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身代わりアリス

作者: 一花八華

「ああアリス。やっと見つけたーーーー!!!!君は可愛いねー。ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと側にいてね。」


ニコニコと笑うチェシャ猫に、私は悪寒を覚える。


「あのね。チェシャ猫。私はアリスじゃないの。有紗。私の名前は結城有紗。貴方のアリスじゃないし、絶対にアリスになれないから!」


花が歌い、魚が空を飛ぶ。おかしなおかしな森の中、私は絶叫しながらひたすら逃げている。背中を走る悪寒とこれから訪れるであろう未来に絶望しながら。後方からは、愉しそうに笑うチェシャ猫の声。



いやだいやだいやだいやだ!


いくらイケメンだらけでも、私はアリスの身代わりなんて断じてごめんだ!!バッドendはノーセンキュー!逆ハーもハピエンもいりません!だから元の世界に私を返してーー!!



◇◇◇



ここは【僕だけのアリス】という乙女ゲームの中だ。

主人公は、アリスの魂を持った少女で、攻略対象とのやり取りの中でアリスの記憶を取り戻していく。という物語。


唐突に迷い込んだその世界で、互いに惹かれ合う少女とイケメン達。


少女にアリスの面影をみて苦悩する白うさぎ。偽物アリスを憎み拒絶するチェシャ猫。迷い込んだ少女に興味を持ち、おかしな戯言で少女の反応を楽しむマッドハッター。少女を慕い、僕のアリスになってと哀願するヤマネ。悪戯好きで、少女に絡み嫌がらせばかりしてくる双子のディムとダム。


有名絵師さんと豪華スチル。人気声優さんの起用で、とても人気のあった乙女ゲーム。かくいう私も、それにはまった乙女(突っ込みは無しで)の一人だ。


気づいた時には、私は此処にいたのだ。最初に思ったのは、夢だった。これは、夢の世界でいつか覚めるものだと。色とりどりの不思議な世界を彷徨いながら、よくもまぁこんな想像力があったもんだな。と我ながら自分の妄想力に関心したのだった。


「此処は、夢の中じゃないよ。これは現実。そして君はもう戻れない。」


キャピタと名乗る少年が、私にそう告げた。フードを目深に被り、たるんたるんローブを引き摺りながら、キセルを片手に気怠そうに告げた。


「前のアリスも、その前のアリスも、アリスになれなかったから。」


「君が選ばれた。」


そう笑った。


「選ばれた?」

「そう。【僕だけのアリス】あれ、ゲームじゃないよ?」

「え?」

「あれはね。アリスを探すツールだったんだ。そう。アリスの魂を持つ女性。アリスになれる女性。それを見つけるツール。」


「アリスになれそうな人は、何人かいたんだけどね。アリスになりきれずに・・・・壊れちゃった。」


残念そうに呟くキャピタの瞳は、残酷なほど穢れがなく純粋で、いい寄れぬ恐怖が私の背中を這った。


「大変だったんだよ。君を見つけるまで、たくさんの人が犠牲になった。」


まるで全てが、私のせいと言うようにキャピタは詰った。


「どういう事?壊れたって?犠牲って?」


「この世界は、アリスの為に存在している。アリスがいないとダメなんだ。アリスが必要なんだよ。例え偽物でも。」


私の質問に答える事なく、キャピタは淡々と話続ける。


「さぁ。アリス。すべてを思い出して。そして選んで。」


「君の選択を僕は見届けよう。」


キャピタは、そう告げるとキセルの煙を私に吹き掛けた。


「うわっ!?」


思わず目を瞑る。再び開けた時には、そこにキャピタの姿はなかった。




◇◇◇


この世界が、あの【僕だけのアリス】だとしよう。ならば、私はあの美麗でおかしなイケメン達を攻略しなければいけないのだろうか?いやいやいや。確かに攻略対象は、イケメンでイケボだった。特に王子様のような甘い外見と中身の白うさぎ。黒髪サラサラ、陰あり美形のツンデレチェシャ猫。は、ものすごくものすごく好みだ。でもね。ヤンデルんですよ。二人とも。


・・・・いや、二人と言わず全てのキャラが病んでるの!


王子系白うさぎは、寂して死んじゃう!どころか死んでやる!っなキャラだし・・・・。ツンデレチェシャ猫は、アリス依存症で主人公の人格否定。アリスを愛しすぎてて、好きになった主人公がアリスじゃない事が許せない。四六時中アリスアリスと囁かれ、次第に主人公の精神が壊れていく・・・・。他の攻略キャラも束縛、監禁、呂辱、etc.


とてもじゃないけど、私には手が余る。


記憶を取り戻し、各々と幸せな愛を育むとか、全員攻略してハート女王になり全てから愛される逆ハーendとか・・・・色々あったけれど。


うん。バッドendが怖すぎる。あれだよね?今まで犠牲になった・・・・とかいう人達って・・・・みんなバッドendだったって事だよね??



