<30> 北へ
馬車はとっても高いのです( ;∀;)
††
「じゃあお前、そんな生きてるか死んでるか判らない奴のために、ノスフェラトゥへ向かってんのか?」
「ノスフェラトゥの奥地なんざ、死ににいく気か?」
ニトロが呆れ顔でいうし、ゴレムが俺をジロリと睨んだ。
確かにそうだ。彼らの言うとおり、普通なら死ににいくようなもんだ。
「それに魔王城なんて、ほんとにあるかどうかも判らんぞ?そもそも魔王の存在だって解ってないんだしな。」
「ああ、知ってる。」
有るか解らぬ魔王城を探すとか、馬鹿げてるよな。だが俺は……
「………無かったら無かった時、魔族の大陸を虱潰しに探して、絶対にみつける。」
「大陸をって……それこそ無理だろうが。」
無理……そうだ、彼らのいうことは最もだ。
だが、それは普通の人間ならばだ。
呪いとしか言えない、死ぬことのない、死ねない肉体を持つ俺なら可能だ。
「悪いが、俺はいく。」
これ以上は話しても無駄だ。俺は踵を返し酒場を出ようとした。
「おいおいおいおい。」
またニトロが腕を掴んで引き止める。またお前は……
「ねぇ、その人ってそれほど大切な人なの?」
レヴィが不意に直球を投げやがった。
「………俺の命だ。」
そうアマンダは俺の生きる望み。俺がこうして旅をしているのは、アマンダが生きていてくれる、そう信じているからだ。
「そっか……その人って、女の人、恋人なんだね?」
「ぶっ」
レヴィの言葉に吹き出してしまった。
「図星~~♪」
なにこいつ?なんかニヤついてやがる。なんなんだこの女、茶化してんのか。
「……俺はもう行く。」
多分顔が赤くなってるな~、くそったれもう止めても無駄だ。絶対行く。
「何言ってやがる、もうすぐ夜だぞ、この時間に街道を徒歩で行くなんて危険だぞ。」
お前らが引き留めたから遅くなったんだが。
「構わない。」
「は~~、ちっとまて1分でいい、ちっと待ってろ。」
「あ?」
1分ってなんだ。
ナンパかよ?
と振り返ると何やら5人でこそこそと話している。そのうち全員が頷いて、ニトロが振り向いた。
「ジュンヤ、今日俺たちと付き合えば、馬車でノスフェラトゥへ渡る船着場まで送ってやる。どうよ?」
「馬車?」
いやお前ら馬車なんて持ってないだろ。
「今回の報奨金は結構大きいからな。馬車を買っても十分余る。どうよ?」
待てよ。馬車は存外高いぞ。いくら報奨金貰っても、大半使い果たすだろ。そんな借りなんて俺はゴメンだ。
「借りは作りたくはない。」
「ちげーよ。今回あのバケモンを倒せたのは、お前の功績が大きいからな。だからその謝礼だと思って受け取れ。もちろん船着場まで送った後は、馬車は俺達が貰う。売り払ったら俺達だけで山分けだ。」
ほんとまぁ口が上手いというか、頭がよく廻る。つまり借りじゃないから遠慮するなと。
「………」
だけどお前らの取り分……馬車か。
「ここから船着場までは、歩きだと2ヶ月以上は掛かるぞ。だけど馬車なら20日程度で行けちまう。どうよ?」
どうよどうよと煩い奴だ。でも奴の言うことは最もだ。一気に一ヶ月半は短縮できる。
「でもお前らだって予定があるだろうが。」
「なぁに、俺たちゃ宛のない旅の冒険者だ。面白いことが待っていれば、そこに向かうさ。」
ニトロがにっと笑うと、リリスが、レヴィが、グルームが、ゴレムが続く。
「たまには北の方に行くのも良いしね~。」
「いっそ魔大陸を旅するのも悪くはないね。」
「北方辺境の辺りは昔住んでたしな。」
「うむ、辺境で狩りも面白いかもな。」
パーティの皆がニヤついている。
確かに馬で行けば早いのは確かだ。それは俺も考えたし馬を買ったことも有る。だが一人だと野宿の際に、魔獣に馬を喰われてしまった。
それでも金を溜めて何度か買い直したが、盗賊や野党に襲われたり、また魔獣に喰われたりして、結局金を散財するだけだった。
だから諦めて徒歩で旅を続けてきたんだ。
だが彼らの好意に甘えれば、野宿にしてもパーティで見張りをすれば問題はない。
「はぁったく。負けたよ。」
肩をすくめ嘆息混じりにニトロたちを見て、顔を綻ばせた。俺は彼らの好意に甘える事にした。
だが俺はすぐ後悔する。
こいつら宴とかいって、ただ酒飲んで騒ぎたかっただけじゃないのか。
◇◇
深夜
静まり返った深い森の中、夜行性の獣たちが静かに動き回り、餌を求める魔獣たちが目を輝かせ獲物を探す。
木の陰から黒いシミのようなものがフワリと出てくると、宙を漂い始め、土が盛り上がり、骨がむくりと起き上がった。
魑魅魍魎や妖魔が蔓延る、誰一人としていない深き森の中で、それは起きた。
滝の近くの平原には、複数のオーガの死体があった。
ぼりぼりと死肉を貪る四足獣たち、そして虫が集り死体は骨が見えている。
「GURUOAAHHH!」
一際大きな雄たけびと共に、ずんぐりとした毛だらけの四ツ目の四足獣が寄ってくると、小さな獣たちは喰われたら堪らないと、一目散に去っていった。
四足獣は突き出た鼻を鳴らし、オーガウォリアーの死体に目を向けると、のろのろと体を揺らしながら死体に近づいていく。直ぐ傍に来ると、まだ残っている死肉や内臓に食らいついた。
するとしばらくして、先ほど散っていった獣たちが戻ってくると、小型のオーガの死体へと食らいついていく。
体長50センチ程はありそうな、齧歯類や昆虫たちが、小型の死体へと群がり、死肉を漁っていった。
死肉は獣たちの胃袋へと入り、そして地に戻っていく。極めて自然な流れではあったが、それを覆すものがいた。
オーガの死体の傍らには、黒ずんだ塊が横たわっている。
獣たちも見向きもしない、黒ずんだ、まるで炭のような死体。
首のない焼死体、それはジュンヤ達が倒した、吸血鬼ルミネスの死体だ。
ジュンヤ達との激闘の末に、レヴィの魔術によって燃やし尽くされ、炭化した無残な焼死体だ。
もはや獣にも虫にも見向きもされぬほど、芯まで焼かれた焼死体に、変化が起きた。
ボコボコと胸のあたりが盛り上がり、そして何かが飛び出た。
獣たちが一斉に振り返り、威嚇の唸り声をあげ、ウォリアーの死体に食らいついていた、大型の四足獣が振り返り牙をむいた。
だが彼らはすぐに、ゆっくりと後退さり、まるでそれを避けるかのように視線を背けていった。
そしてルミネスの体から出現したそれは、ゆっくりと後足で立ち上がり、手をあげて大きく背伸びし、赤い瞳が煌々と輝く月を見上げ、口角が上げた。
「ツキーッ」
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