<M05> ファルコン最強戦力vsアリスと愉快な仲間達
なんでこうなった。
††
ファルコン、魔大陸に唯一存在する人間の棲む都市だ。
10の師団から構成される常駐騎士や兵士は、凡そ5万人以上。
時には1つの師団だけで、1万を超える大軍となることもあるそうだ。最高では全師団合計10万人を超えたこともあるが、その数も年々減少を続けている。
特に前回の攻撃に於いて、数万の死者が出たこともあり、第2師団は壊滅状態であり、連合軍の数は大きく減少した。
「数万の死者、ですか……」
アリスはマーク将軍に案内され、ファルコンの中央に立つ高さ100メートル程もある、中央管制塔に案内されていた。
マーク将軍は遥かに見える陰のような建造物をみつめ、苦虫を噛み潰した幼な顔をしている。
「奴らに炎竜を操る者が居るとは、想定外のことでした。」
管制塔の頂上にある管制室からは、森の向こうの遥か彼方に三角錐のような塔が見えていた。
「あの陰のような建物が、魔族の要塞……」
アリスは遥かに見える三角錐の塔を見つめ、マーク将軍に尋ねた。
「はい、我等連合軍を結成してより数十年、お恥ずかしい話、今だあの塔を攻略出来ずにとどまっております。」
「それほど難攻不落、ということですね。」
「塔の周囲にはトーチカが作られ、数千の魔獣、数千の亜人、そして空中にも下位魔族が飛び交い、常に塔を守っております。」
アリスは眉を顰め塔を睨みつけた。流石にそれだけの数となれば、自分一人で活路を切り開くのは難しい。
「仮にその包囲網を潜ったとしても、塔は強力な結界に守られ、魔法攻撃を通さず、更に唯一の門は分厚い鋼鉄の扉で閉じられています。」
「魔法防御……では物理的な攻撃には?」
「はい、そのために我々は遠距離砲撃筒を開発しました。結果は成功と言えました。要塞の壁を崩す事に成功したのです。」
「それではその線で進めれば?」
アリスがいうと、マーク将軍は首を横に振った。
「壁が崩れた途端、巨大な炎龍と火の精霊が実体化し、我等に襲いかかりました。」
「炎龍……」
「はい。結果我々は第二師団の殆どを失い、機甲師団も打撃を受けました。」
悔しそうに項垂れるマーク将軍を見つめ、アリスは炎龍とはそれほどのものなのかと考えた。
いや炎龍だけであれば、それほど難しくはないだろう。寧ろ周囲を固めた亜人やら魔獣やらの群れのほうが厄介だ。
一振りで数十の敵を倒せるとしても、数千となると面倒という言葉を超えて、かなり難しいと思われる。ここは同じ数の精鋭たちに任せた方が無難だ。ただそれは、此処の兵士たちを死地に向かわせる事になる。
やはり訓練の見学としてファルコンを抜け出し、上手く……
できるのか?
──ツェザーリ様も割りと軽く考えるからぁ
うちのチームには優秀なブレーンが居ないことが難点だ、とアリスは嘆息した。
「マーク将軍。仮にですが、炎龍を倒せれば、要塞は陥落させられますか。」
「炎龍をか……そうだな、ふむ、可能性は高い。いや可能だろう。」
マーク将軍が頷いた。いままで数十年戦ってきて、ここまで来たのだ。新しい兵器の開発もされた、もし炎龍が居なければ、あの要塞を陥落させられる手応えは感じられた。
「ではその炎龍退治、承ります。戦いのご準備を。」
「な、なんと?」
アリスの言葉に将軍は驚きを隠せず、睨みつける様に見つめた。
「将軍、戦を知らぬ皇女の世迷い事、等と思わないでいただきたい。お疑いなら、私の力をお見せいたします。」
「アリス様……」
◇◇
なんでこうなった!
