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ドジな女神に不死にされました  作者: 無職の狸
第三章 巻き込んだ男と巻き込まれた少女
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<C07> ロレッツオ辺境伯

ロレッツオ辺境伯、アリスに取っては懐かしき名前でございます。

††


「それよりもアリス様、次の街には『温泉』というモノがありますが、ご存じですか?」


 ニトロが余りにも権威の前で無様だからだろうか、見かねてリリスが話題を振った。


 途端にアリスが目を輝かせる。なるほど女は風呂が好きってことか。


「知ってますよ。温泉かぁ、有るんですね。いいですね~。是非こちらのせか~~~あ…っと」


 あ、なんかどじったか?『是非こちらの世界でも』とか言いそうになっただろ。


「こちらの……せか?」


 リリスが首を傾げる。


「ん~、そのなんだ……えーと、せっかくですからぜひ体験したいものですね。」

「はいぃ、それで~~無礼でなければ、よろしければ女同士ですし、ご一緒しません?」


 リリスが遠慮なく誘うが、お前相手は皇族だぞ!気軽に誘うなよな。


「おお、それ──」


 アリスがニコリと笑って返そうとしたが、急に顔が青ざめた。


 また何かを思い出したのかと思ったが、アリスは直ぐにマリアを振り返り、唇を震わせている。


 どうしたのかな。マリアを見ると、マリアは困った顔でふるふると顔を振っている。


 そうか、マリアは一生残る酷い傷を負ったとかいってたな……


 それじゃ別々に……なわけに行かないか。侍女たるもの常にってやつだろうな。


 ったくこのアホが。


「あーっと、やっぱアレじゃね、お姫様ってお風呂は侍女がぴったりと付いて、1人で入るんじゃないのかな~?違いますか?アリス様。」


 俺は適当な事を言ってみた。


 たしか西欧の貴族が数人の侍女を伴って、入浴しているフレスコ画を見たことがあるからだ。もちろんネットだが。別に裸の画像目当てではないからな、決して。


「あ、そうなんですか?」


 レヴィとリリスが顔を見合わせる。


「……そ、そうね、そうなんです。いつもはマリアにお世話してもらっています。だから皆様と御一緒は、やはりちょっと恥ずかしいかな。」

「そっか~、残念です。」


 アリスはレヴィとリリスに申し訳なさそうに言う。こんなベタな言い訳でも2人とも納得したようだ。うん、流石権威主義!違うか。


 そしてアリスは俺に視線を向けると、『ありがとう』と唇を動かした。





「お~し、辺境の街フライに到着だぜ~。」


 ニトロの声がして振り向くと、俺達の目の前には、街というには似つかわしくない、大きな城壁と大きな門が目に入った。


「フライの街はこの辺を統治している、ロレッツオ辺境伯が住まわれているからな、ある種の城塞都市みたいなもんだ。」


 グルームがドヤ顔で言う。


 彼が言うにはロレッツオ辺境伯の担当する地区は、隣国エグゾス帝国との緩衝地でもあるが、魔族の防衛戦でもあるという。今では最前線フロントラインに戦場が移ったが、昔はここが魔族との激戦の地だったらしい。


「へぇ~、それじゃあ此処は王国を守ってきた、歴戦の英雄の街ってこと?」


 リリスが尋ねると、グルームはこくこくと頷く。


「俺も昔はこの辺りに住んでてな、ロレッツオ辺境伯様とは何度かお会いしたことが有るんだ。」

「知り合いだったの?それでそれで、どんな人なの。」


 なんかはにかみながらグルームが話すのを、リリスは面白そうに聞いている。


「そりゃもう、メッチャ強くて、勇敢で、英雄っていうのはあの人のことだよな。」

「そうなんだ。」


 感心しているリリスに、グルームがまるで自分のことの様にドヤ顔している。


「それはなかなかの御仁のようだ。」


 ゴレムがうんうんと頷いている。


「さて街に到着だ。ここは検問があるからなぁ。1時間はかかるぞ。」


 ニトロの声が響いたんだが、一時間ってなんだ?

