106.迷宮周回の休憩中
そのまま次へと向かう前に、パンクに確認したいことがある。
「パンク。黒騎士の小手をドロップしたけど、必要筋力やレベルがないかわりに、防御力が6しかないよ。なんでこのシリーズを集めてるの?」
「ん? ああ。こっちへ来ればわかる」
パンクは広い部屋の中で、ボスがポップしなかった方へと移動していく。
僕らがそれについていくと、部屋の角にわかりにくい通路を見つけた。
「こんなところに通路があったんだ」
「いや、最初は存在しない。でもボスを討伐すると、この通路ができるんだよ」
パンクの話によると、以前に他のパーティと来た時、討伐後に解散になって、時間が余ったことがあるそうだ。暇つぶしのついでにボス部屋を歩いていたら、偶然この通路を発見したらしい。
普通は周回するから、さっさと迷宮を出て侵入し直すところだ。でもそれが最後の周回だったというのと、少しだけ時間に余裕があったことが、プラスに働いた。
パンクはそんな説明をしながら、狭い通路を進んでいく。僕はどこにつながっているのだろうとワクワクしながら、パンクの後を歩いていった。
二度ほど角を曲がったら、僕らは小部屋にたどり着く。小部屋の中央には、若い男の石像があった。
仁王立ちをしている石像は、左手を腰に当て、右手を軽く外へ向けて曲げている。裸というわけではなく、粗末に見えるTシャツと膝までしかないパンツを履いていた。
「男性の石像よね? なんでここにあるのかしら」
ハイズが石像の肩を撫でながら、誰に言うともなしに疑問を口に出した。
「ハイズ、離れていろ。こういうことだ」
ハイズが離れたタイミングで、パンクが何かをした。すると男性の石像の頭と下半身に、黒い鎧が装備される。
「えっ、もしかして黒騎士シリーズを装備させられるの?」
「そうだ。ただ全部位を装備したからといって、何が起こるのかはわからない。まだ集まっていないからな」
僕は黒騎士の小手がドロップしたので、装備させられるか試してみる。
「おっ、協力できるのか」
石像は黒騎士の小手も装備できた。譲渡不能の装備だけれど、ここでは協力できるらしい。
「さっきドロップしたんだ。どうやら一人でなくても、それぞれの部位を持ち寄ればうまくいきそうだね」
っと、言っていたら、石像から装備が消えた。
「一定時間が経つと、装備が外れるんだ」
「あっ、ちゃんとインベントリに装備がある。そういえば、この右手って武器が持てそうだよね」
ドロップリストの中に黒騎士の槍があるから、この空いた右手に、それを握らせるのが正解かもしれない。
「持てるぞ。例えばこうだ」
石像の右手に、小さな斧が握られた。
「えっ、黒騎士の槍でなくてもいいの?」
「試してみたが、両手武器でもどんな武器でも、装備可能だったぞ。ただ防具は黒騎士シリーズだけだ」
すでにいろいろ試しているらしい。でもなんでも良いはおかしな気がする。想像できる可能性は、何個も思いつくけれど、何が正解かを判断できるほどの情報を、今の僕は持ち合わせていない。
「装備させたら、どうなるのかしら?」
「さぁな。まあ装備させたらわかるぜ!」
ハイズの質問に答えられる人は、この中に誰もいない。
本当の黒騎士の修練場に行けるとか、黒騎士装備の魔物と戦うとか、ありそうなパターンは思いつくけれど、武器がなんでも良いとすると、戦う場合は弱い武器を装備させると、弱体化できるかもしれない。
でもちょっと卑怯な気がするから、できれば黒騎士の槍を装備させて、試してみたいところだ。
「これは面白そうだね」
「だろ? 不思議と攻略サイトを見ても、このことは書かれていないんだ。誰かが気づいてもおかしくないんだが、試したやつはいないらしい」
攻略サイトだからって、すべての情報があるわけではない。むしろある程度情報を流して、有益なものだけは独占するとか、そういう人もいるだろう。
実際にあることだし、バレたら叩かれがちだけど、それで得た利益が消えるわけでもない。って考えたら、この石像の情報は、なんらかの利益が産めるのかもしれない。
(楽しくて迷惑をかけないなら、それで十分だけどね)
パンッとパンクが手を鳴らした。
「そういうわけで、黒騎士シリーズを集めてるんだ。この後もよろしく頼むぜ!」
「もちろん」
「いいわよ」
僕らは迷宮を出て、再び『黒騎士の修練場』へと挑む。
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あの後、5周ほどして、再び装備をドロップした。でも『黒騎士の脚甲』だったので、パンクと部位が被っている。
ただ普通は10周で1個ドロップするかどうかの確率なので、ドロップ率上昇の恩恵を受けた結果とも言えそうだ。
次に挑戦する前に、黒騎士の修練場の広場で休憩していると、何気なくパンクが口を開いた。
「そう言えば召喚師っていいよな。道中はアタッカーを召喚して、ボスになればタンクを召喚するとか、状況に応じて戦えるのは羨ましいぜ」
その環境に適した召喚獣を使うというのは、たしかに召喚師の醍醐味だと思うけれど、卵のドロップ率を考えれば、羨ましがられるほど楽でもない。
「ここまで来るのに、地道な戦闘を延々と繰り返したからね。今にして思えば、卵がドロップしたのは奇跡だよ」
ウルトラレアと言われる卵を、僕は4つもドロップしている。そのうちルードは自力でドロップしていないし、ここまで多種類が揃っているのは、珍しいかもしれない。
「ドロップ率か。あれは確かにやばいな」
「黒騎士の槍でもこうなのに、よくやる気になるわね」
ハイズが呆れたように言っている。でもそこは性格の違いだ。多分せっかちなアタッカーには、もっとも向かないのがレアハントだろう。
ただ戦闘が好きなら、ある程度は気持ちをごまかせるかもしれない。
「レアハントが好きなんだよ。ドロップした時の興奮や喜びは、味わった人にしかわからないさ」
そういうものかって感じで、ハイズがフーンと言っている。休憩中の雑談だから、それほど真剣に話してもいないのだろう。
むしろ真面目に話されても困ってしまう。
「そう言えばクランクエストで、ネズミ退治をやったぞ」
「あっ、僕もやったことがある。同じクエストも発生するんだね」
「そうなのか。しかしネズミキングがかなり強かったよな」
そこでおやっと記憶を探る。僕が覚えている限り、そんな魔物は出現していない。たしか僕の時は、女王ネズミがボスだったはずだ。
「ボスは女王ネズミだったよ」
気になったので、パンクとクエスト内容をすりあわせていくと、ほとんどの情報は一致していた。倉庫の穴から奥へ進んだのも一緒だし、謎はモルギットの提案で僕と同じようにクリアしている。
「とすると、メンバーやレベルなんかで難易度がかわるのかもね」
「ありそうだな」
つまり参加する人のレベルが低くても高くても、人数が少なくても多くても、常に全力をだせば、完全クリアできる可能性があるってことだ。
(同じクエストでも成長してから参加したら、また違って感じるかもな。まあそうならないくらいに、クランクストの種類があって欲しいけれど)
「そろそろ行こうよ」
クランクエストの話で盛上がっていたら、ハイズが暇になったみたいだ。僕の脇腹を突きながら、再開しようと急かしてくる。
「よし。行こうか」
「行くぜ!」
僕らは立ち上がり、6周めの『黒騎士の修練場』へ挑戦する。