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召喚師で遊ぶVRMMOの話  作者: 北野十人
ロッカテルナ湖を攻略したい
100/176

100.秘伝習得

 冒険者ギルドへと入ると、いつものようにマリーが挨拶をしてくれる。

 

「おかえりなさい。ハヤテさんと一緒なんですね」

「ただいま。そうなんだ。試験があるんだって」

「訓練場を借りるぞ」

「はい」


 真剣な感じのハヤテに、マリーは短く返事をする。僕もそれで少しづつ、緊張が高まってきた。

 

(思ったよりも難しい試験なのかな。でもがんばるぞ) 

 

 僕はハヤテについて、訓練場への階段を降りていった。すれ違う時にマリーがウィンクをしてくれたので、僕のやる気は最高潮だ。

  

--------------------------


 訓練場に来ると、相変わらず誰もいなかった。インスタンスだから当然というのもあるけれど、演出的にも必要ないからだろう。


 俺と戦えとか言われたら、どうしようかとドキドキする。対人戦はあまり好きではないし、プレイヤー同士で強さを競ったところで、何かが生まれるわけでもない。

 

 ただ勝たなければ秘伝は手に入らないとかならば、好きではないけれど頑張るだけだ。


「あの棒が見えるか?」


 そんな不安を感じていたら、ハヤテが訓練場の中央を指差した。

 

 そこには太さが10センチくらいの棒が立っている。もしかしたら戦えとかではなく、あれを斬ってみろとかかもしれない。

 

「あの棒を斬ってもらう。ただし10秒間で10回斬れなければ、試験は不合格だ」


 頭のなかで計算をする。でも意識して計算しなくても、1秒に1回の成功が必要なのはすぐに分かった。

 

「ラルがいつも使っている剣を使うが良い。準備はいいか?」 

「ちょっと待って下さい」


 話の展開が早すぎて、気持ちが落ち着いていない。戦わなくていいのはよかったけれど、これはこれで難易度が高そうだ。

 

(棒を斬ったら、次の棒が生えてくるのかな? まあそこは僕が気にするところではないか。ちゃんと何回でも斬れるようになっているはずだ)


 次々地面から生えてくる棒をイメージしたら、なんだか面白くなってきた。緊張もほぐれてきたので、そろそろ挑戦してみよう。

 

「準備いいです」

「よし。開始だ」


 僕が返事をした途端、メッセージが表示される。

 

 ピンポーン。

 

『ミニゲーム瞬速斬を開始します。10秒以内に、棒を10回切ってください』


 僕は水平に剣を振り、棒を上下に分断した。すると斬った棒はスゥッと消え、新しい棒が出現する。

 

(そういうミニゲームなのか)


 僕は剣を返し、再び棒に向けて剣を振る。さすがに剣スキルが9あるだけあって、ゲームの中では達人のように剣を扱えた。

 

 でもギリギリな気がする。2回切っただけで、2秒以上使っている気がした。

 

(斬り方が悪いのかな。それともステータスが足りないのか……) 

 

 3回、4回と剣を振るうが、特に素早くはならない。棒を斬る事には成功しているが、このままでは間に合わないだろう。

 

 切るたびに、すぐに復活してくれる棒だけど、純粋に斬る速さが足りないのかもしれない。でも諦めるという選択はない。なんとかして素早く棒を斬るんだ。

 

(斬り方を変える!)

 

 僕は左上から右下へ剣を振り下ろすと、そのまま返すことなく、左下へと斬りつける。こうすることで、左から右、右から左のように、剣を返す必要がなくなるので、タイムを縮めることができた。

 

 斜めに斬って、斜めに斬る。それでも僕の剣はスキルのおかげか、しっかりと棒を切断できた。

 

 さっきとは違って、一度剣を返すだけで、二回も棒に斬りつけることができる。

 

 このおかげで体感できるほどに、時間短縮ができていた。

 

(間に合え!)


