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ドジな女神に不死にされました  作者: 無職の狸
第二章 運がなかった私は皇女になったけど、戦闘系で行きますっ
55/109

<K15> 不穏な影

女子会は楽しいのですが……


※ 4/23 ジュンヤ編(第一章)とアリス編(第二章)を再構成しています


††


 女子会です。

 

「アリス様、アリス様。」

「食後のデザートをお持ちしました。」

「お茶うけもありますわ。」


 エリーザの手作りサンドイッチを美味しく頂いていると、いつも通りに公爵令嬢のベルティユとリリアーヌを始めとして、侯爵令嬢やら伯爵令嬢が集って来る。

 

 かくしてお昼休みは、10人を超える女子会となるのです。

 

 皇族とお知り合いになれ、という厳命でも着ているのでしょうか。お友達いっぱい出来た~♪

 

 最近ではお昼だけでなく、授業が終わった後とかに学園の私有地内にある森へ行ったり、野原に散歩に行ったりしております。

 

 私は1年生の時に私有地内は粗方探索して、危険な生物がいるかどうかは確認してますけどね。

 

 私有地内は兎やら鹿やら、リスに近い生物ばかりで安心だし、花が咲き乱れる野原もあったりして、良い環境です。

 

「あの人また居る。」


 伯爵令嬢が視線を森の方へと向けて、気味悪そうに見ている。


「どうしました?」


 私が尋ねると、怪訝な顔をして頷いた。

 

「偶に見るんですけど、あの人……」


 彼女の視線を追うと、森の中に背の高い男性がいた。イグリーズ学園の下級貴族クラスの制服を着ている所から、学園の生徒であると解るけど、身長がわりと高い。

 

 160センチ以上は有るかもしれない。金髪に黒い瞳。殊更イケメンというわけではないが、普通に見ればそれなりに見えるのだろうけど、私はどうにも気に食わない。

 

「あれは……」


 見たこともない男子生徒に、私は怪訝な思いを抱く。見た瞬間、何か嫌なモノを感じた。生理的に無理、という奴かもしれない

 

 なんだろう、あの目だろうか。あれは生理的に受け付けない、そんな感情が湧いてきた。

 

 厭らしい目つき、だが見るとその近くには女子生徒がいる。やはり下級貴族クラスの女子と、平民クラスの女子。

 

 どちらも可愛らしい子たちだけど、どこか俯いて心此処に非ずの様な、それでいて彼の近くにいた。

 

「なんか変ね。」


 私が訝しんでいるのが解ったのか、彼は女子の身体を引き寄せると、舌をだして唇を舐め、2人の身体に手を添えた。

 

 女子達が顔を顰めてさらに俯く。

 

 まさかあの子たちは無理やり……

 

 そんな事があるのだろうか。彼女たちは私達と同い年位だろう。そんな幼い女の子をまさか。

 

 男はニタニタと笑い、女の子を引き連れて校舎の方へと歩いて行った。

 

「なんなのでしょう、気味が悪いですわ。」

「学園内であのような行為、不潔です。不潔極まりません。」

「下級貴族の分際で、失礼極まりません。処断いたしましょう。」


 彼女たちも何処かでそれを察知していたのかも知れない。やたらと、なんというか普段以上に嫌悪を抱いているようだ。

 

 私もどうも嫌な感じがして、胸騒ぎが止まらなかった。皆と別れ部屋に戻った私は、直ぐに彼のことを探る様にマリアに命じた。


 

 

 数日してマリアから報告を聞いた私は、少々ムカついていた。

 

 マリアは中々に有能で、彼の素性を全て調べあげてくれた。

 

 彼はウルフスタン子爵の三男ザック。

 

 ウルフスタン子爵領では、かなりの暴れん坊で通っていた。平民に対して非常に暴力的な振る舞いがまかり通り、兄2人すらも手を焼いていたという。

 

 剣術というより我流の剣で暴れ、数々の問題を起こしたため、イグリーズ学園に放り込まれたというパターンらしい。

 

 確かにこの学園にはそういう子供も居る。家庭での教育では御しきれない子息を放り込み、まともにさせるという。

 

 学園では先生達すら手を焼いていたが、それほど表立って悪辣な事はしていないように見えているらしい。

 

 暴れん坊が剣術を習い、力を付け、体格にも恵まれ、結果、クラスを暴力で制してしまった。

 

 しかもやり方は狡猾であり、先生達が見ていない所で、下級貴族クラス、平民クラスの男子に暴力を奮い、また女子達にも乱暴を働いた。

 

 あくまでも噂に過ぎないが、平民クラスや下級貴族クラスで自主的な退学者が出たのは、彼に寄る所が多いらしい。彼に暴力を振るわれた男子、傷物にされた女子はかなり居るようだ。

 