 意味がわからず御者台に出てみると、うは、門の前にずらりと並んでやがった。




 街を囲む街壁の一角に大きな門があり、そこから人と馬車が連なっていた。


 なかなか人気のある街なのか、並んでいるのは行商人風が目立つ。冒険者とか旅人風の物たちは、すぐに通されていくんだけど、行商人の馬車となると、積んだ荷物を改められている。


 なんかかなり厳重だな。確かに一時間以上かかりそうだ。

 

「待つのですか?」

「結構並んでるから、一時間は待つかもしれないですね。」


 アリスが不満そうな顔をして、クリフをみる。彼にしてもしかたがないことなのか「この馬車だからね」と返した。


 この馬車?どういう意味かな。


「マリア、お願いできるかな。」

「はい。」


 マリアに顔を向けて言うと、マリアはコクリと頷いて、詳しく言わずとも委細承知とばかりに、馬車から飛び降りた。ふわりと地上に舞い降りると、門の方へと疾走していく。まるで忍者みたいだ。


「ん、とマリアはどこへ?」

「なに、所用を申し付けたのです。」


 アリスがニコリと微笑む。クリフは歯を噛みしめて、くっくっくと笑みを零し肩を揺らしている。


 いったい何をする気なんだ?


 訝し気に見ていると、少ししてマリアが戻ってきた。


「ニトロ様、列の横を門まで向かって下さい。」


 馬車に乗ると、マリアはニトロに命じた。

 

「列の横って、割り込みかい?」

「構いません。話は通しておきました。」


 マリアは御者台に座って、キョトンとするニトロににっこり笑顔でいった。


 ニトロは馬を動かして列を外れると、列の横を検問まで進ませていく。並んでる人たちが睨んでるぞ、おい。

 

「いいのかな~。」


 人々の熱い視線にさらされて不安そうなニトロに、マリアは「大丈夫大丈夫」と笑っている。


 そして検問までくると、10人程の警備兵、多分検問所に駐留してる警備兵全員が集まっていた。


 てか検閲していた警備兵までこっちにきてて、列が停まってしまってる。人々がこちらをじっと見ているぞ。なんせボロな幌馬車が列に並ばす素通りしてんだからな。


 すげー迷惑そうなんだが。でもどこか好奇心に満ちた視線を感じるんだな。こりゃ一悶着来るかも。


 俺は揉め事になりそうな予感に身構えた。


「身構えずとも大丈夫です。」


 マリアは自信満々に言うと、警備兵たちの前に飛び降りた。

 

 ひらりとスカートが舞い上がり、ふわりと着地して身支度を整えると、警備兵の方へと進んでいく。


 警備兵たちは横一列に並び、中央に一人、白ひげを生やした偉そうなフル装備の警備兵が立っている。


 あれが警備の隊長なのだろうか。


「ご苦労様です。くれぐれもご内密に。」


 マリアが白ひげを湛えた隊長らしき警備兵の前に行くと、なにかこそこそと二言三言会話している。


 会話が終わると、警備兵達はその場で腕を胸の前に掲げた。


「畏まりました。皆の者、道を開けよっ」


 警備隊長が警備兵たちに命令すると、警備兵たちが左右に割れて道を開けた。

 

「ロレッツオ辺境伯には、後ほどご挨拶にお伺い致しますので、良きなに。」

「はい、直ぐに伝令を送ります。」


 警備隊長の言葉に笑みで返すと、マリアは一飛で御者台に戻る。

 

「さ、どうぞ。」

「は、はいぃ?」


 ニトロがあまりのことに、キョドリながら馬を動かした。

 

 馬車が動き出すと、警備兵たちは槍を掲げて敬礼して見送ってくれる。まさに「大貴族様のお通り」状態に、俺たちはびっくりして声も出せないでいた。


 そんな俺達をアリスとクリフは微笑み見ていた。


「王家の紋章です。お忍びで旅をしているので、よろしく、と言っておきました。」


 マリアがくすっと笑う。

 

「そ、そですか……」


 流石お姫様ですね。

 

 でも

 

「アリスはせっかちだよな。」


 とクリフが笑いを噛み締めていたのは、聴き逃してないぞ。



††

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