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壊れたプラネタリウム

作者: 諸林 瓶彦

漫画シナリオとして書いた作品です。

いずれ、漫画にして、持ち込みする予定です。

 学校の通学路。何の変哲も無い、民家、横断歩道、踏切。

 信号待ちをしていると、俺と同じ学校の制服を着た男が話しかけてきた。

 なかなか派手な格好をしているので気後れしてしまうが、一体何年生なのだろうか?

「今日も、飽きずに学校へ行くんだな?」

 初対面にしては、随分不躾な質問をしてくる奴だ。

「…そう言うお前だって、学校へ毎日行っているんだろう?」

 俺がそう言うと、そいつは少し驚いた後、大声で笑った。

「そうだった、そうだった。僕は二年生の大宮司って言うんだ。あんたは、織作くんだろう」

 大宮司…。聞いたことのない名前だが、同学年なのか。

「俺の名前を知っているんだな?」

「もちろん。あんたは有名だからね」

「有名?」

 俺は自分が有名だなどと思ったことはなかった。おとなしい、少し天文についての知識がある、目立たない生徒だ。

「俺が有名なもんか。何を言っているんだ」

「そうか、気がついていないか」

「ああん?」

「僕は、先週転入してきたばかりでね。それでも、あんたのことは知っているよ」

「はぁ? どんな噂が立っているんだ」

「プラネタリウム作りに熱中しているってね」

「ああ! 文化祭の出し物で、プラネタリウムを作っていたんだった。そうだ、忘れていたよ」

「ふふ、そんな大事なことを忘れるのかい」

 俺は頭をかいた。

 天文部の仲間たちと、プラネタリウムを設計していたのだった。

 俺が指揮をとって、仲間たちに細かいことをやらせて。

「出来上がるのを、楽しみにしているよ」

 大宮司は優しそうな笑みを浮かべた。



 学校の授業は、代わり映えのしないものだった。

 先生は、すでに何度も説明したようなことを、黒板に向かってボソボソと呟いている。

 そもそも、こんな先生が俺の学校にいただろうか?



 授業が終わると、天文部の部室に向かった。

 仲間たちは、忙しいとかで今日は帰ったようだ。何としても、俺一人でも文化祭までに完成させねばならない。

 俺の身長よりも高い、このプラネタリウムは、もう一ヶ月も前からコツコツ作って来たのだ。

 あと少しで完成すると思うと、感慨深かった。


 部室の扉を開けて、誰かが入ってきた。

 夕暮れの青い光に包まれた中で、幽霊のように怪しい雰囲気を醸し出している。

「こんな遅くまで、プラネタリウムを作っているのかい?」

 大宮司だった。

 本当に、幽霊みたいだ。

「最近学校に、お化けが出るって言うから、織作くんも気をつけた方がいいよ」

「お化けなんているもんか」

「僕には霊感があるんだ。今も、霊の波動を感じているよ」

「スピリチュアルな話ならやめてくれ。俺は科学しか信じない」

「そうかい。…一人じゃ大変そうだから手伝おうか?」

「…そうだな」

 確かに、俺の身長よりも大きな装置を作っているのだ。誰か補助してくれる人間がいないと、大変だ。

 大宮司は、俺の横にしゃがみ込んで、微笑んだ。

「何でも指示してくれ」

「ああ…、じゃあ、その接着剤を…」

 接着剤を、この部品につけてくれ、と言おうとした時。

 大きな揺れ。

 地震だ。

 どんどん大きくなっていく。

 プラネタリウムが倒れてしまう!


 俺は、プラネタリウムを支えようとした。

 だが、支えきれない。

 その、横綱級の体重の装置が、俺に向かって倒れてきた。

 恐怖で体が固まってしまい、動けない。

「うわー!」



 朝の光が眩しい。

 何の変哲も無い通学路。横断歩道、踏切。

 信号待ちをしていると、また大宮司が話しかけてきた。

「昨日は、怪我しなかったかい?」

「怪我? 何のことだ?」

「…そうか、あれで怪我がなかったんだから、よかった」

「…」

 大宮司は、安心したように微笑んだ。

「あー、でも何だか頭がぼーっとするな。あんまり昨日のことが思い出せないや」

 多分、夜遅くまで作業をしているので、疲れているのだろう。


「ひとつ、織作くんに言っておかなきゃならないことがあるんだ」

 急に真顔になる大宮司。

「はぁ?」

「今日もまた、地震が起こるだろう。その時は、決してプラネタリウムを守ろうとしちゃダメだ。プラネタリウムから離れろ! 死んだらもともこもないんだから」

「何で、地震が起こるってわかるんだよ。起こったとしても、俺が死ぬのか?」

「僕には、霊感があるんだよ。昨日、言わなかったか?」

「覚えていないな」

そんなことを言われた覚えは、全くなかった。大宮司が何か勘違いしているのだろう。



 授業が終わると、俺はまっすぐ部室に向かった。

 早くプラネタリウムを作らないと、文化祭までに間に合わない!

 接着剤を取り出し、部品を一つづつ繋げていく。

 だが…。

 揺れが来た。

 地震だ。

 プラネタリウムが倒れてしまう。


 だが、大宮司の言ったことを思い出す。

 あんなものがのしかかって来たら、俺が死んでしまうだろう。

 俺は、プラネタリウムから離れた。

 プラネタリウムは盛大に倒れて、割れてしまった。

 間も無く揺れは収まったが、プラネタリウムは致命的に壊れていた。

「ああ…! 何てことだ! 俺一人じゃあ、修理はできないよ!」

 プラネタリウムの破片をかき集める。とめどなく涙が流れ落ちた。


「そんなことはない。必ず完成するさ」

 部室の扉を開けて入って来たのは、大宮司だった。

「壊れた部品の材料は、ここに買ってあるよ」

 大宮司が大きなアタッシュケースを開けると、レンズや、ネジや、外装の材料となりそうなものが入っていた。

「な、何でこんなもの持っているんだ?」

「織作くんを助けるためさ」

「こ、これだけあれば、修理できるぞ!」


 大宮司と協力してプラネタリウムを組み立てて行った。

 朝日が昇る時間になっても、二人はコツコツと作業を進めていく。

「や、やったー! できた、できたよ!」

 俺は、小躍りして喜んだ。

 スイッチを入れると、黒い天幕に壮麗な星々が映し出された。

 二人とも、その光景に見とれる。

 

 そして、同時に、何か体が軽くなっていく。

「ああ…思い出したよ。俺は死んでいたんだな」

「そう、大宮司くんは二年前の大地震で、プラネタリウムの下敷きになって死んでいたんだ」

「なのに、気がつかずに永遠と作り続けていたのか」

「旧天文部室に幽霊が出るっていうのは、有名だったよ。その解決を、君の友達に依頼されていたんだ」

「ありがとう…、これで思い残すことは…ない」


 意識が薄れていく。

 あれから二年も経つのか。

 どおりで、見知った生徒が誰もいないはずだ。

 仲間たちは、とっくに卒業していたのか。

「じゃあ、な」

 大宮司にそれだけ言うと、全てが消滅した。



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