怖いよ。こわいこわいこわい。


だから、なるべく攻略対象に出くわさないよう。ひっそりこっそりと逃げ回っていたのに。


見つかってしまった。


チェシャ猫に。


「なんで逃げるのー?あっそっかー。追いかけっこ?アリスは相変わらず遊ぶのが好きだねー。いーよー。俺が鬼だね。うん。早く逃げて。捕まえるから。逃げてね逃げて。絶対逃がさない。だから逃げて。アリス。あはははははははははははは。」


恐怖だ。森の中、チェシャ猫の笑い声が響く。なんのホラー??っというか好感度がおかしい!チェシャ猫って最初、主人公に対してツンがデフォだったよね??ツンデレ通り越して、ヤンデレってるんですけど!!いきなりアリス呼びなんですけど!!これ、最初からクライマックス!バッドエンド確定パターンじゃないですか!?


「なんで、私が・・・・こんな・・・・めに」


息が続かない。恐怖と混乱で足がへたりそう。でもだめだ。ここで立ち止まったら、それこそ終わりだ。私も他の人と同じように・・・・壊されてしまう。兎に角逃げないと・・・・


「ほらー。アーリス。もっとがんばらないとー。すぐに追いついちゃうよー。」


ーがっ!


どさっ!!


「ーっい!」


痛い!足を捻ったみたい。


「大丈夫?アリス?こけちゃったの?相変わらず鈍臭いねー。仕方ないなー。俺にみせて。」


すぐ背後で声がする。「ひっ!?」振り向けば、チェシャ猫の顔。目元を緩め口角をめいいっぱいにあげたあのスマイルがそこに。


「やだ!こないで!」

「こないでこないでこないでこないで!!」


必死に抵抗をする。だって私はアリスじゃないから。アリスじゃない私は、チェシャ猫に壊されてしまう!


「ちょっ!いたっ・・・・痛いって!本気で叩くのやめろってば!」

「やめて!私はアリスじゃない!アリスの代わりなら他をあたって!」


わんわん泣きながらバシバシとチェシャ猫を叩く。足が痛くて動けない。でも此処で捕まったら私は終わりだ。こんな訳のわからない所でこのまま終わりを迎えたくなんてない。


「いや他をあたれる訳ないし・・・・あんたがアリスなのは、代わらないんだから・・・・」


ため息とともに、わしわしと頭を撫でられる。


「悪い。悪戯が過ぎた。あのゲームに思う事あって・・・・。ちょっと再現してやったら面白いかなーなんて。」


バツの悪そうな声で、チェシャ猫が呟く。


「大体あんたが俺らの事避けまくるから、会ってもないのに嫌われてるし、ムカついて仕返ししたくなるのは仕方ないだろ。」


見上げると不貞腐れた顔のチェシャ猫が、


「仕方なくありません。何を勝手に追いかけ回し、怪我までさせてるんですか!チェシャ猫!」


森に怒声が響く。声のした方を見ると、柔らかな金糸の髪にヘーゼルブラウンの瞳の青年が、腕を組み仁王立ちでこちらを見ていた。


「げっ!白うさぎ!」

「げっ!じゃありません!貴方は本当にいつもいつも勝手な行動ばかりして!私言いましたよね!候補者さんを虐めてはダメだって!見つけたら手厚く保護しろって!」


ものすごい剣幕で、チェシャ猫に詰め寄る青年。え?もしかしてこれが白うさぎ?うそ?だって白うさぎって温和で寂しがり屋で怒る事とは縁遠いような性格じゃ・・・・。


「ああ。すみません。色々混乱してますよね。怪我の手当てと説明もさせていただきたいので・・・・すみませんが一緒に来ていただけませんか?候補者様。」


座り込んだままの私に、膝を付き片手を差し出す白うさぎ。流れるような動作がまるで王子様みたいだなー。っと思った。




◇◇◇


結論を言うと、此処は異世界でした。この世界は【アリス】という存在を必要としている。【アリス】という存在に作られた世界らしい。アリスの幸せな気持ちが、この世界を維持させる。それで、あのゲームで「こんな世界に行ってみたいなー」っと願った人を呼び寄せてたみたいなのだが・・・・色々と上手くいかなかったらしい。


この世界にきたからって、イケメンと恋ができるわけでもないしね。キャラは誇張されたものだし、白うさぎ、チェシャ猫、帽子屋さん、トランプの兵さんやハートの女王(縦ドリルの可愛いツンデレな女王様)にだって人格がある。


キャピタの言う「壊れた。犠牲。」というのも、アリスに対する幻想が壊れたとか、その為に犠牲になったイケメン達の尊厳だとかなんとか・・・・紛らわしいよ!キャピタ!


