107.石像の秘密
その後は特に良いドロップもなく、10周目のボス戦までやってきた。なんども挑戦しているので、もう倒す手順は確立できたし、特にトラブルもなく戦闘ができる。
「カウンターシールド!」
パンクの一撃で、暗赤鎧は多角形の板を撒き散らして消えていく。ボスは赤、青、緑、黄とベースがあるようで、それぞれの属性に特化していた。
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黒騎士の槍×1 を手に入れました
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ドロップログを見て、僕の体は石のようになった。まさかのドロップに、僕は激しく混乱してしまう。
「くわぁ! 装備がドロップしなかったぜ!」
パンクの言葉に、僕の硬直は解除された。
「こっちも外れね。黒騎士の鎧だったわ」
「僕は黒騎士の槍をドロップしたよ! ドロッピー様ありがとう!」
二人は一瞬固まった後、拍手でおめでとうと言ってくれる。性能を確認すると、攻撃力が89あった。必要筋力は70と低めで使いやすく、申し分のない性能だ。
「やったよ。これでルードの攻撃力にもさらに期待できる」
「でもこれでしばらくは、この迷宮にはチャレンジできないわね」
ハイズは僕に黒騎士の槍がドロップして、なんだか調子が良くなってきたところで、周回できなくなったのが残念そうだ。
「どうだろうな。ハイズが協力してくれるなら、何かしらチャンスはありそうだぜ」
自分のドロップで気がつかなかったけれど、ハイズが黒騎士の鎧をドロップしたと言っている。つまり、三人のドロップを合わせれば、あの石像に装備させることができるのだ。
「あっ、ハイズのを合わせたら、一人分の黒騎士シリーズが揃ったんだね」
僕とパンクは使ってもいい? みたいな感じで、ハイズを見つめてしまった。
「もちろんいいわよ。特に強い装備でもないし、何が起こるか楽しみだもの」
ハイズは快く了承してくれた。
「行こうぜ!」
パンクを先頭に、僕らは石像の部屋へと移動する。
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石像の部屋へ来ると、一番問題になったのは武器だった。
「戦闘の可能性があるなら、わざと弱い武器が良いんじゃないか?」
「無駄な危険は避けるべきよね」
二人はそういう意見だけれど、僕は少し違っている。装備を集めるのが大変だからこそ、せっかくレアの黒騎士の槍までドロップしたのだから、完全装備させたいのだ。
「むしろ黒騎士の槍もドロップしたのだから、完全装備させたいじゃない?」
「装備が戻ってくるかわからないぞ」
その可能性はゼロではない。何らかの資格と引き換えに、すべてを失う可能性はある。でもそうだとしたら、装備の入手難易度に差があるのは、不公平になるだろう。
誰しもに公平であるべきのMMOで、一人だけ損をするようなシステムにはしないはずだ。
「やらせてよ。せっかくだし、完全装備が見たいんだ」
それでもハイズは迷っているようだ。もしその完全装備で敵になったらと想像して、躊躇しているらしい。
「わかった。完全装備で行こうぜ」
「えっ、うん。わかった。私もそれでいいよ」
パンクは余り悩むことなく、いつものような即断だ。それにつられてくれたのか、ハイズも渋々って感じではあるけれど、ちゃんと納得してくれた。
「僕から行くよ」
僕は黒騎士の槍と、黒騎士の小手を装備させた。石像が槍を持つだけで、なんだか凛々しく見える。
そこへ次々と、兜、脚甲が装備され、最後に石像は鎧を身に着けた。
「おっ」
石像全体が薄っすらと輝き出す。もはや何かが起こる時の定番だった。
『我が名はサウスウィード。最後の黒騎士にして最弱と呼ばれし者。我への挑戦を望むか?』
石像がしゃべりだした。でもその内容に、ちょっとだけ首を傾げたくなる
「最弱? 一番弱いってことか?」
パンクは最弱がわからないのではなく、ここまで盛り上げておいて、最弱って本当なのかって言う感じだった。
「変よね。何かの間違いかもって思っちゃうわ」
ハイズも同じように、不信感を抱いているようだ。
(あれかな。銀鬼シリーズと似た感じかもしれない)
鬼シリーズが力の解放で銀鬼になったように、能力がそれほど高くない、このドロップの黒騎士シリーズが、この挑戦によって何らかの意味をもつ。
そんな予想が頭に浮かんだ。
そして最弱と言っているのは、おそらくハードやナイトメアにも、同じ仕組みがあるのだと予測できる。
そっちで挑戦をクリアすれば、さらに黒騎士シリーズがすごくなるんじゃないだろうか。
