105.黒騎士の修練場のボス
戦闘が終了すると、部屋の中はシーンとなった。さっきまで鎧がガンガン鳴っていたことすらも、ウソのように感じるほどの静けさだ。
「最初は俺が行く」
「了解」
パンクがそう言った途端、床に大きめの魔法陣が輝き出した。
やがて現れたのは、暗い青色の鎧の魔物だった。
「暗青鎧だ。水系の魔法は無効だから、攻撃する時は火系で頼む」
見た目通りの耐性のようだけど、いつもこれがボスなのだろうか。
「ボスはいつもこれなの?」
「いや。中ボスと同じランダムポップだ。おらぁ!」
パンクが暗青鎧へと走り込み、素早くメイスを振り下ろした。ガーンと激しい音がするけれど、ダメージエフェクトはそれほどでもない。
そこへ暗青鎧が、パンクへと右腕で殴りつける。
「カウンターシールド!」
それを完璧なタイミングで、パンクは打ち返した。そこへハイズが走り込んでいく。
「連撃! シャシャッ」
物理にも強いのか、飛び散る多角形の板が、さっきよりも少なく見える。
「慌てるな! こいつは2番目に注目を浴びているやつに、問答無用でダメージを与えてくる。離れてもダメージが飛んでくるし、絶対にかわせない」
「慌てるなって言うか、もう攻撃しちゃったじゃない!」
「耐えろ!」
攻撃した以上、注目しているリストは変化しているだろう。僕が攻撃して2番目になってもいいのだけれど、耐えられるかどうかの確信がない。
(でもラッキーだ。戦闘中は召喚獣の入れ替えはできないけれど、今の状態ならまだ間に合う)
僕を含め、ラビィもサクラもエリーも攻撃していない。同じパーティのパンクが攻撃しているけれど、この判断は別枠のはずだ。
「サクラ送還。ルード召喚!」
サクラがスゥッと消え、僕の前にルードが現れる。いつものようにバトルアックスを頭上に掲げ、新たな銀鬼シリーズの装備を身につけての登場だ。
「ガモォ!」
「ルード。あのボスから注目を浴びるんだ!」
再びガモォと叫ぶと、ブレイクを使用して暗青鎧へと攻撃した。さらにサークルアタックで連続攻撃を決めている。
「おっ、やるじゃねぇか」
パンクはそれに刺激されたのか、メイスでさらに攻撃する。
「ルード。パンクから注目を奪うくらい、全力で攻撃だ!」
「俺から注目を奪おうだなんて、本気で言ってるのか?」
パンクはそう言うと、攻撃するのを止めた。
「ルードを召喚するまで10秒あった。だから俺は、10秒は何もしない。遠慮はいらねぇ。それで同等だろ!」
「ルード。全力で行くんだ!」
「ガモォ!」
ガンガンと暗青鎧へと、バトルアックスを叩きつける。ただ秘伝の方はリキャストタイムがあるために、重ねて使うことはできないみたいだ。
「本当に遠慮しねぇな。でもそうじゃなきゃ、面白くねぇぜ!」
きっちり10秒経ってから、パンクが再びメイスを振るう。まだ注目はパンクにあるようで、暗青鎧のパンチに、再びカウンターシールドを決めている。
ルードは暗青鎧の後ろから攻撃する形になっているが、ブレイクを混ぜながら、必死に攻撃を続けていた。
(名乗りも雄叫びも使わないのは、このボスには通用しないからか……)
パンクはなんで名乗らないんだろうと思っていたけれど、ルードも雄叫びを使わなかったので理解した。
そういうのが無効の魔物がいても、全然不思議ではない。
そんなことを考えていたら、不意にガンっとルードの鎧が鳴った。
「30秒ごとに、2番目に注目しているやつにダメージが飛ぶ。今回はきっちりルードが受けたらしいな」
「よかった。この装備でダメージとか、考えたくもないわ」
余り気にしていなかったけれど、ハイズは最初に出会った時と同じ装備だった。それなりにレベルは上がっているようだけど、装備にまでは手が回っていないらしい。
「2番目を越えない程度に、攻撃開始だ!」
「りょうかい」
エリーがウピッピッピィみたいに叫ぶと、見たことがないほど大きな炎が現れた。
(あっ、これってフレアアローだ)
矢の形はしているが、迸るくらいに燃えている。それが僅かな軌跡を残し、暗青鎧へと命中した。
多角形の板を激しく飛ばしながら、火の粉が弾けるように舞っている。キラキラ系は大好きだから、その様子に思わず見とれてしまった。
(いいね! やっぱりエフェクトはキラキラがいい!)
ラビィがゴッデスヒールをパンクに飛ばした。一気にダメージは受けなくても、少しづつ削られているようだ。
「もういいわよね。シャッ」
ハイズも背後から近づいて、暗青鎧へと剣を振り下ろす。僕の予備とは言え、性能は悪くないはずなのに、あまりダメージエフェクトが飛んでいなかった。
(さすがにボスってことだね。気を引き締めていこう)
「ラルも攻撃して良いんだぞ」
どういうボスなのかの分析をしていたら、自分が攻撃をするのを忘れていた。
「ムーンボール! 狙っていたのさ。主役はあとからやってくる」
「うそつけ」
ごまかせるわけもなかったけれど、僕の調子は上がってきた。
そして暗青鎧が腰をぐっと落とした。
「くるぞ!」
ハイズはすぐに飛び退いて距離をとったが、パンクとルードは、ぎりぎりまで攻撃を続けている。
そして見事攻撃が開始される前に、サッと二人共飛び退いた。
「ルード。やるじゃねぇか」
「ガモォ」
すぐに逃げてしまっては注目を浴びられない。だからといって被弾すれば、余計なダメージでしかなくなる。そんな状況で、完璧な行動を二人はとっていた。
暗青鎧の攻撃がおさまると、ルードはブレイクで攻撃しながら近づいた。わずかにパンクが遅れるが、その程度では注目を奪えないらしい。
「予想以上にすごいけどなぁ。一番は絶対に譲らねぇ!」
パンクは絶え間なく攻撃を繰り返す。ルードも頑張っているのだが、一度も注目を奪えなかった。
(レベル差もあるし、この結果は当然かも知れない。むしろこの状況で、ここまでできるルードを褒めるべきだ)
メインタンクにパンク、サブタンクにルードという役割分担のおかげで、こっちは全く被弾していない。
こうなれば暗青鎧も硬いだけで、安定して戦うことができた。
「これで決めるぜ。カウンターシールド!」
パンクは暗青鎧へ向けて、カウンターの一撃を繰り出した。暗青鎧は多角形の板を撒き散らしながら、パンクの宣言通りに消えていく。
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黒騎士の小手×1 を手に入れました
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「おつかれさま」
「おつかれー」
黒騎士の槍ではなかったけれど、最初で装備がドロップした。幸先が良いなと喜んでいたら、ハイズの浮かない顔が目に入る。
「ハイズ、どうかしたの?」
「えっ? 黒騎士の槍がドロップしなかったから……」
レアに分類されるドロップが、そんなに簡単に出るはずもない。毎回ドロップしないだけで落ち込んでいたら、やる気もなくなってしまうだろう。
「次の楽しみが増えたと思って、次を頑張ろう」
「そうだぜ。俺も大したものは手に入っていないが、全く気にならないからな」
ハイズは俯かせていた顔を上げ、僕らの方へと向けた。
「そうだよね。さっ、次を頑張りましょう!」
気持ちを切り替えられたのか、ハイズはいい感じの笑顔になっていた。