<34> 旅は道連れ世は情け
仮面少女と侍女と騎士との出会いなのです。
††
「あれって、冒険者じゃないよな?」
前方で戦う貴族風の3人をみて、俺は確認を求めた。
「高級ドレスの冒険者なんているかよ。貴族のお嬢様と守る騎士ってところだな。」
「とにかく助けよう──助けいるのかなぁ?」
レヴィが言ったが、あの勢いで倒していくなら、助けなどいらないかもしれない。だって見る見る亜人は打ち倒され、鎧を身に着けたオーガポーンすらもあっさりと斬り倒していくのだから、相当な使い手達だ。
何よりあれだけの立ち回りで、仮面の少女とメイド服の少女には、返り血が全くついていない。
血で汚れているのは、騎士だけだ。なんなんだあの2人は。余程の手練れ、ということなのか。
「あのお嬢様、すげぇな。」
「助けて大丈夫かな。」
レヴィも、俺と同じ懸念を持っているようだ。下手に助けて、逆に俺達が襲われたら、かなりやばい。
「高級ドレス来てるやつが盗賊なんてしねーだろ。」
しかし俺とレヴィの懸念など気にもせずに、ニトロがにぃっと唇を吊り上げ、馬車を速足で進めていった。
俺たちが着いた時には戦いは終わっていた。
多数のホブゴブリン、オーク、そしてオーガが血の海に倒れていた。
よく見ればオークもただのオークじゃない。黒く屈強そうな鎧をまとったオークナイト。それに先に倒されたのか、オークメイジが森の陰に見えた。
数にすれば、40匹ほどだろうか。これだけの亜人を返り血も浴びずに倒したのか。
「おーい、でーじょうぶかぁ?」
ニトロが声を掛けると、銀髪さらさらヘアにグレイの瞳をしたメイド服の少女がこちらを向く。
面白いことにこれだけの戦闘をしたというのに、3人とも息一つ乱していないようだ。本格的に運動する前に、軽いストレッチでもして体を温めた程度に見える。
「ご心配有難う御座います。」
メイド服の少女がペコリとお辞儀した。
「これだけの亜人を相手に、見事な腕前だな。どこぞ名のある剣士かな?」
「いえいえ、ただの旅の者です。」
メイド少女がにっこりと答える。ただの旅のものにしちゃ、ずいぶんと豪華ないでたちっぽいんだが。プライバシーは何も答えないよ、ってことかな。
「兎も角無事でよかった。で、馬車も馬も見当たらないようだが、歩きで旅でもしてるのか?」
ニトロは敢えて突っ込むのをやめたようだ。変に気根掘り葉掘り聞いても、まずいと判断したのかな。
「いえいえ、途中までは馬車でしたが、困ったことに先日街道で魔獣に襲われた時に、馬車を壊されました。その時に護衛たちも殺され、次の街に着くまで歩いてるところでした。」
メイド少女が如何にも困った顔をして語った。悲しそうに目を潤ませて、てか芝居か?芝居なのか?
「なるほど、そりゃ難儀だな。3人だけか?」
「はい、私の主人様と、婚約者様の3人です。」
言った途端に仮面の少女の青い瞳が、キッとメイド少女を睨んだ。
「マリアッ!奴は私の婚約者と決まっていませんっ!」
きつい口調で仮面の少女が言う。えっと「奴」って婚約者予定の人の事?「奴」とか、偉いいいようじゃないか?
それってきつくね、きついだろ。本人の前でそんなこと言ったら、男が可哀想だろ。
だが金髪碧眼の騎士風の少年も、仮面少女に便乗した。
「そうだそうだ、俺はまだ勝ってないからな!倒して初めて婚約するんだ!」
勝ってないってなんだソレ?
結婚相手と勝負するっていうの?それで勝つのが条件あの?
