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召喚師で遊ぶVRMMOの話  作者: 北野十人
ロッカテルナ湖を攻略したい
101/176

101.鬼装備の秘密

 南の森へ行こうとギルドを出ると、大通りの方から何か歓声が聞こえてくる。

 

 それがなんなのか気になって、人垣ができている方へと、僕らは近づいた。

 

(あっ、メイド装備をコンプリートしている!) 


 メイド装備を身に着けた女性を囲むように、人垣が出来上がっていた。女性はまるでパフォーマンスをしているかのように、お盆カッターを空へと飛ばし、たまに短距離転移をして周囲を驚かせていた。

 

「どうよ! これがメイド装備の実力よ」


 そう言うと、突然空へとファイアショットを撃ち込んだ。5つの煌めく炎が空に消え、なかなかの迫力を見せている。

 

 ただ真昼なので、もう少し暗ければもっと映えていただろう。

 

「メイドさーん。こっちにお盆ください!」 

「お、俺も欲しい!」


 何人かが女性を囃し立てるようにして、お盆の攻撃をねだっていた。

 

(なんだこれ……)


 プレイヤーに攻撃はできないので、女性が放つお盆カッターは、男たちの前で砕けて消える。

 

 何が楽しいのかわからないけれど、一部に強烈なファンも居るようだ。

 

(メイド萌えって、こんなに根強いのか)


 そもそもメイド萌えという文化は、いつごろ発生したのかわからないほどの昔だ。今では少数派だけれど、ぺったんこ最高の時代もあったらしい。

 

 なんとか萌えが残っているのは、やはりゲームの影響もあるだろう。でも僕はメイドもぺったんこも、どっちの趣味も持っていなかった。

 

「メイドってそんなにいいかな……」

「そこの君! メイドの良さがわからないの?」


 小さくつぶやいたはずなのに、パフォーマンスをしていた女性には聞こえたらしい。そのせいで周りの人達からも、いきなり注目を浴びてしまう。

 

 戸惑っている僕に向けて、女性が重ねて質問してきた。

 

「どうなの? メイドって素敵でしょ?」


 女性はくねくねと体を動かしながら、そんな風に聞いてくる。真っ赤なショートカットという、行動力があって活発そうな女性は、スレンダーな体型をしていた。美化機能があるからわからないけれど、リアルだったらびっくりするくらいの美女だった。

 

 ただ僕の好みは、セクシーな大人の女性だ。特に体のラインがわかるような、バニーガールみたいなのがいい。でもこのバニーガールというのも、時代をどれだけ遡ればいいのかはっきりしないくらい、昔からある萌えかもしれない。

 

 今の時代は自分の意思で、ある程度は体型などを変更できる。最近の流行りで言うならば、自らをエキセントリックに変化させた、ものすごいスレンダーな女性が人気だ。だからこそ僕は、流行からは外れているけれど、天然のセクシーガールが好きなのだ。


「メイド素敵です」

 

 でも僕の答えは『メイド素敵です』にした。ここで少数派の意見を言ったところで、面倒事しか起こらないのは目に見えている。

 

「当然だろ。こいつもメイド装備をコンプリートしているからな!」 

 

 いつか見た剣士だ。メイド好きは変わらないらしく、当然のようにここにいた。

 

(見に来ないほうがよかったな。早く狩りに行きたい)


「おい。こいつ妖精みたいのを連れているぞ!」

「まじか! どけ。妖精なんてどこにいたんだよ!」


 だんだん騒ぎになってきた。囲まれる前になんとか逃げ出してしまおう。

 

 僕はチェルナーレの東のポータルへ向けて、大通りを走りはじめる。するといきなり目の前に、さっきの女性が現れた。

 

(短距離転移か!)

 

「逃しませーん」


 本当に面倒くさい連中だった。僕はこの場を切り抜けるために、ラビィとエリーを送還する。


「妖精が消えたぞ」

「どこいった?」


 召喚師に詳しくないのか、どこかへ逃げたと思っているみたいだ。そこへ僕は、サクラを召喚した。

 

「サクラ召喚!」 


 突然現れたメイド姿のサクラに、追いかけてきた連中の足が止まる。

 

「それでは失礼!」

「あっ、待ちなさいよ」


 僕は女性の脇を抜け、再びポータルへと走り出す。短距離転移のリキャストタイムは30秒あるので、十分に逃げ切れるだろう。

 

 僕はサクラに、いわゆる剣舞をお願いした。するとサクラは二本の刀を持ち、戦っているかのように舞い始める。

 

 後ろを向いて確認すると、みんなそれに見とれているようだ。

 

(作戦成功! サクラ送還!) 

