<C04> 二人の思い出は落雷
ジュンヤとアリスのお話は続きます
††
「ジュンヤって、古き不死の大魔法使いとかなの?」
「まてぇ、俺は一応は人間──」
よりによってリッチーとか、なんでそんなバケモノ呼ばわりされるんだ。なんで俺はここまで虐げられないといけないんだよ。オヤジやお袋を不幸にしたからか?
はぁぁ、もうやだ。
せっかくこっちで長閑に平和に暮らそうと決心してたのに、ちゃんと親孝行もしてたのに、皆殺しにされて、アマンダまで生死不明だし、アンデッドとか言われるし、もう心が砕け散りそうだよ……
そもそもこんな称号がなければ、あのとき死んでたし、いやアマンダと一緒に逃げたのかも。解らない、解らないけど、きっと違ってたんだよな。
全てはあの駄女神が俺に間違えて雷を落として、勝手にこんな称号を与えたのが悪い!!
ん、雷?
俺はふと思い出した。俺がこんな称号貰ったのは、4歳の時に雷を受けて死んだからなんだよな。
しかも雷落とした駄女神が、いけしゃあしゃあと『人違い~ごめ~ん』ですましやがった。
あれ、人違いって、ん~~~?まさか?
「なあ、ちっと聞きたいんだけど。
「なに?」
「俺たちはほぼ同時に死んで、同時に転生してるわけだよな。」
「そうかもね。私は数えで14歳、春先に生まれたわ。」
「うん、それ俺も同じだ。」
「それがどうかした?」
「うん、俺は満4歳の誕生日に雷が落ちて死んだんだ。」
「ええええ!なんで生きてんのよ、やっぱアンデっ──」「まてぇ!ちがうわぁ!」
引くな、そんな離れるなっての!
「雷を落としたのはあの駄女神で、しかもアイツ、人違いだったとか言ってたんだが、心当たりあるか?」
「なにそれ?」
「なんでも俺と同じ時期に転生した奴に、4歳になったら覚醒したいとか云われたらしくてな、目覚まし代わりに雷落としたらしいんだが、間違えて俺に落としやがったんだ。」
「……………ぇぇぇぇぇ!!!」
アリスが口をあんぐりと開けた。眼が泳いでるのは、やはり……
「え、えと、た、雷、そう、雷が目覚まし、ね。そうね、そう、そうね。」
なんかアリスが顔を引き攣らせてる。マスクの下の眼がキョドってるんだけど。
「心当たりありそうだけど……」
「あの、えと、確かに私、4歳で覚醒して欲しいって頼んだけど……でもでも、雷落としてなんて頼んでないからね。覚醒させてって言っただけだから。」
えーと……
おまぇかぁぁぁ!!!
「でもでも、あの、ああ、そうか、あんとき女神様はなんか変にオタついてたけど、まさか、それでかぁ!」
いや、アリスさん、貴女も十二分にオタ付いてます。
まあそれは置いといて、なるほど、どうやらアリスに雷を落とすつもりだったのが、間違えて俺に落としたんだな。
ドジがぁ!!!