この言葉、何度云ったことか。特にアリスと一緒に旅をするようになってから、続けざまに発している様な気がする。
なんでこうなるのかが理解できない。
いきなりアリスにフル装備で来いと言われ、連れてこられたのは野外訓練場などという、どうにもヤバゲな場所だ。
森に囲まれた平地は、一応結界の中らしく、魔族が襲ってくることはそれほど無いらしい。うん、あくまでも『それほど』だ。
普段は白兵戦の訓練に使用しているらしい。
そこに何やら数百人の観客ならぬ、兵士が集まって輪を作っていた。輪の中心には屈強な戦士や魔道士っぽい奴らが集まっていて、その真中にマーク将軍がいた。
アリスを先頭に俺たちがその場に向かうと、一斉にどよめきやら歓声やら拍手が起きた。
ファルコンではすでにグランダム王国の皇女がやってきたと噂になっているわけだが、それが一般兵の前に出ることはない。あったとしても偶然にすれ違うか、遠くから見るだけだ。
普通はね。
それがこうして兵たちの前に出てきたのだ。片目を覆う仮面を着けているとは言っても、その美しさは兵たちの視線を虜にするには、吝かではないだろう。
「おい、アリス、いったいなにが始まるんだ。」
俺が堪らず聞くと、アリスがこちらを向いて
「唯の腕試しよ。」
と答えてくれた。なるほど唯の腕試しか。腕試しねぇ。
なんでそうなる!
俺たちはこっそりと此処を抜けだし、要塞に向かうんじゃなかったのか。
「あ、アリス様、これはどういう戦略なのですか。」
ツェザーリも自分の提案した案がどこかに吹っ飛んでいるようで、狼狽えている。クリフは大きく嘆息して頭を抱えていた。マリアはいつものことだと言いたげに、すました顔をしている。
「ツェザーリ様。我等だけで要塞に入るのは、不可能と判断しました。連合軍を携えて、正攻法で要塞に攻め込みます。そのために我々が戦力として使えるかどうか、マーク将軍にお見せいたします。」
「「「はぁぁぁぁ?」」」
もう溜息しか出ない。なんなのこいつ、なんでそう勝手に邁進するの。
「戦うの?」
ルミがボソリと聞いてくる。
「ああ、ルミは良いよ。見学してなさい。」
「良いの?あの人達少し強いよ?」
そう言ってルミが中央で待ち構える戦士達を指差した。少し強いか……ゼクスフェスほどじゃないってことだな。
「そうね、あの魔族ほどじゃないけど、それなりに強そうね。マーク将軍本気見たい。」
アリスはくすりと笑い、金色の髪を風に靡かせる。絵になるなぁ、じゃなくて本気ってなんですかぁ。
「アリス様、お待ちしておりました。」
「お待たせ致しました、将軍。」
マーク将軍をアリスが見上げ、ドレスの裾をつまんで頭を下げた。
「こちらの方々が私達のお相手をして下さるのですね。」
アリスが将軍とその背後に控える戦士たちを一瞥した。
「はい、アリス様のお申し出の通りに、選りすぐりの強者を募りました。各師団の中でも、最強と詠われる者達です。」
将軍が俺たちを一瞥し、ふっと笑みを浮かべた。あ、これ馬鹿にされてるっぽい。
「我儘を言いまして申し訳ございません。」
「いやいや、たまには兵士たちにも余興が必要ですから。」
将軍がカッカッカと笑い声を上げた。端からこちらが勝つ等と思ってないんだろうなぁ。
「そうですね……」
言いながらアリスはほんのりと笑みを浮かべていた。
マーク将軍の傍らには、9人の男女が並んでいる。それぞれの師団の最高戦力だとか。
見た感じ重装鎧の戦士が5人、それぞれ武器を手にしている。そして同じ紋章の入ったローブの魔道士が4人。おそらくは神聖アリストラ法国の魔道士、それも上級神官クラスの魔道士といったところか。ひしひしと魔力が漏れ伝わってくる。
「うん、クリフとツェザーリ様は必要なさそうですね。」
「「え?」」
クリフとツェザーリが驚きアリスを見つめ、やはりマーク将軍と師団最高戦力の面々も驚きの顔をした。
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