10.ラビィは強い
幸いにも服屋さんの場所はマップで確認できた。すでにプレイヤーのほとんどは次の街を拠点にしているようで、ラビィを連れていても目立つことはなかった。
「ここだね」
ファンシーな入り口の服屋さんの中へ入ると、意外と地味地味な店内だった。並んでいる服の色がまず地味で、初期装備と大差ない。でもレジにいる女の子は、ピンク系のドレスで目立っていた。
「いらっしゃあい。探し物?」
「はい。ラビィの、この子の服を探してます」
「あらぁ、可愛い子ね」
女の子はレジから出て、こっちへ近づいてくる。そしてラビィと視線を合わせるように、ドレスをふわりとさせて前にしゃがみ込んだ。
「名前は?」
「ラビィ」
ちょっと怯えた感じで、ラビィが答えた。どうやらラビィは人見知りらしい。
「イメージにぴったりな可愛い名前ね」
緊張をほぐすかのように、女の子がニコリとした。
「マスターにつけてもらったナァ」
名前を褒めたのがよかったのか、ラビィも柔らかな表情になる。
「そうなんだ。ラビィちゃんはとても可愛いので、私が服を選んでもいいですか?」
視線を僕へと変えて、女の子はそう尋ねてきた。女性の服を選んだことなんてないし、僕が選ぶよりは良いだろう。
「おねがい」
僕がそう答えると、少しだけラビィが不安そうな顔になる。
「ラビィ。大丈夫だから、服を選んでもらってきて。あ、2000ウェドまででお願いします」
「おまかせぇ」
女の子がラビィの手を引いて、店の奥へと消えていく。小さい店だと思ったけれど、服の陰に隠れて見えないだけで、意外と奥があるみたいだ。
今のところ僕は『小鬼のTシャツ』があるので、服を買う予定はない。前衛でバリバリと防御役をやる予定もないので、防具的なものは後回しだ。
「おまたせナァ」
声に視線を向けると、そこにラビィが立っていた。薄いブルーのワンピースを着たラビィは、快活さよりも清楚感が増していた。
「似合うかナァ」
「うん。可愛いよ。ラビィ」
白い肌のラビィの頬が、すぅっと赤く染まっていく。ちょっと俯いた瞬間、顔を上げて突進してきた。
「っとぉ」
「マスター。私、頑張るナァ」
本気ではなかったらしく、なんとか受け止めることができた。僕は抱きしめながら、ラビィの頭を撫でてあげる。
「頑張ろうね」
女の子のニコニコとした視線を浴びながら、お金を払って店を出た。
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ワンピースの値段は1500ウェドだった。お金稼ぎでクエストを考えていたけれど、そこでふっと気になった。
「ラビィ。バトルラビットの討伐をするけど、いいのかな?」
「もちろんいいナァ」
笑顔で返事をするラビィは、嘘をついているようには見えない。姿は違えど同族狩りになるので気になったのだけど、本当に問題ない感じがする。
そんな僕の不安を感じ取ったのか、ラビィが口を開いた。
「同じ種族なのを気にしてるナァ? そんなの関係ないナァ。弱いのが負けるのは当然ナァ」
清楚で可愛い感じのラビィから、意外にバイオレンスな言葉が飛び出した。この思考は魔物特有な気がする。せっかく契約したのに戦えないとか言わないための、そういう措置なのかもしれない。
「よかった。ならどんどん狩って、お金を貯めようね」
「はいナァ!」
僕らは意気揚々と、南の門へと歩いていった。
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相変わらずバトルラビット狩りをしている人はみあたらない。
「ラビィ。どれくらい戦えるか見せてくれるかい」
「もちろんだナァ」
そう言うとラビィは、一番近くにいたバトルラビットに視線を向ける。
「えっ?」
ラビィが一瞬にして消えた。ゴッという音に顔を向けると、ラビィがバトルラビットにタックルをしていた。
(突進か? 五メートルくらいあったのに、一瞬で間合いを詰めている)
タックルを受けて僅かに体を浮かせているバトルラビットへ、ラビィは追い打ちをかけた。
「アクアショットナァ!」
その一撃でバトルラビットは多角形の板に変わって消えていく。
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うさぎのしっぽ×1
うさぎの皮×1
獣エッセンス×3 を手に入れました
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「すごいよ、ラビィ」
「やったナァ!」
ラビィの初戦闘は圧倒的に終わった。ステータスも初期プレイヤーと遜色ないので、当然といえば当然の結果だった。でもワクワクする。これで召喚師としての本領が、これから発揮できるのだ。
「危なくないようだから、この調子でどんどん狩るよ」
「まかせてナァ」
僕らはお互いに獲物を探し、門前のバトルラビットを倒していく。