<C06> 辺境の街
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グランダム王国第三皇女アリス=ルイーザ。
それが彼女の正式な名前と身分だ。
俺と同じ日本から来た転生者、なのに彼女は階級社会の頂点に立つ存在。方や俺はというと村人上がりの狩人、ヒエラルキーの最底辺に位置するパンピーだ。
知っての通りこの世界に於いては、階級、階層が一番に問題視される。本来なら村人なんかが皇女様にお目通りするなんて、一生に1度でも有るかどうかということろだ。
まして話をしたり一緒に旅をするなんて、あり得ることではない。そのありえないことが、いま起きているわけだ。
ニトロはガチガチに固まってるし、レヴィなんて杖をもって小さく蹲っていた。
「打首だ、斬首だ、あたしは終わりだ。おわりだぁぁ……」
覗き込むと震えながら、ぶつぶつと呟いてる。
確かにかなり横暴な口利きをしてたからな。皇女様に向かって。
「し、知らなかったんだぁぁ、貴族だとは思ってたけど、どーせしょぼい貴族だとばっかり、まさか皇族だなんて、しらなったぁぁあ」
レヴィは名誉子爵を与えられた戦士の家系らしい。その為多少貴族については知っていたし、また付合いもあったとか。それ以上は教えてくれなかったが、幼くして高名な魔道士に師事したとか。
アリスが貴族だと解ってても、言葉遣いが悪かったのは何かあったのかもしれない。しかしそれでも皇族は別ってことなのかな。
「多分大丈夫だよ。」
と俺が言うけど、レヴィはガタガタと震えたままだった。
ちなみに稀ではあるが最底辺のパンピーでも努力すれば騎士に出世できる。さらに騎士として軍功を上げ功績を残せば爵位を与えられることもあるが、それはほんの一握りらしい。最も何年も掛かるのが通例だ。
アリスは皇族、格差社会の頂点に位置する。いくら第三皇女とは言え、その権力は絶大だ。彼女に逆らえるのは皇族しか居ない。つまり彼女の父上と母上のお二人だけだ。
そういうわけで最底辺の俺やニトロ達と、ヒエラルキーの頂点に有るアリスとでは、まさに月とスッポン、天と地の立場になるわけだ。
一緒にいるクリフも大公閣下のご子息様。マリアだって侍女やってるけど、将軍の娘だし、お父上は武勲を認められて伯爵の爵位を持っているって話しじゃねぇか。全員普通じゃお目に掛かることすら難しいお方たちだ。
当のアリスは
「アリスでいいよ。」
等とおっしゃいますが、どうするよ。
本人達がいくら構わないといっても、やはり何処かで彼女たちの素性を知ってる人が居るかもしれない。もしかしたら姿を隠してお守りしてる人が居るかもしれない。
村人その1がお姫様に敬称を略して気楽にせっしてたら、それこそ不敬罪だ。下手に馴れ馴れしくして斬首なんてことになったら堪らない。
ま、斬首されても首持って逃げてやるが……いや無理ってか無理無理。俺は不死者だけど、アンデッドじゃないんだからな。
ああややこしい。
ということで、ニトロ達と打ち合わせして、『様』付けにしようってことになった。
ニトロ達も薄々解ってはいたが、せいぜい侯爵あたりの姫様かと思っていたらしく、まさか皇族とは思わなかったらしい。やたらとビビっていた。
「というわけでアリス様。」
俺が敬称をつけると、アリスはむっとして睨みつけたあと、苦笑していたが
「こっちの立場も解ってくれよ。」
「解った解った、じゃぁ好きにすれば?」
とようやく納得してくれた。同じ日本人だし、やっぱ様付けでもきっついけど、なんだかんだ俺も10数年この世界で暮らしてるしな。余計なトラブルで足止めされるのも避けたいところだ。
そんなこんなでようやく街に近づいてきた。ニトロによると恐らくグランダム王国領内で最後の街に鳴るらしい。つまり辺境の街だな。
「今日は少し日が高いのですけど、この後しばらくは街が無いので、この街で宿を取ろうかと思っておりますが、いかがでしょうか。」
ニトロが恐る恐る敬語を使って言う。ニトロ、普段のお前はどうした。
「……街の名は何と言います?」
「はい、フライという街です。辺境の街です……」
辺境の街と言われアリスがふと考えこみ、クリフの顔を見た。クリフも腕組みをして眉を顰めている。
「フライといえば、ロレッツお辺境伯のお屋敷が有る、辺境で最も大きな街ですよ。」
何故かグルームが乗り出してきた。しかもドヤ顔して。
「グルーム知ってるのか?」
「ああもちろん、昔住んでいたからな。」
ニトロが尋ねると、グルームがさらにドヤ顔でしかも胸を張って答えた。そこまでドヤ顔するものかぁ?
