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セイザンソウ  作者: ふんわり塩風味
― 修羅 ー
5/7

『芹沢大剛 ー4ー』

「へぇ、凄いねぇ。この短時間で進化をとげるなんて……」


 クリストファーが芹沢を見つめて感嘆の声を漏らした。


「普通の亡人がなった亡者では、この短時間でのこれほどまでの劇的進化は望めません……。

 やはり、命のあるもののお相手でないと愉しい一時は過ごせませんね……」


 イレーネが瞳を細目で着物の袖口で口許を隠しながらころころと笑う。

 無邪気に楽しむ姿は、愛らしいのかも知れんが、やっていることは最悪だ。

 修羅を始めとする亡者は、五段階の進化の過程がある。なりたてはただの動く彫刻程度のものだが、カテゴリー・フィフスになると、神話に登場する魔神と同一視されることさえある程の戦士となるのだ。

 まぁ、芹沢の場合はまだまだカテゴリーセカンド。少しは強度が増して独自の装備を作り出せるようになった程度のものだ。

 ゾフィーとの実力は雲泥の差がある。結果は変わらない。


「はぁ、はぁ、もう堪らないわぁ……。感じちゃう……」


 さらに息を荒くさせて途切れ途切れに言葉を紡ぎながら、再び鞭で芹沢の腕を叩くが、さっきのように腕が砕けることはない。芹沢の躰が強固になっている証拠だった。


「ク……た……バ……レ……」


 芹沢は活劇の悪の首領が持つような、大剣を振り翳すとゾフィーに向けて振り下ろした。

 武器や防具を構成できるようになったとは言っても、芹沢の動きは常人以下だ。ゾフィーは鼻唄混じりに右に避けて簡単にかわす。芹沢の一撃はそのまま床を撃ち抜き、館の床を隕石でも落ちたかのようにクレーター状に抉った。


「ひゅぅっ! すっごい攻撃力ぅ。

当たったら痛そ……」


 ゾフィーが快感に浸っているかの口調で心にもないことを言い放つ。

 実際、あの程度の攻撃なら直撃をくらっても大したことはないだろう。


「……」


 破片が当たりに飛び散り、二人の戦闘を観戦している三人のところにも飛んでいく。すると、それまで人形のように微動だにせずに、無関心に傍観していたティロルが不機嫌そうに破片を手のひらで払った。

 他の二人のように芹沢の変化を楽しんでいるように見えないし、不快そうにするわけでもなく、ただいるだけだ。

 それならなにもこんな場所にいる必要もないだろうに、全くもって何を考えているのか分からない娘だ。


「ふぅ……、はぁ……」


 芹沢は目だけでゾフィーを追うと、体を重そうにしながら床を踏み締めて距離を詰めて、剣を横凪ぎに振って斬り付けた。


「すごいわぁ……。そんなに激しくされたら感じちゃう……。だけど、激しいだけじゃ逝けないのぉ……」


 鞭を剣に巻き付けて強く引いて芹沢の動きを止めながら、相変わらず熱い吐息を吐きながら、ゾフィーが言った。

 鞭が徐々に剣を抉りながら食い込んで行き、へし折るのにそれほどの時間は要しなかった。芹沢の作り出した剣の刃は半ばから砕かれ、先端が鈍い音を立てて床に突き刺さる。


「ぐぅ……、てめぇ……!!」


 芹沢が喉で低く呻くと、地面から再び塵が体の表面を震わせながら這い上がり、折れた剣に集中すると剣を再構成していく。 これまでとは違う点を上げるならば、刃が鋸のように小刻みになったところだろう。簡単に言えばギザギザだ。

 鞭を絡められたら、あの小刻みな刃で引っ掻けて斬ろうと言うのだろう。

 そううまく行けばいいか……。


「うふふ……。冴えてるわね、坊や……。

 そんなにされると、お姉さん虐めたくなっちゃう……」


 芹沢の思考を読み取りゾフィーは楽しそうに瞳を細めると、再び血の色をした舌で真っ赤な唇を舐めると、鞭を翳した。

 手に持つ鞭が怪しく淡い光で包まれる。


「もっとお姉さんを楽しませてね……」


 ゾフィーは瞳を細めて囁くと、恍惚に満ちた表情で鞭を打ち付けた。

 鞭が痛打する度に芹沢の強固になったはずの腕が、足が、頭が、胴が、簡単に次々と打ち砕かれて行き、破砕した石膏像のように芹沢の体がバラバラなって床に転がった。


「て……め……」


 砕けて半分ほどになり、床に投げ出された頭で、芹沢がゾフィーを睨み付けて呻いた。

 闘争本能が尽きない限り消滅をすることはない。粉々になろうとも何度も復活を果たし戦い続ける争いの亡者、それが修羅だ。

 残骸になろうと塵になろうと、相手を倒そうと言う意思だけで、残骸と化した体を再構築しようと、芹沢の体が一ヶ所に集まり始めた。


「もう……いい……?」


 蠢きながら必死で元の姿を取り戻そうとする芹沢の残骸に冷たい眼差しを向けてティロルが三人に問い掛けた。

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