幕間 要塞の少女.3
姿を現した魔族の幹部、魔将軍の登場です。
※ほんとは魔戦将軍ってしたかったんだけど、BASTARDのパクリ~~とか言われるとあれなので、ポピュラーな命名にしました。
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「当たった、破壊したぞおおおっ!」
「要塞バールを崩したぞおおおっ!」
騎士達の間から笑い声と歓声が上がった。逆にまだ戦っている亜人達にもどよめきが奔る。
「マサカ、マサカ」
「数十年傷一ツ受ケナカッタ要塞ガッ!」
「魔法防御ガ破壊サレタノカ!」
亜人たちは人の兵器に驚き、畏怖した。そして戦意がこそげ落ちていく。
「行ける、イケるぞ!次弾を装填しろ、破壊しろ、要塞バールを破壊するのだ。」
オースティン=メイヤー将軍は、まるで戦いに勝利したかのように満面に喜色ばり、喜々として指示した。
この距離でなら、攻撃魔法による反撃も受けない。亜人たちは騎士が抑えている。
このまま遠距離砲撃筒で超遠距離射撃で破壊するのだ。
次々に連射される火薬を使った砲台の攻撃、居住区でみていた者は、心臓を高鳴らせていた。
「人が……勝つかもしれない。」
胸を打つ鼓動が高鳴り、ワクワクとしてくる。
自分のいる場所には着弾することは無いが、あと少しあの砲台が近づけば、このエリアも業火に包まれるだろう。
そうなれば自分も死ぬかもしれない。
いまここで死ぬのは困る。
だがそれでも見ていたかった。人が魔族に抵抗する姿を。
クラレット色の長い髪を掻きあげ、固唾を飲み、唇に笑みを浮かべて人の新型兵器が火を噴くさまを見守っていた。
「なるほど……人もなかなか考えるものだ。」
背後から声が掛かる。
びくっとして振り向くと、そこには目を見張る程の美形の青年がいる。
美形には似つかわしくない、額から生えたネジ曲がった大きな赤い角が、やたら目立っていた。
彼を知っている。何度もこの要塞の中で見ているのだから。
──赤竜サマエル。
魔族の幹部と云われているが、魔族の間では魔将軍と呼ばれる支配者の一人。赤い角を額から生やし、白髪で一見貴族風の美形の青年だ。
「サマエル、なんの用かな、勝手に入ってこないでくれる。」
クラレット色の髪をふわりと靡かせ、また窓の方へと視線を向けた。
「失礼致しました。あの爆発ですから、お預かりした貴女の身に何かあっては一大事と、駆けつけた次第です。」
サマエルは胸に手を当てて軽く頭を下げた。
そして視線を目の前にいる少女、クラレット色の長い髪を揺らし、ラベンダー色のローブを身にまとった、少女の背に向ける。
「よく言う。」
少女はサマエルに見向きもせず、人の戦いに視線を投じた。お前になど興味はない、そんな意思表示にすら感じられる。
「要塞が落ちることは無いでしょうが、ここは危険かもしれません。奥の部屋に移動されるようお願い致します。」
「いやっ、あたしは此処に居るの。」
サマエルの言葉に少女は聞く耳を持たぬかのように、ただじっと外の戦乱を見つめている。
その際中にも幾つかの砲撃が当たったのか、要塞がゆらめき外壁が崩れていく音がした。
「仕方ありません。それではそのまま見ていて下さい。脆弱なる人が死ぬ様を。」
サマエルの唇が吊り上がり、残酷な笑みを浮かべると、手がすうっと挙がった。
途端に魔力が吹き荒れ始める。
少女は慌てたように振り返り、そしてサマエルから吹き上がる暴風の様な魔力に顔を顰めた。
◇◇
第1師団による要塞バール攻略作戦は、概ね順当に進んでいた。