「ロレッツオ卿の……そうですか。旅については其方達に任せてあります。良いようにしてくれて構いません。」
クリフと相槌を打つと、アリスはにこやかに言った。
「アリス様はロレッツオ辺境伯をご存知なんですか?」
グルームがさらに乗り出して尋ねる。おいおいお、あまり近寄るなよ、アリスが引いてるぞ。
尋ねられたアリスは、ちょっと唇を歪ませているが、済まなそうに首を振った。
「ロレッツオ卿のお名前は存じていますが、私は直ぐに学園に入ってしまったため、お会いしたことはありません。」
「俺も話したことはないな~。遠目でなら見たことならあるけどね。」
「あの時ね、私は全然わからなかったわ。」
アリスにクリフが合わせる様に頷いた。あの時ってなんだ。てかこの二人の世界みたいな雰囲気ってなんだ!
「学園かぁ、貴族はイグリース学園に優先的に入学できるんだったね。」
レヴィが尋ねるとアリスがコクリと頷く。
「はい、優先的というよりも、寧ろ強制でしたね。」
アリスがくすっと笑う。
「あたしらも洗礼でマジックユーザーが出てれば、イグリース学園に入ったんだけどね~。」
「そうだね~。」
学園の名前を聞いて、リリスとレヴィが頷きあう。マジックユーザー、つまり魔術を使える者はそう多くはない。多くはないが、それなりにいる。
要はこうして冒険者レベルで、魔獣と戦える程の者は多くはないが、生活魔法程度に使える者は、それなりにいる。
中でも幼い時から魔力に目覚めているものは、殆ど居ないと言っていい。多くの者はある程度年齢がいってから、徐々に魔術を使える様になってくるのだそうだ。
そうした人々の中で、特に突出して成長をしたようなマジックユーザーが、リリスとレヴィのように上位の冒険者となったりする。
とケィニッヒから聞いた
するとアレだ、アマンダもマジックユーザーを選んでいたら……もしかしてアリスと学友だったってことか。その方が幸せだったんだろうか。
だけどアリスから聞いた話だと、平民クラスの女子たちの半数はザックに奴隷化されていたとか言うし。だとしたら……
結局アマンダは不幸になっていたのかもしれない。
「それじゃフライの街で今日は宿を取りますね。」
「ええ、お願いします。」
アリスはどこか嬉しそうな顔で言うのだが、なんでだろう。
「でもニトロさん、そんな畏まらなくて良いのですよ?私はここでは普通に扱って欲しいんだけど。」
「いや、しかしやっぱアリス様は皇女様ですし、俺…失礼な口を聞いちゃってたし……投獄とか斬首とかなりたくないし。」
なんか青い顔して震えている。意外とニトロって気が小さいのかな。
「はぁ……ならば改めて言います。普通に振る舞いなさい。じゃないとほんとに有る事無い事罪名造って、斬首にしますよ。」
アリスが怒鳴りつける様に言い放った。コイツも中々きつい性格してるな。
「ひぃぃぃぃ、勘弁してください~~~!」
ニトロがさらに青ざめ涙目で叫んだ。
「かえって無理に固くなるほうが気に食わないのです。」
「はいぃ」
魔獣にも魔族にも怯まないニトロが、完全にビビりまくってる。権威というものはなかなか恐ろしい。
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