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ドジな女神に不死にされました  作者: 無職の狸
第三章 巻き込んだ男と巻き込まれた少女
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<C09> 惨劇の日

イグリース学園で起きた惨劇の日の回想です




††


《1年前》


 雷雨の中、私は暗い廊下で怪物となったザックと対峙していた。

 

 マリアは右手を失い、胸を切り裂かれて血だまりの中で倒れている。かなりの深手を負っているが、まだ生きている。私も無傷ではなく、背中を斬られ酷い傷を負っていた。

 

 それでもなおザックにを睨みつけ、戦おうとしていた。しかし血を流し過ぎた私は体勢を崩し、攻撃を躱され、ザックが私に黒く鋭い爪を向けた。


 私はあの時死ぬはずだった。または腕を斬られ奴の言うとおり、達磨にされて犯され、恥辱に塗れるはずだった。


 だけどその時、エリーザが飛び出し、私とザックの間に入ったのだ。


 エリーザは私に覆いかぶさり、私を守ってくれた。


 その代償に………

 

「エリーザ、エリーザッ!!」


 私は悲鳴を上げた。だってエリーザは血塗れとなって私に覆い被さっていたのだから。

 

 エリーザの身体は引き裂かれ、胸から下が無くなっていたのだから。


 半狂乱になって泣き叫ぶ私、いやだ、死なないでと叫ぶ私。


 だけどエリーザは「逃げて……」と力なく呟いただけで、そのまま命を手放してしまった。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 私は叫んだ、私の目からは涙が溢れていた。

 

 それを怪物となったザックは、ニタニタと厭らしい目で見つめている。


 ザックは私に近づいてくる。今度こそ殺そうとしているのか、それとも四肢を切断して嬲ろうとしているのか。


「なんだぁ、この女ぁ、ちともったいなかったな。まあいい。」


 ニヤけた笑いと共に、一歩前にでて腕を振った。


 途端に私の顔が火を吹いた様に熱くなった。

 

「ひぎぃぃい!」


 左目が真っ赤に染まり、激痛が走った。


「アリス様ァァァ」

「きゃぁぁぁぁ」

「アリス様のお顔がぁぁ!」


 女の子たちの悲鳴が響く。

 

 顔が熱い、痛い熱い痛い痛い痛い。

 

 ザックの尖った指先が、赤い丸いモノを掴んでいる。

 

 耳まで裂けた口が開き、悍ましい舌が伸び、丸い物を舌の上に置いた。

 

 口の中へと誘われた丸いものは、口が閉じた途端に白い液体を迸らせた。

 

「ギャアアァァハハハハハ!残った目玉も潰して、テメェを犯しながら喰らってやるぜぇぇぇ、ギャハハハハハハ」


 ザックの哄笑が響き渡った瞬間、私は悟った。


──私を喰らう、だと……


 全身を悍ましさが走りぬけ、忿怒となり、闘気となり全身を震わせた。


 喰らうなら喰らえ、だが私の顔や背などどうでもいい、エリーザを殺したザック、マリアを傷つけたザック、キサマは許さない。殺してやる、刺し違えてでも、絶対に殺してやる!


 私は立ち上がり、拳を握りしめた。


 その時だ。

 

「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」」


 怒号と共に2つの剣閃が奔る。


「なにっ!」

 

 ザックが振り向いた時には、既に2本の剣は振り切られていた。


「ギャガァァァァァァァァ」


 ザックの悲鳴が迸る。

 

 ザックの左腕が廊下の血だまりに落ち、ザックの腹が半分以上断ち切られていた。

 

 血を吹き出し絶叫するザックの前に、そして私の前に2人の剣士が立っていた。

 

 訓練用の刃引きの剣を持った2人、クリフとツェザーリ君。

 

「てめぇぇぇぇ俺の女に何しやがったー!!」


 へっ

 

 クリフの声に私は激痛も怒りも忘れて、呆けてしまった。

 

──ドサクサに紛れて、何て言った?

 

「俺の女ぁ傷つけやがって、許さねぇぞ、殺してやるからな、死ねぇ、ザック、いや糞バケモンがぁぁぁ!」


 貴族に有るまじき暴言、等と言ってるどころではないのかな。完全に頭に血が登っているクリフは初めてだ。


 いやそれよりなにそれ、え、え、俺の女?

 

 やだ心臓がドキドキしてる。顔がかあっと熱くなってドキドキが止まらない。




 怪物は身体に出来た真新しい傷が信じられない様に、血を溢れさせ、黒き闘気を発して居る。


「ツェザーリ、殺るぞっ!」

「オウッ!」


 2人が互いを呼び合い、阿吽の呼吸のように動く。

 

 クリフ君とツェザーリ君が走った。

 

 クリフ君は右に跳び左に跳び、天井へと跳び、怪物の視線を翻弄させる、そこにツェザーリ君の両手剣が黒い手に向かって斬りかかる。

 

 狭い廊下の中を動き回るクリフ君、そして間隙を縫って攻めるツェザーリ君。

 

 なんて息のあった連携なんだろう。

 

 私は痛みも怒りも忘れ、2人の華麗な動きに見惚れてしまう。刃引きの剣に魔力を流して強化し、真剣並みに切れ味を高め、怪物の黒き爪を弾き、躱し翻弄する2人。


 あんたらいったいいつ、その手法を覚えたぁ!


