<29> 俺についてくると、死ぬぞ
本編(ジュンヤ編)再開です
ついてくると死んじゃうかもよ、いや死ぬでしょ。
††
ゴブリンウォリアーの討伐が終わり、いきなりの吸血鬼の割込みに翻弄されたが、なんとかこなした俺達はアッシュの街に戻ってきた。
狩人組合に向かい、早速討伐の証であるオーガウォリアーの角2本を渡した。もちろんオーガポーンの角も切り取ってきて、ギルドの女性事務員の前にどさりと渡た。
「ど、どうしたのです……これはオーガポーンの角……まさか?」
「ウォリアーがポーンを従えてたんだ。」
カウンターに肩肘を乗せてぐいっと迫るニトロに、女性事務員は慌て、「少々お待ち下さい」と言って奥へと入っていった。
まあ大方上司と話して、この処遇に対する報酬の上乗せがあるのは間違いはないだろう。
しかし吸血鬼については別だ。
戻る前に皆で話したのだが、今回の討伐依頼との関わりが不明確だし、吸血鬼のような魔族など、そう何処にでも居るものではないだろう。今回は偶々いたのではないか。
で、結局報告しなかった。
危険な吸血鬼が現れたのだから、話しておくべきでは、という意見もあったが、おそらくあれ以外の吸血鬼がこの近くに現れるような事は無いだろう。
組合による鑑定の結果は、通例翌日になる。つまり報奨金を貰えるのも翌日以降となる。
俺はニトロにそろそろ次の街へ向かうことを告げ、報奨金は辞退すると告げた。
金はそれほど困ってはいないし、稼ごうと思えば道中で稼げるしな。
その代わり、よかったらオーガウォリアーの持っていた雷神剣を譲ってくれと頼んだ。両手剣サイズなのでちょっと手に余るが、俺の双剣に比較すれば余程攻撃力を持っている。
これからも吸血鬼のような上位魔族が出てくることもあるだろうし、なにより戦力が高まるなら欲しいところだ。
と思ったらニトロが困った顔をしている。
「ああ、あれか……だけどアレは」
ニトロが眉を潜めて苦笑し、仲間に視線を向ける。
「あれかぁ……」
ゴレムがはぁっと嘆息し、グルームも肩をすくめる。
リリスとレヴィは顔を見合わせて、困った顔をする。
「ありゃな、伝説級の剣でな、売り飛ばすと結構良い値がつくシロモノなんだ。」
小声で言うニトロに俺は目を丸くした。
マジなのか?そんな逸品なのか?
「この世にはな、鍛冶の神が造った神の武具ってのがあるんだ。」
「神の武具?」
そういや誰かがそんな事言ってたな。
何だそりゃ、と言い返したくなる。あの女神が言ったように、まるでこの世界はゲームだな。死なない称号まで有るんだから、そんな物も有るんだろう。
「この雷神剣はその中の1本。神の武具の1つなんだよ」
「……それで?」
つまり価値があるもんだから、やれねぇってことか?