 

 十分な距離をとった後で、サクラを送還して脱出する。逃げやがったとうっすら声が聞こえるけれど、僕はさっさとポータルまで逃げて、クランハウスへと戻ることにした。

 

--------------------------


 エントランスホールのソファに座ると、なんだかどっと疲れが押し寄せてきた。ルードは全身鎧を着ていたからか、特に注目されることもなく、僕の隣りに座っている。


「ひどい目にあったね」

「ガモォ」


 心なしか、ルードも元気がないように思える。このまま南の森へ行っても絡まれそうで、なんだか行く気がなくなってきた。

 

「そうだ。そう言えばルードもレベルがあがっているよね」

「ガモォ」

 

 僕はルードのステータスを確認した。

 

「よし。これなら鬼シリーズすべてを装備できるよ」


 僕がソファから立ち上がると、ルードもすぐに立ち上がる。


 僕は『鬼の兜』『鬼の鎧』『鬼の手甲』『鬼の足甲』の4つを、ルードへと手渡した。すると鉄の全身鎧は消え去り、銀色の鬼がそこに現れた。

 

「格好いい。銀色の鎧の上に、薄っすらとオーラが見えるよ。いいよ、最高だよ!」


 自分がタンクをするために作成した装備だったけれど、筋力が足りなくて装備できなかった。でもこうしてルードが装備してくれることで、作成してよかったなと心から思える。

 

「ガモォ!」


>>>>>>>

『鬼の指輪』の力を解放しますか?

<<<<<<< 


「ふえっ」


 思わず変な声が出てしまう。今までこんなメッセージは見たことがない。指輪の力を開放したら、一体何が起こるのだろう。

 

(ルードが鬼になる……とか。まさかね) 

 

 おそらくは鬼シリーズを装備することが、キーになっているのだろう。でも何が起こるのか、ちょっと予想ができない。

 

 でもこれが仮にプレイヤーだったとしたら、種族が変わるとかあり得ない。きっと何かしらのプラスが得られるだけだと予想する。

 

「よし。解放だ!」


 ルードの鬼の指輪が輝き出した。それと同時に、鬼シリーズの装備も輝き出す。

 

「まぶっ」 

 

 このゲームではよくあることだけど、何かが起きる時には眩しいほどに輝き出す。それを予想できずにまともに見てしまった僕は、他に人がいれば笑われたかもしれない。

 

「おっ、すごい」 

 

 やがて光が落ち着いて、新たなルードの姿を見ると、そんな小さな事は吹き飛んだ。銀色の鎧が、白銀の鎧な感じに見え、黄金のオーラと混ざり合って、神々しく変化している。


「ガモォ」 

「おっ、なんかすげぇやつがいるな」


 声の方に顔を向けると、そこにはパンクがいた。

 

「あっ、パンク。久しぶりだね」 

「いよっ。もしかして新しいメンバーか?」


 僕は顔を左右に振る。

 

「違うよ。僕の召喚獣。ルードさ」 

「へー。なんかすごい鎧だな。強いのか?」 


 装備を確認すると、全て『鬼の』から『銀鬼の』に名前が変わっていた。さらに必要筋力は変わっていないのに、軒並み10%くらい性能が向上している。

 

「かなり硬いね。ババリア鉱石で作成した鎧の、強化版だから」

「ババリアって強化できるのか。すげえな」


 ルードの鎧を見ながら、パンクは感心したように何度も頷いていた。今なら同じものを作成できるけれど、クランメンバーとは言え、無料とかにするとトラブルのもとになる。

「多分同じものが作成できるけれど、ちょっと高くなるかも」 

「いや、大丈夫だ。俺の装備もババリアの全身鎧だからな。今のところやばい相手もいないし、更新する時はドーンっと派手にするぜ」 

 

 鍛冶で作成できる普通の全身鎧を、ババリアで作成しているらしい。ただパンクは鍛冶をしていないので、オークションか知り合いに作成してもらったのだろう。

 

ハイズ・ロフト:こんにちは。今、話をしても大丈夫?


 とかやっていたら、いきなりメッセージが届いた。でもメッセージは突然くるものなので、落ち着いて僕は返答する。

 

ラル:こんにちは。いいよ

ハイズ・ロフト:実は鬼の村長装備を手に入れたんだよね。いろいろあって3組みあるんだけど、よかったら『黒騎士の修練場』に一緒に行ってくれない?


 思いもよらぬ申し出だった。鬼の村長装備は、落ち着いたらパンクに頼もうと思っていた。でもハイズから手に入るなら、予想していたよりも早く迷宮に行けそうだ。

 

「黒騎士の修練場に行かないかって、友達から誘いが来たよ」 

「お、ラルって行けるのか? 黒騎士シリーズが欲しいんだが、俺も一緒に行っていいか?」

「ちょっと待ってね」


 それを確認する前に、装備の取引の話をまとめてしまおう。

 

ラル:いくらで売ってくれるの? 

ハイズ・ロフト:性能は関係ないし、一組3000ウェドでどう? 

ラル:余っているなら二組買うよ。友達を一人連れて行ってもいい? 

ハイズ・ロフト:オーケー。なら騎士団の詰め所で待ってるわ

ラル:あとでね


「一緒で大丈夫だって。騎士団の詰め所で待ってるってさ」

「よし。なら行こうぜ」


 僕らは騎士団の詰め所へと向かった。

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