「あのドジのせいで、俺は4歳で死んでるんだ。」
「は?え?はい、はぁ」
アリスの眼が完全にキョドってる。だよな~、別にアリスのせいじゃないけど、覚醒を頼んだのはアリスだもんな。
「それであのバカ、二度と間違えて死なさないようにとか言って、それでこの称号【不死神】をよこしやがった。」
そのお陰で魔族が村を襲った時、俺は村人その1で死ぬことができず、こんな復讐の旅に出たわけだな。ほんと、なんだかな。
絶望的な顔をしてアリスががっくりと項垂れた。なんかアリスも素だと面白いな。
◇◇
あ~なんか色々とあって、私はもう疲れたよ。
浮浪者ならぬジュンヤは、前世ではヒキニートの穀潰しだったらしい。
だからこの世界では親孝行をしよう頑張ってたそうだ。でも村を魔族に滅ぼされ、挙句に幼馴染の女の子は生きてるか死んでるか解らない状態。
彼が魔大陸へと向かっているのはその為。村の仇討ちと、女の子が生きているなら、可能性があるなら救いに行くそうだ。
なんか凄いな。きっとすごく大事な人なんだな。
彼女を助けるために、死ぬほどっていうか何度も死んで身体を鍛えたとか。
なんかそんな話を聞いちゃうと、胸が凄く締め付けられてくるみたいな、キュンってなっちゃう。
でも……私もそうだ。
なんか、私達ってば立場は全然違うけど、似た者同士のようだ。
私も幼いときから一緒に居てくれたエリーザの仇を討つために、マリアの腕を奪ったザックを倒す為に旅に出た。
お父様も皇女にそんなこと許すなんて、やっぱ変わってる。いくら第3皇女でも、普通は許さないよね。
そしてザック、奴は魔族になった。
あのとき私は確かに聞いた。
首のない黒い鎧の魔族が、ザックを魔族の居城へ連れて征くと言ったのを。それに黒い鎧は私が【天臨王】だと知っていた。
もしかしたらそれは何か意味があるのかもしれない。だからそこに向かう。
ほんと似た者同士だ。
だから良いよね、ジュンヤはトラック事故で私を巻き添えにしたし、私は直接じゃないけど、女神が間違えて雷を落として殺しちゃって、オマケに変な称号が付いちゃったけど……
うん。
お互い様ってことでOKだよね。
にっこり。
◇◇
和解というのかな。
俺はアリスのお陰で死んだり妙な称号を与えられたり、俺はそもそも俺たちがこの世界に来る原因を造ったり。
まあ今となってはどうしようもないことだしってことで、なんか和解した。というか啀み合っても居なかったわけだから、平和的解決なのかなあ。
「ねえ、同郷のよしみってことでさ、その剣見せてくれないかな~。」
は、なにそれ?同郷のよしみって、え?
それに剣って、雷神剣のことか?以前ニトロから拒否されたはずなのに、なんで俺がコレを背負っているかって言うと、アリスのお陰でもある。
ニトロも現金なもんだ。売り飛ばして皆で分けるとか言ってたのに、アリスからの謝礼を見てあっさりと俺にくれやがった。ほんとにもうあいつの性格は、なんていうか……まあ良いけどな。
「いいから、ちょっと見せてってば。」
言いながらアリスが背中の雷神剣に手を伸ばした。
「ちょ待て、っておいっ!」
俺が否定した時には既にアリスは剣の柄を掴んで引き抜いていた。
なんて速さだよ、見えなかったぞ。あっと言う前に背後に回ると柄を握り、長さにしたらアリスの背丈程も有る雷神剣を抜くと、かなりの重量なのに片手でくるりと回転させて構えやがった。
今の素早い動きと雷神剣を軽々と扱う腕力。やっぱコイツ並じゃない。
「大きいけど、使いやすそうな剣ね。」
「返せよっ!」
えへへと悪戯っ子のように笑うアリスだが、剣を持つ姿は俺以上に様になっている。
「この剣さ、どうやって手に入れたの?」
「あ、良いだろそんなの。」
「まあいいけどさ、これって普通の剣じゃないよね。」
えっと、え?判るのか。確かにそいつは普通じゃない。遠い過去に鍛冶の神が造ったとされる名物、神の武具の1つ雷神剣だ。
以前に戦ったオーガファイターが持っていたものだが、何故奴がそれを持っていたかは知らない。
「最初に見た時から気になってたんだけど、魔剣かな。凄い魔力が封じられてる。」
アリスは手に握られた雷神剣を見つめ、眼を輝かせていた。よほど気に入ったようにだけど、やらんぞ。
「判るのかよ……」
「当然でしょ?」
当然……なのか?伊達に天臨王じゃないってことか?悪かったな不死神にはそんな能力なんてねーんだよ。
「ちょっとコレさ、貸してくれるかな?」
は、何いってんの。
「試し切りがしたいから。」
え?
なんか剣先を俺に向けてるけど、ちょまて。まさか俺が死なないからって俺で試す、なんてこというなよ。
「動かないでね?」
アリスの口元が盛大に吊り上がっている。やべえ、マジこいつ殺気を放ち始めているぞ。んで、剣先がすうっとあがって空をさした。
うわっ、なに考えてんだコイツ、やべぇぇ!俺の中で思い切りアラートがなってやがる。
こいつマジだ!
††
午後にあと1話送ります。