 今残っている中にも、彼の暴力に屈服し隷属している男子女子が、かなりいるという。


「最低な男ですね。」

「なによりも、これらは噂の域を出ません。彼はかなり知略に長けております。」

「マリア、お前がどうにかできないの?例えば暴力を振るっているところを………」

「申し訳ございません。私の前で、奴は他の生徒に手を出しておりません。」

「……どういうこと?」

「恐らく、私が見ていることを感じ取っているのでしょう。」

「まさか?」

「私が見ているときは、奴は私に聞こえぬほどの声で男子や女子に話し掛けます。生徒は途端に怯えた顔をしますが、奴は口を塞ぎ、反論すらさせません。」


 どうやらそうとう脅しに長けている、ということか。そしてマリアの隠密を見破るとは、勘も悪くはない。

 

「なら私がっ。」

「証拠がありません。いまアリス様がでても、生徒たちは決して口を開かないでしょう。」


 私は歯噛みした。

 

「マリア、できるだけ証拠を集めて頂戴。私の護衛が手薄になってもいい。」

「………申し訳ございません。私が優先すべき事は、アリス様の護衛で御座います。」

「マリアッ!」

 

 私が叱責するがマリアは首を振る。


「たとえ下級貴族や平民に死者が出ようとも、アリス様さえご無事であれば。」

「マリア……貴女はそれで良いの?」

「ご容赦下さい。」


 マリアは深く頭を下げ、その意思は変わらない事を告げた。

 

 ぎりぎりと歯を噛み締め、エリーザへと視線を向けるが、エリーザもまた悲しい顔で顔を振る。


 彼女たちの気持ちはわかる。もしザックが私に何かしようとするなら、彼女たちは命を賭して私を守ろうとするだろう。

 

 しかしそれ以上はないのだ。名前も知らぬ下級貴族や平民は、彼女たちの護衛対象外なのだから。


 どうしようもないことなのか。






 胸の中にわだかまりを残したまま、私は日々を過ごしていた。

 

 先生たちも少し暴れん坊、程度で誤魔化されている。

 

 当の生徒は奴の脅しや暴力に屈している。

 

 仮に私が単独で乗り込んでも、奴が正体を表さない限り、どうしようもないことなのか。


 ザックに対して私は何もできなかった。

 

 ザックもまた上級貴族クラスに対して、変なちょっかいをかけてくることはなかった。

 

 掛けてくれば私が即座に動くと予測していたのだろう。


 そして忸怩たる思いを抱え時は過ぎ、4年生となり、間もなく5年生になろうかという時に、奴は私に近づいてきた。


「あんた、皇女なんだってな。」


 庭園のテーブルで公爵令嬢のベルティユとリリアーヌと、午後のお茶を飲んでいた時、奴が声をかけてきた。

 

 振り向けばあのニタニタとした、厭らしい顔があった。周りにはどこか陰のある男子と女子を侍らせている。

 

「無礼な男。貴様と交わす言葉などありません。」


 私は再び前を向いて公爵令嬢達に、視線を向ける。

 

「おいおい、連れねぇなぁ。折角俺が声を掛けてや……」


 ザックの言葉が途中で途切れる。

 

「ひっ!!」


 リリアーヌが驚いた顔をし、小さな悲鳴を零した。

 

「なんだこいつぁ!」


 ザックもまた驚愕して居るようだ。

 

 恐らくマリアだろう。ザックに向けて剣でも突きつけている、といったところでしょうか。

 

「マリア、遠慮はいりません。その無礼者が私にあと一歩でも近づいたら、切り捨てなさい。命を刈り取っても構いません。」

「御意。」


 マリアが静かに頷いて、ザックに突きつけた剣を構え直す。ちなみにマリアの剣術は通常の剣術とは異なる。例え相手が剣術の達人であっても、最低限翻弄し傷を負わせる事ができる。

 

 私と暇な時に打ち合いをして、この4年間鍛えてきたのだから、当然だ。つまり私の折り紙つき。逆に私も学園の授業の剣術だけでは物足りなかったので、良い稽古相手でした。

 

「て、てめぇぇぇ!」

「吠えるな痴れ者」


 怒りの形相で吠えるザックに、私は静かに、しかし顔を合わせることもなく言う。

 

「貴様の無礼な振る舞い、妾も耳に挟んでおる。今直ぐ子爵家をお取り潰しにしてやろうか?」

 

 凛として言い放つ私の言葉に、ザックは後じさり、取り巻きを残し去っていった。

 

「貴女たちもあのようなものに従う必要などありません。なにかあるのであれば、私に言って来なさい。」


 私の言葉に取り巻き達がどよめいた。

 高貴な立場にあるものは、義務が強制される。家格の低い貴族、平民を守るのも王家の勤め、皇女の義務だ。

 

 しかしどよめく彼らはザックを追いかけていった。私の気持ちは彼らには届かないのか、それとも奴の暴力支配が強いのか。


「マリア、有難う。」

「過分なお言葉にございます。」


 マリアの気配が消えた。

 

 少しだけ胸がすっとした。でもまだまだだ。あの取り巻きの子達を救わないと、奴をどうにかしないと。

 

 胸の中にわだかまりを残したまま、学年は忌まわしい出来事が待つ、5年生へと移り変わっていった。


††

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