意外にセコいな。
セコいと思うが、やっぱ高価な品なら仕方のないところか。
「てなわけでな……まあこんな武器は俺たちには使いこなせないし、それに見てて解ってるだろうが、手当たり次第なんだよ。」
ニトロに云われて頷いてやる。
「敵味方関係なしってことか。」
確かにそうだな。辺り一帯に雷撃を放出してたから、あれじゃ敵味方関係なしに攻撃しかけてるだろう、だがそれがどうした。
「神の武具の武器は、大方が敵殲滅用の範囲攻撃武器みたいなもんだ。」
それは知らんかった。というかそもそも神の武具そのものを知らんかった。
神の武具ってのは、やたらとはた迷惑な武器で有ることは確かだ。
「てなわけで、売っ飛ばそうと思ってたんだが……」
ニトロが気まずそうに頭をぽりぽりと掻いている。はた迷惑な武器でも神の武具ってくらいだ、欲しがる奴も多いのだろう。
てか結局金かよ。
「それなら構わない、売るなり何なりしてくれ。それじゃまたいつか、縁が有ったらな。」
俺は踵を返して背を向けた。
まだ夜には多少時間がある。今夜はどこかで野宿でもすればいいだろう。
「だぁぁぁ、ちょ、まてよ~。」
などとどっかで聞いた様なフレーズで俺を引き留めるニトロ。俺は女じゃないぞ。
「……なんだ。」
「そう邪険にすんなって。おめえが訳ありで急いでるんだろうが、あと1日位いいじゃねえか?明日には金が貰えるんだぜ。それにこいつを売った分前もあんだろがぁ。」
なんとも気まずそうな顔でいう。
俺の事など気にせずに、自分たちで全部分けちまえばいいのに。軽い奴だが、根っこは良い奴なのかもな。
「お前たちで分けろ、俺は金が欲しくてやったわけじゃない。」
「………オーガを殺したかったからか?」
ニトロが訳知りに笑いやがった。こういう所は気に食わないな。
「……そうだ。」
俺は開き直り頷いた。
「亜人共を皆殺しにできれば、それだけで満足だ。」
俺の言葉にニトロはふうっと嘆息して肩をすぼませた。
「なぁ、良かったら話さねえか?力になれるかもしれないぜ。」
ほんといい奴だ、だけどな。
「……気持ちだけ貰っておく。お前たちでは……死ぬだけだ。」
こいつらは確かに手練だ。あのオーガウォリアーだってこいつらだけでも倒せたかもしれない。俺を入れたのは、全員無事に帰れる確率を高めるためだろう。
予定外の吸血鬼だって、普通に倒せたかも知れない。
お前たちは強者だ。ケィニッヒと同じかそれ以上の強者だ。
だが……無理だ。
俺の目的地は魔族の大陸、ノスフェラトゥだ。そんな場所に乗り込み、どこにいるか解らぬアマンダを探すなど、そんな無茶な旅に付きあわせられるわけがない。
「おーい、ジュンヤぁ?随分舐めてくれてんじゃん?」
「ちょっと聞き捨てならないわね。」
ややこしいのが増えた。レヴィとリリスが俺を睨みつける。
「まぁお前らも落ち着け。ジュンヤ、少しだけでも話して見ろよ。力になるぜ?」
間にニトロが入って執成すが、無理だ。お前たちの強さや能力は認めるが、それでもお前たちでは俺の力になるどころか、死ぬだけなんだ。
「言ってみろよ、それから俺たちで判断してやるからさ?」
「……言うだけ無駄だ。」
「そう突っ張るなよ、良いから話せって。」
ほんとこいつはしつこいな。
まあ最初会った時からそうだったが。しかしこれじゃ無駄に時間が過ぎるだけだな。
なら教えてやる。きっと諦めるだろう。
「………魔大陸。」
「「「は?」」」
ほら驚いた。
誰だってそうだ。ケィニッヒだって無茶だと言ってたんだ。俺を行かせたのは、俺の執念に負けたからだ。
魔族が棲む魔大陸の最前線を突破し、前人未到の魔大陸の奥地で魔王城を探して乗り込む、こんな無茶に誰が付き合うってんだ。
「俺は何処に有るか解らぬ魔王城に、囚われているかも知れない人を助けにいく。」
「ちょまて、『かも知れない』ってどういうことだ。」
「……そのままだ。囚われているってのは、俺の希望的観測に過ぎない。生きているかも知れない。そういうことだ。」
そう、今はそうとしか言えない。
冷静になればアマンダが生きている可能性も、魔王城に居る可能性も殆ど無い。ゼロと言った方が良い。
だが生きている、どんな状態でも生きている。
きっと……
††
ご愛読ありがとうございます。
本日よりジュンヤ編最終話まで更新します。
その後はアリス編の最終話まで、そして………
ネタバレ話せば面白くない!
じらしてじらして~~、と偏屈な奴ですが
これからもどうぞよろしく、応援のほどお願い致します