 2人の能力を侮っていた。なんだこいつら、まさか試合では手を抜いてたとかいうの?私並とは云わないけど、十分強いじゃない。


 1人1人ではまだまだだけど、2人が連携することで、強さを増していた。


「ギャァァァ、キサマラ、キサマラァァァァ」


 体中を切り刻まれ、その都度に腐った様な、赤黒い血が流れていく。


 冷静になればなるほど悍ましい。


 いったいこの怪物は何なのか。


 【勇者】であったはずのザックは、【勇者】に有るまじき行為を積み重ねてきた。罪なき人々をいたぶり支配し辱めてきた。ついには称号が反転し、【魔王】になった、とでも言うのか。


 天上界の天使が悪に染まり、天界を追い出されて地獄に落ち、悪魔王サタンとなったように。


「みんな下がれ、下がるのだ。」


 先生たちが駆けつけてきた。


 ブラッドリー先生やヴァレリー先生は手に武器を持ち、ズリエル先生やゾエ先生は、杖を持っていた。

 

 クリフ君とツェザーリ君がぴょんと後ろに飛んだ途端、ゾエ先生の杖が光を迸らせた。

 

降魔退散ホーリーファイァァァァ」


 怪物が光に包まれ白き炎が燃え上がる。

 

聖なる拘束の光鎖セイクリッドチェーンジェイル


 ズリエル先生の杖から、光り輝く鎖が伸びて、怪物を巻きつけていく。

 

「学園で暴れてんじゃねぇぞ、クソ魔族ガァ!」


 荒っぽい言葉とともにブラッドリー先生が、光り輝く剣をザックに突き刺した。

 

「ギぎゃぁガやぎゃyがやy。」


 背中から剣が突き抜け、怪物の身体がブルブルと震え、身体が塵となり始める。


「キ、キサマ、キサマ、アリ、アリス、キサマヲキサマヲオオオオ」


 微かに聞こえる軋むような嫌な声。


 でも私は納得出来ない。私は、私はエリーザの仇も、マリアの仇も討ててない。


 ゆらりと立ち上がった私は、クリフの傍へと向かうと、剣を奪い取った。


「アリス。」


 驚くクリフ君を尻目に、私は剣に目一杯の魔力を流し込み、白き炎で焼かれるザックに向かって剣を突き入れる。

 

「ギギャァァァァ」

「死ね、ザック、地獄に落ちろっ!」


 奴の心臓に向けて突き刺した剣は、背中まで貫いた。


 ザックはガクガクと全身を震わせ、口からは腐った血を吹き出し、真っ赤な目で私を睨みつけた。

 

「シ、死ヌカァァ、キサマヲ、キサマヲ嬲りツクスマデ死ンテ゛タマルカァァァ」


 耳まで裂けた口が不気味に舌を伸ばし、私を愚弄する言葉を吐いた。こんな状態だというのに、凄まじい執念。この執念を違う方向へ向ければよかったものを。

 

 いやキサマは何処まで行っても外道だ。

 

 私は貫いた剣をぐりっと回した。

 

 粉微塵になれ、完全に消滅させてやる。エリーザを殺した報いを受けろっ!


 私の持つ全ての魔力を迸らせ、剣に流し込む。


「消滅しろっ!極振動共鳴破壊ハイソニックブレイク


 剣に魔法を通し、奴の身体を内側から破壊しようとした。


 その時だった、アイツが現れたのは。



 ブウンッと音がしたかと思うと、天井近くの空間に黒い円が出来上がる。


「む、あれわ!」


 ズリエル先生が何かを察知したのか、呪文を詠唱した。ブラッドリー先生も剣を構え、睨みつける。


《イチイチ手間ヲ掛ケサセル……見捨テテモ良イガ、ソウモ行カヌカ》


 黒い円からこの世のものとも思えぬ、気味の悪い声がした。背中がゾクゾクとしてくる。ついで感じる魔力の波動。


 私はすぐに後ろへ飛んだ。途端にザックの周囲に黒い稲妻が走り、奴を拘束していた魔法の鎖が吹っ飛び、突き刺さっていた剣が腐食したかのように、ボロボロと崩れ落ちていった。


 一瞬遅ければ、私もああなっていたかもしれない。恐ろしく強い魔力だ。


「何者だッ!」


 私が叫ぶと同時に、円から真っ黒な手と体が現れた。

 

「「「キャーーーッ」」」

「「「ワァァァッ」」」


 遠目に見ていた生徒から悲鳴が迸った。


 その身体は漆黒の鎧に覆われ、そして首が無かった。


††

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