103.中ボスは赤鎧
「かなり順調に来てるな」
パンクが大きめの扉の前で、通路に座り込んでしまう。
「この扉の奥が、試練の広間なんだね」
「そうだ。中での戦闘は長くなるから、今のうちに休憩だ」
パンクの言葉に、僕ら全員も通路に座った。普通なら石でできている床は、冷たくてお尻が冷えてきそうだけれど、そういう風な感じはなかった。
リアル志向のゲームだけれど、そういうところは再現しないというのは、僕が前から開発に好意を持っている部分だ。
「魔物が強いの?」
「いや、数が多いんだ。同時に襲ってくるから、俺が抱えている間に、全員で一体づつ倒す。そういう作戦だな」
試練の広間での作戦が決まると、僕は他のことが気になってくる。
「そう言えばバリアン鉱石って、どこで使えるの?」
「わからないんだ。鍛冶のレシピにもないらしい。だからこの迷宮は、黒騎士の槍を手に入れたら、もう二度とこないって人が多いんだよな」
黒騎士の槍以外の装備の直接ドロップが、どれくらいの性能なのかはわからないけれど、他で代用が効くから、別のゾーンへ行こうってことみたいだ。
(攻略サイトを充実させている検証チームは、少し情報を隠しているフシがある。識別もそうだし、この迷宮でも何かを掴みながら、隠しているのかもしれない)
「さてと。そろそろどうだ?」
そんな僕の思考を、パンクの言葉が打ち破る。
「いいよ」
「いけるわ」
僕らは立ち上がり、パンクが扉をぐっと押した。
--------------------------
僕らが中になだれ込むと、床に魔法陣がいくつか浮かんだ。広間は遮蔽物がなく、反対側の壁に大きな扉が見えた。
広さは十分なので、むしろたくさん魔物が来れば、一気に襲われる危険性もありそうだ。
「まずは5体だ。我が名はパーフェクトタンク!」
魔法陣から現れた動く鎧を、名乗りでおびき出す。僕とエリーは集まってくる動く鎧へ向けて、範囲魔法を撃ち込んだ。
「一定間隔で次々にポップする。さっさと倒していくぜ」
「連撃! シャシャ!」
前にも聞いたハイズの口癖だ。どうやら調子を取り戻したらしい。
「ムーンボール!」
さらにラビィとエリーの水の魔法が飛んで行く。僕の魔法とあわさって、キラキラ感がすごかった。
「魔法陣が光ってきたぜ!」
パンクの言う通り、さっき動く鎧をポップさせた魔法陣が、少しづつ光を強めていく。
「あと2」
サクラが右、左と刀を振るい、さらに一体を葬った。最後の一体へ向けて、エリーのファイアショットが炸裂する。
「赤いのに火の耐性がないのがいいね」
「ああ。だが最後に出現する中ボスは、ランダムで耐性があるから注意だ」
前にも思った気がするけれど、戦闘中よりも、戦闘前に教えて欲しい。でもランダムなら結局どうにもできないし、それほど影響はないだろう。
「よし。次の5体だ! 我が名はパーフェクトタンク!」
ウェーブのように、動く鎧がポップしてきた。
「ムーンボム!」
「ウピピッピィ」
僕の放った青白い光とともに、ファイアボールが飛んで行く。5体の動く鎧は、パンクに到達する前に、いい感じでダメージエフェクトを飛ばしていた。
(このタイミングで撃ち込んで跳ねないって言うのは、かなりの安心感だよね)
そして近接した動く鎧を、一体ずつ倒していく。サクラとハイズの近接と、ラビィとエリーの魔法によって、危なげなく戦闘は続いていった。
合計5回のウェーブを乗り切ると、パンクが声を上げる。
「よし。これで25体だ。中ボスがポップするぞ!」
5つ浮かんでいた魔法陣が一つになり、今までよりも大きくなった。
スッと突然現れた動く鎧は、今までの赤よりも、より濃い赤へと変貌している。
「赤鎧だ。火耐性があるから、水系で攻撃するんだ!」
おそらくいろんな鎧の色がポップするのだろう。そして今回は、比較的問題の少ない火耐性だ。
「我が名はパーフェクトタンク!」
床が揺れるほどの勢いで、赤鎧はパンクへ突進してくる。
(おっ、黒騎士シリーズのレシピをドロップするんだ)
アンコモンだったけれど、この赤鎧のドロップリストには、黒騎士シリーズのレシピが追加されていた。
「ムーンボール」
火耐性などがあったとしても、僕の無魔法には影響はない。ラビィとエリーからも、水の魔法が飛んで行く。
すると赤鎧が、ぐっと腰を落とした。
「離れろ!」
サクラは短距離転移で、ハイズは慌てて後ろへジャンプした。
そこへ両手を斜め下に広げながら、赤鎧がその場で回転する。
「腰を沈めたら範囲攻撃がくる。忘れるな!」
「さ、先に言ってよね」
「言い忘れた!」
パンクらしい感じだ。でも被害はでなかったし、ガリガリの攻略チームってわけでもない。そこに目くじらを立てて糾弾するような仲間は、僕の中にはいない。
「細かいことは気にしちゃだめだよ」
「そうそう。俺も反省してるから、攻撃してくれよ」
「もう、仕方ないわね。連撃! シャシャ!」
ハイズもそれほど怒っているわけではないようだ。しょうがないなぁって感じで、攻撃を再開する。
むしろそれで雰囲気が良くなって、お互いの連携も深まった気がした。
「ムーンスピア!」
僕の魔法にタイミングを合わせるように、ラビィとエリーのウォータランスが飛んで行く。ついでにサクラのお盆も飛んでいることに、思わずクスリとしてしまう。
(でもギャグじゃなくて、より多くのダメージを与えるためだよね)
「カウンターシールド!」
パンクの盾の攻撃で、やっと赤鎧は消え去った。
「おつかれ!」
「おつかれー」
レシピのドロップはなかったけれど、特に危険なこともなく、中ボスまでを攻略した。今回はさすがに何回かヒールしていたけれど、まだまだパンクは余裕がありそうだ。
「今のは迷宮ボスの予行練習みたいなものだ。ボス部屋でも同じように動く鎧がポップして、最後にボスが登場する。使う技も同じだが、威力が違うから気をつけろよ」
同じパターンと聞いてゲンナリする。そこもこの迷宮が人気がない理由かもしれない。
「黒騎士の槍はボスドロップであってる?」
「ああ。このドロップ率上昇の間に、しっかりと手に入れようぜ」
「やっと手に入るかもしれない……」
黒騎士の槍は、僕もできれば手に入れたい。せっかくルードが槍も使えるようになったし、性能がいいのは確実だ。
「でもドロップしても、周回は付き合ってくれよ」
「もちろんだよ」
「いいわよ」
ボスの部屋では、この試練よりも大変になるだろう。どんな戦いになるだろうかと予測しながら、僕は何がドロップするかなとウキウキしていた。