まー色んな誤解も解けて、なんだかんだで私もこの世界で自分の役割を果たそうと頑張っています。



ー・・・・私、アリスだったみたいなんです。前世の記憶が戻り判明しました。


元の世界にはキャピタの魔法でお手軽に帰れるので、週末だけこっちでアリスやってます。といっても、ハートの女王とガールズトークしたり、ヤマネとパジャマパーティーしたり、帽子屋さんとファッションデザインを一緒に考えて作成したり、みんなでお茶会したり舞踏会に参加させてもらったり・・・・うん。楽しい日々を過ごさせてもらってる。


楽しい筈なんだけど、少し不満が・・・・それは、チェシャ猫が相変わらず私にキツイ事。


「お前はアリスじゃないからな。アリスぶるな。」


ことある事に、私に嫌味を言ってくる。確かに前世の記憶があって、魂もアリスであっても、私はアリスじゃない。この世界を作った、初めのアリスには戻れない。


「そんな事わかってる。」

「俺はお前を、アリスとして見てないから。」


「・・・・初対面の時は、あんなにアリスアリスと言って追いかけ回した癖に。」


あれは怖かった。ヤンデレの怖さを感じたもの。


「あれは、悪戯だったって言っただろ。あんなんキャラ付けされて俺もうんざりきてたんだよ!くるアリスくるアリス、俺にあのゲームのチェシャ猫を求めるし!俺はあのチェシャ猫じゃねー!ヤンデレの振りしたら、面白いように避けるから、のっかってやってたんだ。」


ー犠牲になってたチェシャ猫や白うさぎの人格。自分を否定され続けたら、辛いよね。


「だから、俺はお前がアリスだなんて思わないから。お前はお前のままでいればいい。有紗。」


そう言って何故か私を抱き寄せた。


んん?なんで?チェシャ猫・・私の事嫌ってた筈じゃ・・・・。


「なーにーをーやってるんですか?チェシャ猫ー??」


後ろから、聞きなれた怒りの声。えっとこれは・・・・


「っち、白うさぎ。」


チェシャ猫が、忌々し気に呟く。


「有紗。会いたかったです。この5日間・・・・貴女に会えなくて、私は寂しくて死にそうでした。」


そう言って、私をチェシャ猫から引き離すとギュッと抱き締めてきた。


「あああの・・・・白うさぎ?」

「しっ。黙って。久しぶりの有紗を補給させて下さい。」


抱き抱えられ、頬ずりされる。うわわわわ。白うさぎは、見た目と違って肉食系。ロールキャベツ男子という奴で、事ある毎に、私に愛を囁きスキンシップを試みてくる。


「早く私のお嫁さんになって下さい。貴女の花嫁姿が私は待ち遠しい。」

「いやいやいやいや、白うさぎってクラブの国の王子だよね?そのお嫁さんって、未来の王妃って事だよね!?無理無理!私には荷が重すぎるから!」


王子のような白うさぎは、本当に王子様でした。


「大丈夫ですよ。私が全て支えますから・・・・安心して私の妃に・・・・」


王子スマイルで、私を懐柔しようとする白うさぎに対し


「は?こいつを嫁にするのは、俺だけど?こいつは公爵家の嫁だから、勝手に決めるな。」


っとチェシャ猫が・・・・ってチェシャ猫!?


「こいつを見つけたの、俺だから。俺、こいつじゃないと無理だから。」


顔を真っ赤にさせながら、私の手を取るチェシャ猫。ええええええ!?今までの嫌味や意地悪ってもしかしてツンだったの!?そして今デレたの!?


「「有紗!!」」


「「俺(私と、こいつどっちがいいんだ(です!?」」


ものすごい剣幕で詰め寄られ、冷や汗が出る。


「えっ!?いきなりそんな事言われても・・・・。」


「んー?なんだい?有紗を巡って恋のバトルかな?それなら私もぜひ参戦させてもらおうか。」


フフフと笑いながら帽子屋さんが私の肩に手を置く。


「ふにー。おねぇちゃんは、僕だけのおねぇちゃんだよー?ずっと一緒に寝てくれるっていったものー。」


眠そうな目を擦りながら、ヤマネが私にもせつく。


「あはは。面白そうな事やってんじゃん♪」

「なになに?景品は有紗?俺らも混ぜてよ☆有紗で遊ぶの愉しそう☆」


双子!これは遊びじゃないから!そして私は景品じゃない!


ギャーギャー騒ぐ6人の輪から、必死の思いで抜け出す。


「あー。モテモテだね。有紗。」


その先でキャピタが、キセルをくぐらせながら気怠そうに呟いた。


「そうそう。有紗。あのゲームのヤンデレ部分。」

「あれ、彼らの性格を元にしてるからね。嘘・・・・じゃないから。」


「へ?」


「君が誰を選ぶのか・・僕はとても楽しみだ。」





「君の選択を、僕は見届けよう。」




にっこり笑い、キャピタは私にキセルの煙を吹き掛けた。






おしまい。













◇◇◇



思いついたまま勢いで書きました。

少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。

アルファポリスにて掲載中。

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― 新着の感想 ―
[良い点] キャラづけがうまくてあっという間に引き込まれました! [一言] とても楽しかったです! キュンとするところもあって大満足でした。 可能ならば続編希望です(*^^*)
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