<32> 吸血鬼には真祖というのがいまして
真祖吸血鬼は死なないのです──ジュンヤと一緒~~~
††
「あたし、アマンダじゃないよー」
「じゃあ、名前は?」
「んーと、んーと、んーと?」
可愛い顔をして腕組みして考え込む。そんな仕草までアマンダを思い起こさせる。
「じゃあ思い出すまで、ルミにしようか?」
「うんっ!」
俺が言うと、少し考えてから、大きく元気に頷いた。
そんな吸血鬼と同じような名前にしてどうすんだ、縁起でもない、記憶を戻す気か!と云われたが、俺の中でこの幼女はアマンダじゃないんだ、と刻み付ける必要があるからだ。
いざとなれば、辛いが、戦う時が来るかもしれないのだから。
「ったく吸血鬼なんて拾って、ほんと馬鹿珍なだから。」
レヴィが俺の隣に座って、膝の上ですーすーと寝息を立てている幼女──ルミを見つめる。
「……すまん」
「ほんと、なんか起きたらあんたに責任とってもらうからね。」
レヴィが俺を見上げる。なんか頬が染まってるのはどういうことなんだよ。だいたいお前の言う責任ってなんだよ。
「それよりあんた、こいつに噛まれたのに、眷属にならなかったわね。」
「あ、ああ、そういえばそうだな。」
「ふ~ん、あんた怪我とかが異常に直りが早いけど、再生スキルでも持ってるの?」
「え、あ、あの……」
レヴィがジロリと睨みつける。なんか怖いぞレヴィ。
「例え持ってても、吸血鬼のは物理的損傷とかじゃないし、毒素でもないの。魔術に近いスキルなんだから、普通じゃ防げないよ。」
マジすか?初めて知りました。
「もしコイツの記憶喪失が芝居で、こいつにその気があれば、眷属にされててもおかしくないのに。」
不思議そうな顔をするレヴィだが、そっと細い指を伸ばすと、つんつんとルミのほっぺたをつついてにやにやしてる。
「……吸血鬼のくせに、やたら可愛いんだから」
指で頬を突くたびに、ルミがムニュムニュと反応するのが面白いようだ。
「うふふ、良かったら浄化の魔法かけとく?」
リリスが言ってくれるが
「ありがとう、多分大丈夫だと思う。」
スキルが超速再生にクラスアップしてからは、毒素などは自然浄化されるようになった。酒精のような物は毒と判定されないのか、無理だったが……
吸血鬼の眷属化が毒素じゃなく、魔法であればおそらく、魔法防御があるから大丈夫だろう。
多分……
「しかしルミネスはあの焔で死ななかったんだな?」
俺が言うとレヴィが困った顔をしている。
「いや、多分死んだと思う。」
「でもこうして蘇ってるんだろ?」
それならこいつはルミネスじゃないのか?
「いやあたしの見立てが間違ってたんだと思う。」
「ん?」
「ルミネスは普通の吸血鬼じゃなくて、【真祖】だったんだと思う。」
「真祖?」
俺が尋ね返すと、レヴィはこくりと頷いた。
「【真祖】は、不死者と同じなのよ。」
「不死だって?」
驚く俺にレヴィが吸血鬼の真祖について説明してくれた。
一般的に吸血鬼というのは、浄化の焔や日光とかが弱点だし、滅する事で蘇ることは無いらしい。
しかし吸血鬼にも階層があり、低位の吸血鬼などは、ほとんど亜人と変わらない程度の戦闘力しか持たないとか。
逆に高位になると、高い不死性を発揮するとか。浄化の焔や日光で消滅させられるのは、階位第二位の者たちまでだそうだ。
一般的に目撃されるのはここまでで、吸血鬼も夜にしか活動しないので、そう思われてきていた。
しかし極まれに、数百年単位で活動する【真祖】と呼ばれる、日光の下でも活動できる怪物が出現するらしい。
もちろんそんなレアな吸血鬼などレヴィもあったことがない。
そのため一般的に知られている、浄化の焔で倒せると思っていたのだが、どうやらルミネスはその【真祖】だったのではないか、とレヴィは言う。
【真祖】は吸血鬼の頂点であって、普段は人と変わらず、日光の下でも活動ができる。一応の弱点は浄化の焔なのだが、【真祖】はそれでも完全に滅する事は出来ない。
【真祖】はある意味、完全な不死の肉体を持つという。例え死んだとしても、数時間から数日後には灰の中から蘇り、復活する。
まるで俺と同じだな。
「完全に消し炭にしてやったのに、死んでなかった。【真祖】なら──魔核を完全に破壊して、止めを刺してやらないと、殺すことは出来ないのよね。」
「魔核?」
「うん、【真祖】は体内のどこかに魔核を持ってるといわれるの。倒すためには、それを完全に破壊するか、あとは封印魔法を持つ人に、封印してもらうしかないのよね。」
「封印魔法か。」
「うん、上級魔術の上を行く魔術。あたしにもできないし、リリスでも無理。長年修行した僧侶とかが使えるかな。」
「なるほどね……じゃあ、魔核を破壊なら、俺達にも可能なのか?」
「うん、ルミネスが【真祖】だとしたら、消し炭の中で数時間掛けて、魔核から再構成したのよ。だけど──なんで記憶がないのかな、あんたが頭を破壊したから?」
レヴィはいまいちよくわからないと、首を傾げていた。
「それはともかく、真祖となれば幼女であっても、中級か上級クラスの戦闘能力を持っているはず。気を付けてね」
「まじかっ!」
こんな幼気な幼子に、そんな戦闘力があるっていうのか。
「それはともかく、この……なんていうか、どっからどうみても人の幼女と変わらないし……【真祖】の復活ってこういうことなのかなぁ、なんか本で読んだのと違うなぁ。」
またほっぺをぷにぷにしながら、笑っている。
レヴィ、お前楽しんでないか?
しかしこんななりでそんな戦闘能力があるっていうのかな、それってどの程度って思えばいいんだ?コッペルくらいか?
あ、そういえばコッペルが静かだ。あいつルミを見ても、吠えもしなかったんだよな。
むしろ懐いているし、亜人や魔族が嫌いなはずなのに。今も静かに頭の上で寝てるし、さっきなんてルミと戯れていたしな。どうなってんだ?
「ともかく、すまないがこいつに関しては、俺が責任を負うから、頼む。」
俺の胸の中で眠る幼女の頭を撫でてやると、可愛らしい笑顔で顔をすりすりとしてくる。
ああ、なんでアマンダと同じ事をするんだ。駄目だ、涙が溢れてくる。
そんな俺をみてレヴィは肩を竦め、嘆息してリリスに視線を向けた。
「一応言っとくけど………記憶が戻ったら、殺すからね。」
レヴィは俺にそう云い捨てた。
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