「っで、挑戦は受けるよな?」
僕はさっきまで考えた内容を二人に話した。
「ありそうね。でもそれなら、ハードからやったほうが、装備を集めなくて良いんじゃない?」
「装備が無くなるかはわからないし、ハードから挑戦できるかもわからないよ。これからハードに行って、挑戦できなかったらしばらくノーマルには挑戦できないし」
今回が10周目なので、時間が経過しないと入ることすらできなくなる。
「とにかくやろうぜ。最弱ってことは、最初ってことだろ? やってみなけりゃ、なにもわからねぇぜ!」
「そうね。準備オーケーよ」
「わかった。了承するね」
さっきから浮かんでいる選択に、僕はイエスと回答する。
『我を倒してみせよ!』
僕らは別の部屋へとワープした。
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ボス部屋のような広い部屋に、僕らは転送されていた。
少し離れたところに黒騎士が立っているが、まさしくさっきの完全装備状態だった。でも鎧の中身があるのかまでは、見ても確認することはできない。
『我を倒せ! そうすれば黒騎士見習いの称号を与えてやろう』
心のなかで見習いかよっと思ってしまう。まがりなりにも黒騎士を倒すのだから、普通に黒騎士の称号が欲しかった。
(6対1じゃ、見習いでも仕方ないか)
「我が名はパーフェクトタンク!」
パンクが黒騎士に近づきながら、名乗りを上げる。
僕はドロップリストを確認したけれど、何もドロップしないタイプの魔物だった。
(最悪だ。そういえば失敗したら、あの装備とか没収なのかな。勝っても没収かもしれないけれど)
「ガモォ!」
様子を見ていたら、次々とみんなが攻撃していく。ルードはブレイクで一気に近づき、バトルアックスを振り下ろしている。
それでも注目はパンクにあるようで、黒騎士は槍を突き出した。
「カウンターシールド!」
それをカウンターで返したパンクは、まだ被弾していない。そのままパンクは黒騎士の横を抜けると、背後へと回り込んだ。
黒騎士がそれを追うようにして、パンクの方へと向き直る。
(ライトニング対策か。あれはたしか前方に広がるから、位置取りをいつもとは変えたんだ)
ハイズとルードが背後から攻撃し、エリーが魔法を飛ばしていく。ラビィはパンクが見えにくくなったのか、少し横へと移動していた。
ガーンと激しく音がして、黒騎士が槍でパンクを突いていたのに気がついた。それを盾で受け止めているが、カウンターシールドはリキャストタイムのせいで、まだ使用できない。
「かわしにくいな。攻撃が速くて鋭いぜ」
「ゴッデスヒールですの」
防いでいるはずなのに、パンクはダメージを受けているようだ。そもそもパンクのメイスと黒騎士の槍では間合いが違うけれど、黒騎士は槍を短く持ったりしながら、器用に攻撃をしていた。
「ムーンボール!」
僕らの攻撃は、ちゃんとダメージになっている。ただ僕らが攻撃する間に、黒騎士はパンクへ2回くらい槍を突き出している。
(素早さの差なのか? ターン制のゲームじゃないから、こっちも頑張れば連続攻撃はできるけど)
黒騎士の身のこなしは、サクラの剣舞のように軽やかだった。
実戦だと言うのに、あの軽やかさを持ちながら戦えるというのは、かなりの訓練が必要なはずだ。最弱と名乗ってはいるけれど、やはり黒騎士である以上、油断できる相手ではない。
「こらさっ、ほらさ」
パンクと黒騎士の間合いが、槍に有利になっていた。でも距離が少し離れた分、パンクはちょっとづつ、槍をかわせるようになっている。
「ウピッピッピィ」
エリーは火魔法を中心に使っている。おそらくはそれが、黒騎士に有効なのだろう。5つの火の塊は、きれいな弧を描きながら、黒騎士へと着弾する。
他の攻撃とあまりダメージ量は変わらなく見えるけれど、5発命中しているので、総ダメージ量はこれが一番多いはずだ。
「よし、こいや!」
黒騎士が腰を落として槍を構えると、パンクが気合の言葉を放った。初めて見る構えだけれど、何をするかは予想できる。
『ライトニング!』
部屋がカッと明るくなる。パンクが雷光に包まれ、バシャーンとすごい音が鳴り響いた。
「レタヒールですの!」
「すきだらけだぜ!」
ライトニングを放った直後、黒騎士はその姿勢で固まっていた。大体5秒くらいだけれど、僕は弱点マークに驚いた。
「ライトニングの後、5秒くらいの間、全身すべてが弱点になってる!」
「了解だ! 次のチャンスには、全力で攻撃を叩き込め」
攻撃は激しいけれど、跳ねたりしない限り、安定して戦えるだろう。でもまだ黒騎士は全力を出していない。
僕にはなぜか、そう思えてならなかったのだ。