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ドジな女神に不死にされました  作者: 無職の狸
第一章 今度の人生はスローライフで行こうと思ってたのに、どうしてこうなった
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幕間 要塞の少女.3

姿を現した魔族の幹部、魔将軍の登場です。


※ほんとは魔戦将軍ってしたかったんだけど、BASTARDのパクリ~~とか言われるとあれなので、ポピュラーな命名にしました。

|д゜)


††


「当たった、破壊したぞおおおっ!」

「要塞バールを崩したぞおおおっ!」


 騎士達の間から笑い声と歓声が上がった。逆にまだ戦っている亜人達にもどよめきが奔る。

 

「マサカ、マサカ」

「数十年傷一ツ受ケナカッタ要塞ガッ!」

「魔法防御ガ破壊サレタノカ!」


 亜人たちは人の兵器に驚き、畏怖した。そして戦意がこそげ落ちていく。


「行ける、イケるぞ!次弾を装填しろ、破壊しろ、要塞バールを破壊するのだ。」


 オースティン=メイヤー将軍は、まるで戦いに勝利したかのように満面に喜色ばり、喜々として指示した。


 この距離でなら、攻撃魔法による反撃も受けない。亜人たちは騎士が抑えている。

 

 このまま遠距離砲撃筒で超遠距離射撃で破壊するのだ。

 

 

 次々に連射される火薬を使った砲台の攻撃、居住区でみていた者は、心臓を高鳴らせていた。

 

「人が……勝つかもしれない。」


 胸を打つ鼓動が高鳴り、ワクワクとしてくる。

 

 自分のいる場所には着弾することは無いが、あと少しあの砲台が近づけば、このエリアも業火に包まれるだろう。

 

 そうなれば自分も死ぬかもしれない。

 

 いまここで死ぬのは困る。

 

 だがそれでも見ていたかった。人が魔族に抵抗する姿を。


 クラレット色の長い髪を掻きあげ、固唾を飲み、唇に笑みを浮かべて人の新型兵器が火を噴くさまを見守っていた。



「なるほど……人もなかなか考えるものだ。」


 背後から声が掛かる。

 

 びくっとして振り向くと、そこには目を見張る程の美形の青年がいる。

 

 美形には似つかわしくない、額から生えたネジ曲がった大きな赤い角が、やたら目立っていた。

 

 彼を知っている。何度もこの要塞の中で見ているのだから。


──赤竜サマエル。

 

 魔族の幹部と云われているが、魔族の間では魔将軍と呼ばれる支配者の一人。赤い角を額から生やし、白髪で一見貴族風の美形の青年だ。

 

「サマエル、なんの用かな、勝手に入ってこないでくれる。」


 クラレット色の髪をふわりと靡かせ、また窓の方へと視線を向けた。

 

「失礼致しました。あの爆発ですから、お預かりした貴女の身に何かあっては一大事と、駆けつけた次第です。」


 サマエルは胸に手を当てて軽く頭を下げた。

 

 そして視線を目の前にいる少女、クラレット色の長い髪を揺らし、ラベンダー色のローブを身にまとった、少女の背に向ける。

 

「よく言う。」


 少女はサマエルに見向きもせず、人の戦いに視線を投じた。お前になど興味はない、そんな意思表示にすら感じられる。


「要塞が落ちることは無いでしょうが、ここは危険かもしれません。奥の部屋に移動されるようお願い致します。」

「いやっ、あたしは此処に居るの。」


 サマエルの言葉に少女は聞く耳を持たぬかのように、ただじっと外の戦乱を見つめている。

 

 その際中にも幾つかの砲撃が当たったのか、要塞がゆらめき外壁が崩れていく音がした。


「仕方ありません。それではそのまま見ていて下さい。脆弱なる人が死ぬ様を。」


 サマエルの唇が吊り上がり、残酷な笑みを浮かべると、手がすうっと挙がった。

 

 途端に魔力が吹き荒れ始める。


 少女は慌てたように振り返り、そしてサマエルから吹き上がる暴風の様な魔力に顔を顰めた。



◇◇



 第1師団による要塞バール攻略作戦は、概ね順当に進んでいた。

 

 第1師団白兵戦第1大隊から第8大隊の、総勢1万5千人の騎士が要塞を攻め、亜人や魔獣、トーチカを攻略し、その間に準備した第1師団第9機甲大隊が、最新の技術力で作り上げた、遠距離砲撃筒5門にて要塞を砲撃する。

