兄妹 + 猫
「えっ?お兄様が帰って来た?」
「アルドがか?」
「はい。ご帰宅なされました」
「何故だ?」
お父様が家族全員が思っている疑問を口にした途端、ダイニングルームのドアがバーンと開かれた。カティアもだけど、勢いよく開け過ぎじゃなかろうか。ただ、それだけ急いでるって事なんだろうけど。
「シフィル、無事かい?」
「お兄様!!」
開口一番の呼びかけに、私は席を立って応えた。そのまま、お兄様の元に向かう。すると、両肩をガシっと掴まれた。
「シフィル、無事目覚めて良かった。木から落ちたと聞いたけど、ケガは大丈夫なのかい?」
お兄様が顔を覗き込んでくる。
ーち、近い!!瞼が腫れてるのがバレちゃうよ〜。勘弁して〜。
「だ、大丈夫ですよ、お兄様。頭をぶつけてタンコブができただけなのです」
「タンコブが!それは可哀想に。痛かっただろう?」
「痛かったですが、先生に診て頂きましたから、もう大丈夫です。痛みももうありません」
「そうかい。それは良かった」
お兄様がほっと安堵のため息をついた。だが、安堵できたのは一瞬の事だった。何故なら、ため息をついた直後に部屋の中にブリザードが吹き荒れたから。
「『良かった』ではありませんよ。何故アルドがここにいるのです?」
お母様は笑顔だった。けれど、その笑顔が超怖かった。
ーひいぃぃぃ、笑顔でメッチャ怒ってるぅ。
「し、シフィルが心配だったからです」
「そうですか。ですが、お父様が『シフィルは無事目覚めた』とお手紙を出したでしょう?」
「えっ?そうなのですか?受け取ってませんが…」
そのお兄様のキョトンとした表情にお母様の怒りも解けたようだ。良かった。
ーあのままだったら、私の胃が痛くなるところだったよ。
「そうなのですね。では、行き違いになったのかもしれませんね」
「恐らくはそうなのだと思います。1通目の手紙を読んですぐにこちらに向かいましたから。ですが、問題ありませんよ」
「問題有りますよ!大有りです!!」
私は、思わずこう叫んだ。だって
「学院はまだお休みではないでしょう!」
「そもそも最初の手紙に『落ち着くように。続報を待て』と書いただろう?」
お父様が困惑しているが、お兄様はそんなお父様の様子を気にはしていないようだ。
「書いてありましたが、大人しく待っているなんて出来ませんよ!」
「全く、この子は…」
お母様がこめかみに手を当てながら、ため息をついた。
「すみません。でも、可愛い妹が木から落ちて意識不明だと知ったら、帰って来るしかないですよ」
「そうね」
お母様は弱々しく微笑んだ。きっと、何を言っても無駄だと思っているのだろう。ただ、お母様はそんな様子だけど、私は違う!お兄様のその想いが嬉しくて仕方がない。
「お兄様!!」
私はお兄様に抱きついた。
ーお兄様、大好き!!こんなに優しくて頼りになるお兄様は他にいないよ!シフィルは感激しました!!
私はお兄様が大好きだ。
お兄様は妹達にすごく優しい。だけど、優し過ぎる訳ではなくて、叱る時にはちゃんと叱ってくれる。私が我がままを言って癇癪を起こしても、決して感情的にならずに穏やかに諭してくれるのだ。
優しいけど、甘やかしはしない。それが、すごい。私には真似出来ない。
私はつい、カティアに甘くなってしまう。うぅ。反省。
そんなカティアの事も勿論大好きである。
カティアは私の3歳年下の5歳。もう可愛い盛りだ。いや、カティアならいつでも可愛い盛りだが。
カティアはほわほわとしてて、明るくて、我が家のムードメーカー。カティアがいるだけで、雰囲気が明るくなる、皆が笑顔になる。それってすごい!!
両親の事は大好きだし、祖父母も大好きだが、兄妹は特別だ。だけど、何か理由があって特別な存在になった訳ではない。
のだけど…。
実は、隠れた理由があったのかも。
私の前世の真衣子は1人っ子だった。ずっと兄や姉、弟や妹が欲しいと思っていた。だから、前世を思い出せなくても、心の奥底で喜んでいたのかも。2人の存在を。
前世の夢が叶ったわけだ。まだ転生に対して色々と複雑な想いがあるけれど、それでも兄妹がいる事は素直に嬉しい。
そして、2人と同じように特別な存在が他にもいる。
それは、我が家の猫のノワール!!漆黒のフワフワで艶やかな毛、黄玉のような麗しい金の瞳。スラリとした均整のとれた体躯。美しいのに可愛らしさもある顔。
そのどれか1つだけでも素晴らしいのに、それを全て兼ね揃えているだなんて!
嗚呼、美の女神は何という珠玉の存在をこの地に与え給うたのか。感謝してもしきれない。
ノワールは、私にとってはもう1人(もう1匹)の妹だと言うくらい、大事な存在だ。
ーカティアとノワールは私の天使、いや女神様だ!!
そんな訳で、早い話、私はブラコンでシスコンで猫コンなのであった。