第1師団白兵戦第1大隊から第8大隊の、総勢1万5千人の騎士が要塞を攻め、亜人や魔獣、トーチカを攻略し、その間に準備した第1師団第9機甲大隊が、最新の技術力で作り上げた、遠距離砲撃筒5門にて要塞を砲撃する。
遠距離砲撃筒には魔力を使わぬ《黒色火薬》を使った砲弾が使われ、これにより要塞を覆う魔力結界を突き破り破壊する。
作戦は順当だった。
今まで直接攻撃すら、全く受け付けなかった要塞が崩れたのだ。
全ては順当であり、成功だった。これが上手く逝けば、後方に控えた第2師団から第5師団まで、5万人を超える兵士が雪崩れ込み、要塞を攻略する手はずとなっていた。
だが、戦線は一瞬で覆されてしまった。
炎龍と共に複数の火の精霊が現れたのだ。
「な、なんだとぉぉ!」
いきなり戦場に出現した巨大な炎龍と燃える蜥蜴の集団に、オースティン=メイヤー将軍は目をむき固まった。
だがすぐさま操作者に指示し、遠距離砲撃筒の角度を動かし、迫る炎龍に向けて砲撃を開始する。
照準をつけるのにも時間がかかり、また動く標的など想定していない遠距離砲撃筒は、それでも最初の数発を炎龍に直撃させ、鱗を突き破り、腕を吹き飛ばし怯ませることができた。
だが炎龍は死ななかった。そして攻撃が当たったことで、炎龍は激怒し、人に向かって炎龍の猛攻が始まった。
炎龍の吐くファイヤーブレスは、五門の遠距離砲撃筒を一瞬で破壊してしまった。
想定外の事態が人を襲った。
炎龍が何故こんな場所にいるのか、何故魔族の側に居るのか。理解できない中で、第1師団指揮官オースティン=メイヤー将軍はドラゴンブレスに包まれ、あっけなく戦死した。
歴戦の司令官を失い、指揮系統が乱れ、人の軍勢は瓦解した。
逃げ惑う騎士達をさらに襲う炎龍、そして食らい付く火の精霊によって、多数の死傷者を出し、人は撤退の憂き目にあった。
「あのドラゴンはなんなの。」
クラレット色の髪の少女は、その惨状を見つめサマエルに怒鳴りつけた。
「炎龍にございます。我が召喚術により呼び出しまして御座います。」
サマエルがにやりと笑い、赤い唇が吊り上がった。
赤き竜の2つ名の通り、魔将軍サマエルは炎龍と火の精霊を召喚する召喚術師。
1匹で街1つを滅ぼす炎龍を呼び出せるからこそ、この要塞バールを任されているとも云えた。
「私めが此処にあるかぎり、人を要塞に近づける事は致しません。どうぞごゆるりと、彼の時まで、我が要塞にて人の滅ぶ様をご覧ください。ファフニール様。」
サマエルはその美形の顔に恐ろし気な笑みを張り付かせ、ゆっくりとファフニールと呼ぶ少女を見つめ、胸に手を当てて一礼すると、部屋を出て行った。
「……勝てないのかな。」
少女はふわっと床に腰を下ろす。まるで質量がないかのように、風船が落ちるように、床に座り、がっくりと項垂れる。
一瞬にして5門の巨大砲台を破壊し、更に数多の騎士達を蹴散らした炎龍と火の精霊達。
それを呼び出す魔族の将軍。
あれだけの騎士ですら、僅か1人の魔族に敵わないというのだろうか。
「……もう、やだよ……きっと生きてるよね、お願い、助けて…」
少女の眼から涙が溢れ、頬をつたい降りていった。
しかし、その滴が床に落ちることは無かった。
††
いつもご愛読有難う御座いますm(_ _)m
明日明後日はちょっと掲載をお休みさせて頂いて(この土日で5話いったので)クールダウンします。
水曜日の朝7時からは、まったり皇女様の生活をお届けします。
本編ジュンヤは4月5日からの再開となりますので、どうぞお楽しみにです。
これからもどうぞよろしく、ご声援のほどお願い致します