキルが雫にあるとして、4つとか5つを混ぜると、生まれる魔物の姿が変になるということだ。おそらくは高確率で、不定形になる気がする。
「そこでこれじゃ。種族の型紙を使えば、姿すらも決定できる」
例えばバトルラビットの型紙を使えば、混ぜた雫に関わらず、バトルラビットの姿で契約できるというわけだ。
それならば不定形を気にせずに、欲しい技能だけを集めてもいいかもしれない。
「思い通りの魔物と契約できるというわけですね」
「運が良ければじゃ。どの技能を取得するのかは、運次第じゃからのう」
ちょっと暗い感じで、フォードが下を向いた。あの技能を覚えて欲しいと期待して、契約したら取得していないでは、かなりがっかりするだろう。
「そこでこれじゃ。星の輝砂を使うことで、確実に技能を覚えさせることができる。ただし一つの技能につき、星の輝砂も一塊必要じゃ。10すべてを確定したいならば、同じく星の輝砂も10必要になるじゃろう」
ということは、アイテムさえ揃えれば、思い通りの魔物と契約できるというわけだ。最初に考えていたよりも、確実に望みどおりの召喚獣が手に入る。
「それらアイテムの入手法を教えてください」
「それはじゃな……」
またしても説明が長かったので、自分なりにわかりやすくまとめてみる。
まず技符の入手は、ここで買う方法と、異界研究者から手に入れるという2つの方法があった。そして星の輝砂というアイテムは、異界研究者からか異界迷宮からしか手に入らない。
そしてわかりにくい異界研究者については、この世界に存在する異界迷宮と呼ばれるものを、研究している人だという話だ。
プレイヤーが異界迷宮を探索し、その成果を異界研究者に伝えることで、珍しいアイテムを提供してくれるというシステムになっている。
ここで買える技符は、どれも進化前の技能なので、できれば進化後の技符が欲しい。そうなると、異界迷宮というものに、挑戦する必要が出てくるのだ。
「だいたいわかったじゃろ? 最後にもう一つ。人造卵の魔物は進化しない事に注意じゃ。そしてどの魔物も、最大レベルは15になるじゃろう」
それを聞いてゲンナリする。色々説明を聞いたのに、わざわざ人造卵を作成しようと思えなくなってきた。
「じゃが破限の儀式を行えば、最大レベルはさらに5だけ上昇する。この儀式は何度でも受けられるのじゃ。つまりレベルの限界など存在しないんじゃよ」
「それはいいですね」
進化はしなくても、レベルが上がるなら文句はない。
「最初は1万ウェド、二回目は、三回目はと、条件が厳しくなっていく。でも越えられぬ条件ではないゆえ、安心して頑張るんじゃ」
儀式は何度でもだけど、受けるには条件を満たせって感じらしい。それはそれで目標にもなるし、通常とは違う成長を楽しめそうだ。
「いろいろありがとう。とりあえず今は別のことをするよ」
「うむ。必要な時に来るがよい」
僕らはぶら下がる帯の間を歩き、召喚師の館をでた。
--------------------------
召喚師の館をでると、ふぅっと長めのため息が出た。
「マスター。どうしたですの?」
「いろいろ一度に聞きすぎて、ちょっと疲れたかも」
心配そうに見てくるラビィを安心させるように、大したことはないという感じで返事をした。
「一度休憩するですの。クランハウスに行くですの」
ラビィは僕の左手を引っ張りながら、薄暗いゾーンを進んでいく。
「そうするよ。一度クランハウスへいってログアウトする。休憩したら戻るからさ」
「それがいいですの」
それでもラビィは僕の手を離さなかった。僕も無理に振りほどく気もないので、そのままクランハウスへ向けて歩いた。