 7回、8回と剣を振る。最初の遅れがあるから、もう時間は残り少ないはずだ。

 

 9回、もう時間は本当にギリギリだろう。

 

 そして10回と棒に斬りつける。カッと気持ちいい音を立て、棒は復活することなく、スゥッと消えたままになった。

 

 僕は思わずハヤテの方を見るが、難しい顔をしたままで、何も言ってはくれない。

 

 やがてふっと顔を上げたハヤテに、僕の心臓がどきりとする。

 

「合格だ!」

「やった!」

「おめでとうですの!」


 僕は駆け寄ってきたラビィを抱きしめ、そのまま何度も回転する。

 

 ルードやエリーはそれを見ているだけだったけれど、おめでとうの感情は伝わってきた。

 

 それが落ち着いてくると、ハヤテが僕の方へとやってくる。

 

「この技は瞬速剣。絶対にかわされることのない攻撃だ」  

 

 僕が剣スキルを確認すると、レベル1のところに、瞬速剣が追加されていた。どうやら神速剣の初歩の技らしい。

  

「ありがとうございます」

「精進しろよ。ではまたどこかで会おう」


 ハヤテは訓練場から出ていった。

 

 僕は初めての秘伝に、興奮してなんだかジャンプを繰り返してしまった。


--------------------------

 

 思わぬところで収穫を得た僕は、意気揚々と受付に戻る。

 

「おめでとうございます。秘伝習得ですね」 

「ありがとう。これもマリーのおかげだよ」


 さり気なくウィンクで応援してくれたことに、僕は感謝の気持ちを込めて言った。

 

「えっ、私のおかげですか?」


 スッと首をかしげ、なんですかって感じで聞いてくる。本当に思い当たらないって感じだけれど、僕はもうマリーの性格を知っている。

 

「わかってるくせに」 

「ふふふっ。でも習得できたのは、ラルさんの力ですよ」


 そう言われると嬉しくなる。でもなんて言っていいかわからなくて、ただマリーを見つめてしまった。

 

「ドロッピーの祝福は、3日くらいだそうですね」


 そんな僕に、マリーの方から気を使って話しかけてくれたみたいだ。でもそのことよりも、話の内容にびっくりする。

 

「えっ、そうなの? そう言えば期間を確認していなかったよ」

 

 勝手に1週間くらいありそうだと思っていたけれど、意外に期間は短いらしい。ならばなおのこと、集中的に戦っていこう。

 

「その後はクラン実装を祝って、クラン対抗戦が始まるそうですよ。今までイベントをしていなかった分、イベント祭りですね」 

 

 クラン対抗戦という言葉だけだと、なんとなく集団戦で戦うイメージしか思い浮かばない。僕は対人戦は好きではないし、そういうイベントなら回避するだろう。

 

「クラン対抗戦って、プレイヤー対プレイヤーなの?」

「直接戦うわけではなく、フィールドでドロップするアイテムを、より多く集めたほうが勝利。みたいな感じですね」

 

 その話を聞いて安心する。クランに入ってさえいれば、ほとんどの人が自然とイベントに参加できるシステムだ。

 

「それならいいかもね」 

「実装したばかりでなかなか貯まらないクランポイントを、ここで稼いじゃいましょうっていうイベントですから。プレイヤーが直接戦うような、殺伐としたものではありません」


 ある程度の施設を作成したから、あまりクランポイントは気にしていなかった。ちょっと確認してみると、いつのまにか521ポイントも貯まっている。

 

(誰かがクランクエストとかもやっているのかな。ドロップ率上昇もあるから、純粋な戦闘でも稼げているのかもしれない) 

 

「レア好きのラルさんなら、今こそ戦うときですよ」 

 

 考えに没頭しそうになった時、いいタイミングでマリーが声をかけてくれた。

 

「そうだね。行ってくるよ」

「いってらっしゃい」 

 

 僕らは冒険者ギルドを出て、南の森へ向かうことにした。

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