わけわからん。
なんか複雑な馴れ初めのようだが、少女のドレスは如何にも高級品だし、少年の鎧も近くで見れば、なかなかの銘品のようだ。
おそらくは2人共貴族なのだろう。親の決めた相手ってところかな。
俺は金髪の仮面少女を凝視した。いや別に睨んだわけじゃないが、ただ単に見つめただけだ。
そして仮面少女も俺の視線に気づいたのか、こちらを見た。いや最初は俺の頭の上を見て吹き出しそうになり、ついでしがみついてるルミを見て、最後に俺を『なんだこいつわ』という目で見た。
まあ普通の反応か。
結果的に俺と仮面少女は、視線を交わすことになったのだが、俺は固唾を呑んだ。
──オッドアイ
この世界にきて、いや前世も含めて初めて見た。
右は綺麗な蒼い宝石のようだが、左は薄い赤色、燃え立ちそうな紅の様だ。仮面の少女はオッドアイだった。
覚めた様な蒼と燃えるような紅が対照的で美しい。だが、なんだろう、どこかなんか引っかかる、というか違和感がある。
「ははは、面白いなお前ら、ここで会ったのもなんかの縁だ。俺らの馬車にはまだ空きがある。3人なら乗れるだろう。よかったら次の街まで乗っけてってやろうか?」
ニトロがあっさりと乗車を許可するが、そんなお気楽でいいのか?もしこいつらが盗賊の一味だったら……いやそれはないか。装飾品が豪華すぎる。こんな豪華な盗賊なんぞ聞いたことがない。
「なぁ~に、大丈夫だ。俺の人を見る目は確かだ。」
ニトロの目が確かかどうかは知らんが、俺の心配を察するかのようにニトロがニヤッと笑った。
「有難う御座います。──アリス様、クリフ様。」
メイド少女がペコリとお礼をすると、ドレスの少女と鎧の少年に向かってニッコリと笑う。
アリスにクリフ、そしてマリアか。お嬢様と侍女、そしてその|婚約者(予定)か。
仕方ないなと、俺はアリスという仮面の少女に向けて、手を差し伸べた。
「ちっと狭いけど、我慢してくれよ。」
「うむ、忝ない。」
じろりと俺を見ると、仮面の少女が手を差し出した。
「感謝する。」
次に少年騎士。いかにも貴族っぽい上から目線だな。
「助かりました。」
最後にメイド少女。
彼女はどこに置いてあったのか、見た目にも大きめなトランクを左手に持っていた。
「大丈夫か?捕まれ。」
俺が右手を差し伸べると、拒否するかのようにトランクを出してきた。
「すみません、トランクをお持ち下さいますか?」
俺に手をとられるのが嫌なのか?嫌われたか?俺は嫌われてるのか?
ちょっとショックを受けつつも、顔には御首にも出さずに
「ああ、貸しな。」
と笑顔でトランクを持ってやる。メイド少女は席の方へと向かい、改めてトランクを受け取った。
「お世話になります。こちらは──家名は伏せさせていただきますが、とある高貴なお方で、アリス様とクリフ様です。」
メイド少女が少し躊躇い、家名を告げずに2人を紹介した。
「私はアリス様の侍女を努めております、マリアと申します。」
マリアと名乗った侍女がペコリと頭を下げ、アリスとクリフも軽く会釈した。
やはりどこぞの貴族様の子女ってことか。身分を明かせないというのは、なにか訳ありか、余程高貴な身分なのだろうか。身分を明かせば誘拐されかねないとかだろうか。
とはいえあの剣の腕前じゃ、めったな事にはなりそうもないが。
「警戒しなくていいぜ、俺たちゃ誘拐なんて大それたこたぁしねー、しがない冒険者だ。」
ニトロが笑う。
「お貴族様を誘拐なんざして追いかけられる寄り、魔獣や亜人倒して金もらったほうが気楽だからな。」
「そーねー、誘拐して大金もらって、国にいれなくなるとか、笑えない冗談ね。」
レヴィが笑うが目が怖いって。
「分相応が良いのよ。」
リリスも笑う。
「んじゃこっちも紹介するな、俺はニトロ、このチームのリーダーで、戦士だ。」
「御者だけどね。」
「うるせー、この女はリリス、神官、見た通りエルフだ。こっちの女はレヴィ、魔術師、そんでそっちの野郎はグルーム、魔法剣士、こいつもエルフな。んでこっちのゴツイのがゴレム、戦士で盾持ちだ。」
ニトロが次々に紹介し、そして最後に俺とルミを指差す。
「こいつとガキはお荷物だ。」
「はぁ?」
何言ってんだこいつ。
「俺たちゃこのお荷物を、魔大陸へ渡る船着場まで運ぶ途中なんだ。」
「おぃぃ!」
なんなら降りてやるぞ!
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