<C02> 《ドジ女神が駄女神に進化しました》
本日二話目です
ドジ女神の進化形態は駄女神なのでしょうか?
††
どうやらアリスはまだ俺があのとき一緒にいた男だとは解ってないらしい。
アリス、俺たちは同じ世界どころじゃない、同じ場所、同じ時間に死んだんだよ。
まてよ……てことは俺はコイツを巻き込んじまったのか?
俺がトラックに跳ねられたから、トラックがハンドルミスって土手から転げ落ちて、アリスを押しつぶしちまったのか。
──はぁ、最後の最後まで俺ってのはどうしようもない。
間を空けて俺は口を開いた。
「そっかぁ………すまなかった。」
「何が?」
「……あんた…あんときの女子高生だろ。」
「ん?」
アリスは意味がわからないのか、首を傾げた。
「俺がさ、巻き込んじゃったんだな。すまん。」
俺が頭を下げるが、アリスは意味が解らないようだ。多分、そうだよな。いくらなんでもそんな事があるわけ無いしな。
同時に死んだからって、揃って同じ世界に送られるとかさ。そんなの有りか?俺だって疑いたくなる。
「………それって、どういうこと?」
アリスはわけが分からなそうに、眉を顰めて俺をみている。
訳が判らんだろうさ。俺だって混乱しててほんとなのかどうなのか、よく判らん。だけどこれもあの女神の采配なのかと思うと、すぐに理解できてしまうのが怖い。
あのクソ女神、まじで頭が痛い。
「俺は………あんたの云ってる、浮浪者だよ。」
は?という声が聞こえてきそうなほど、アリスは口をポカンと開けている。
「いっとくけど俺は浮浪者じゃねぇぞ。家を追い出されて、手持ちの金が無くなって、寝る所を探して河川敷に居ただけだ。それを糞ガキどもにフクロにされたんだよ。」
一応俺は浮浪者じゃないと弁明しておく。まあ河川敷で寝るなんて浮浪者そのものだけどよ。
アリスの硬直状態が溶けない。俺がお前の立場だったら、同じ反応するだろうな。
「あんとき土手上の車道に飛び出したのは……あのガキ共が怖かったんじゃなくて、あんたのような勇気のある女子高生をみて、俺自身が心底嫌になったからだ。だけど……悪いな、それであんたまで巻き込むとは、すまん。」
「ええええええっ!」
俺が話し終わると同時に、アリスは思いっきり声を上げた。
おいおい、皆が起きるだろと口に手を当てる。
「無礼者っ!容易く妾に触れるなっ!じゃなくて、まって、それってなんなの?どういうこと?」
俺の手を払いのけてまた声を上げる。なんか皇女様と女子高生が混在してるな。
「いいから静かにしろ、みんな寝てるんだ。」
「其方に云われんでも解って、あ、あああ、ごめん、でもでも、おかしいじゃない!」
アリスは頭を抱えて、わけが解らないと唇を歪ませて、俺を睨むような憐れむような、訳が判らん顔をしている。
「おかしくても、俺もあの場所に居たってことだ。」
「じゃあ私が死んだのは、貴方があの時の浮浪者だってことで、えーと、トラックが転がってきて私を押しつぶして、貴方が跳ねられたせいで……」
「色々混乱してるみたいだが、まあそういうことで、済まない。」
アリスは頭を抱え込んで俯いちまった。
だよな、混乱するよな。俺だって訳が分かんねえよ。
「はぁ………もう良いわよ。」
少ししてアリスは深い溜息と共に顔を上げた。立ち直ったのかな。
「大丈夫か?」
「ええ、大丈夫。」
「……巻き添えにしてすまなかったな。」
再度謝るとアリスは顔を振った。
「良いよ、別に気にしてないし、忘れてたことだし。」
「いいのか?」
「うん、そのせいでこの世界に来ちゃったわけだけど、この世界では皇女だし、色々楽しい思いもしたし、割りと気に入ってるから良いわ。許してあげる。」
ふ~ん、もっと怒るかと思っていたが。やっぱ皇室で暮らしてたからかな。
「はぁ、そう言われると助かるけど、やっぱ皇女なんていう身分だから心にゆとりでも有るのかね。」
「そういうわけじゃないけど、貴方だって……うーん、どう見ても貴族っぽくないなぁ……」
アリスが俺をマジマジと見つめて、顔を顰めた。そりゃそうだ。髪だってボサボサだし、薄汚れた防具を着た狩人そのものだからな。
「俺は村人その1だ。」
皇族相手にちょっとふてくされて言うと、アリスがぷっと吹いた。お前な、怒るぞ?