 

 遠距離砲撃筒には魔力を使わぬ《黒色火薬》を使った砲弾が使われ、これにより要塞を覆う魔力結界を突き破り破壊する。

 

 作戦は順当だった。

 

 今まで直接攻撃すら、全く受け付けなかった要塞が崩れたのだ。

 

 全ては順当であり、成功だった。これが上手く逝けば、後方に控えた第2師団から第5師団まで、5万人を超える兵士が雪崩れ込み、要塞を攻略する手はずとなっていた。

 

 だが、戦線は一瞬で覆されてしまった。

 

 炎龍ファイヤードレイクと共に複数の火の精霊(サラマンダー)が現れたのだ。

 

「な、なんだとぉぉ!」


 いきなり戦場に出現した巨大な炎龍と燃える蜥蜴(サラマンダー)の集団に、オースティン=メイヤー将軍は目をむき固まった。


 だがすぐさま操作者に指示し、遠距離砲撃筒の角度を動かし、迫る炎龍に向けて砲撃を開始する。


 照準をつけるのにも時間がかかり、また動く標的など想定していない遠距離砲撃筒は、それでも最初の数発を炎龍に直撃させ、鱗を突き破り、腕を吹き飛ばし怯ませることができた。

 

 だが炎龍は死ななかった。そして攻撃が当たったことで、炎龍は激怒し、人に向かって炎龍の猛攻が始まった。

 

 炎龍の吐くファイヤーブレスは、五門の遠距離砲撃筒を一瞬で破壊してしまった。


 想定外の事態が人を襲った。


 炎龍が何故こんな場所にいるのか、何故魔族の側に居るのか。理解できない中で、第1師団指揮官オースティン=メイヤー将軍はドラゴンブレスに包まれ、あっけなく戦死した。

 

 歴戦の司令官を失い、指揮系統が乱れ、人の軍勢は瓦解した。

 

 逃げ惑う騎士達をさらに襲う炎龍、そして食らい付く火の精霊サラマンダーによって、多数の死傷者を出し、人は撤退の憂き目にあった。 

 

「あのドラゴンはなんなの。」


 クラレット色の髪の少女は、その惨状を見つめサマエルに怒鳴りつけた。

 

炎龍ファイアードレイクにございます。我が召喚術により呼び出しまして御座います。」


 サマエルがにやりと笑い、赤い唇が吊り上がった。

 

 赤き竜の2つ名の通り、魔将軍サマエルは炎龍ファイヤードレイク火の精霊(サラマンダー)を召喚する召喚術師。

 

 1匹で街1つを滅ぼす炎龍ファイヤードレイクを呼び出せるからこそ、この要塞バールを任されているとも云えた。


「私めが此処にあるかぎり、人を要塞に近づける事は致しません。どうぞごゆるりと、彼の時まで、我が要塞にて人の滅ぶ様をご覧ください。ファフニール様。」


 サマエルはその美形の顔に恐ろし気な笑みを張り付かせ、ゆっくりとファフニールと呼ぶ少女を見つめ、胸に手を当てて一礼すると、部屋を出て行った。


「……勝てないのかな。」


 少女はふわっと床に腰を下ろす。まるで質量がないかのように、風船が落ちるように、床に座り、がっくりと項垂れる。

 

 一瞬にして5門の巨大砲台を破壊し、更に数多の騎士達を蹴散らした炎龍ファイヤードレイク火の精霊(サラマンダー)達。


 それを呼び出す魔族の将軍。


 あれだけの騎士ですら、僅か1人の魔族に敵わないというのだろうか。

 

「……もう、やだよ……きっと生きてるよね、お願い、助けて…」


 少女の眼から涙が溢れ、頬をつたい降りていった。


 しかし、その滴が床に落ちることは無かった。

 

††

いつもご愛読有難う御座いますm(_ _)m


明日明後日はちょっと掲載をお休みさせて頂いて(この土日で5話いったので)クールダウンします。


水曜日の朝7時からは、まったり皇女様の生活をお届けします。


本編ジュンヤは4月5日からの再開となりますので、どうぞお楽しみにです。

これからもどうぞよろしく、ご声援のほどお願い致します

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