「村人ね、あはは、随分扱いが違うのね。」
ケラケラ笑うアリスにくちょっと殺意を覚える。むかつくんですけど。
「しらねーよ。あの女神にでも聞け。」
「まぁまぁ、私だって楽しくやってはいたけど、それなりに苦労も多いのよ?」
「そりゃ俺だって楽しくやってたけどな、貴族の暮らしと村人の暮らしじゃ意味が違うだろうが!」
お前らがオシャレで豪華な暮らしをしてる時に、こっちは草むしりしたり、山や川で走り回ってたんだわ。
まあ、それも楽しかったけどな。
「でもそれも1年前まで。」
「1年前?」
「うん…………それより、貴方が居るってことは、それじゃあの場で死んだ《3人》が同じ世界に転生したってことなのかな?」
「まあそう……え?」
今度は俺が声を詰まらせた。
なんで3人?俺とアリスで2人だぞ、3人って数え間違いか、え?どういうことだ。あの場に居たのは俺とアリスと糞ガキ3人だ。
ん?
え?
どういう意味だ。まさか……
「貴方に絡んでいた中学生が、この世界に転生してるのよ!」
「はぁ?」
今度は俺が硬直した。
「日本での名前は知らないわ、こっちでの名前はザック=ウルフスタン。南部のウルフスタン子爵の嫡男として転生してるわ。」
「まてよ、え、子爵?え?」
なんであんな糞ガキが子爵?俺より余程悪い事してないか?俺は唯の糞ニートの引き籠りだけど、あいつら浮浪者狩りなんてしてる、言わば犯罪者だぞ。
ニートが村人なのに、なんで犯罪者が子爵の嫡男なんだ?なんでだよ。
「しかも【勇者】の称号を貰って、こっちで好き放題生きてきたそうよ。ほんと思い出しただけでもムカつく最低最悪のガキ。」
アリスが怒りの篭った口調で、俺を睨みつける。なんかそれだけじゃなさそうだな。なんか訳ありっぽいってのはそれにも起因しているのかもな。
しかしちょまてよ。
もっと聞き捨てならないのは、なにそれ【勇者】ってなんだよ。なんであいつが【勇者】なんだよ。俺なんて最初は何も貰えなかったんだぞ。
元々俺が最初に妄想したことじゃないか。チートなスキルや称号を貰って、この世界でヒャッホイするとか、まさに俺が考えたことじゃないか。
なのに俺はこんな呪いの称号と村人とか、わけわかんねぇし。
なんでなんだよ。
いやマジでムカつくんだけど。
女神ちょっと来い!
もうドジ女神じゃねぇ、テメエは駄女神だぁ!
《ドジ女神が駄女神に進化しました》
じゃねぇぇぇえっっ!
「駄女神はともかく、ザックは私と同じ王立イグリース学園に入学したの。あとは色々とあって、私はあいつに侍女を殺され、マリアも私も酷い傷を負わされた。」
どういうことだ?イグリース学園も聞いたことがあるが、亜人との戦闘を見た限り、アリスは贔屓目に見ても強い。ザックに傷を負わされたってことは、アリスよりも強いってことなのか。【勇者】恐るべし、ってところか。
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あと1話いきます




