幕間 要塞の少女.2
本日二話目の幕間です(`・ω・´)
熾烈な攻城戦に持ち込まれたそれは、人の知恵が生んだ最新兵器
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無数の騎士が四方八方から、地響きすら聞こえて来るように攻めてくる。
対してトーチカから魔法弾が放出され、投石器が石の雨を降らせ悲鳴があがるが、荒地を埋め尽くす無数の騎士に対しては足止めにすらならない。
まるで予定調和のように一通りの砲撃が終わると、魔法生物や魔獣、数千の亜人が騎士に向かって襲いかかっていった。
殲滅のための戦い。
剣が魔法が荒れ狂い、大地を穿ち血煙を舞い上げる。
どちらも無傷ではすむはずもなく、次々に血を吐き倒れる人と亜人、破壊され土塊に戻る魔法生物、斬り殺される魔獣達。
血みどろの戦いの中、要塞バールから笛の音が響くと、地面が盛り上がりスケルトンやゾンビの軍勢が現れ、騎士達に襲いかかった。
聖なる光が飛び、死者たちを浄化する中、人の群れが突き進み、用意された破城槌を要塞まで突っこませた。
「「「「「おおおおおおおおおおおっ!!」」」」」
怒号が響くなか、数百とも千とも云える戦士や騎士に囲まれ、戦線を突破して破城槌が門へと辿り着くと、要塞を守る分厚い鉄の扉に槌が打ち込まれ始めた。
数基の槌が門を破壊しようとする、まるで除夜の鐘のような音が乱雑に響いていく。
その槌に向かって頭上から降り注ぐ魔力弾の雨。魔術師部隊が防御魔法を張り巡らし、結界を構築する。
そこに要塞から飛び出てくる蝙蝠のような翼をもつ生物。
人型をしていながら、頭から歪な角を生やし、蝙蝠の翼を羽ばたかせ、鋭い爪を持つ怪魔たち。黒い異形の者、数十匹の魔族が騎士達に襲い掛かった。
奇妙な声が響き渡り火炎球が降り注ぎ、雷が降り注ぎ、氷の塊が騎士達を襲った。
降り注ぐ魔力弾や落雷、火炎球の嵐に、十数人で張り巡らす結界もすぐに限界に達してしまい、ついには槌もろとも直撃を受けてしまった。
砕け散る結界の中から、騎士から矢が飛び、遠方からは魔導士達の攻撃魔法が魔族を襲う。
撃墜されていく魔族たち、しかし騎士達にもまだ生き残っている亜人や魔獣が、そして魔族が襲い掛かり、甚大な被害が出ていく。
騎士に食らい付く魔族、亜人を切り殺す騎士、血飛沫が舞い上がる戦場の中で、徐々に人が押され始めた。
「引けぇぇぇぇぇっ!」
指揮官の怒声が響き渡った。不利となった戦況に、騎士達は退却に入っていく。
「ああ…またか。」
窓から見ていたクラレット色の髪の少女は、潮が引くように引いていく騎士たちに、少々残念に思っていた。
いつものことであった。ある程度戦い、ある程度攻め、そしてすぐに退却していく。まるで同じことを毎回繰り返す、人と亜人の消耗戦だ。
戦いはいつもここで終わってしまう。
だが戦いは終わらなかった。退却したかに見えた人が用意したのは、少女が見たこともない物だった。
人の構築した、誰もが予想だにしなかった破壊兵器が戦場に現れたのだ。
要塞から遥か向こう、距離にして500メートル以上はあるだろうか、そこに出現したのは長さにして5メートルはあり、50センチ程の砲筒を持つ巨大な攻城砲だ。
「魔族どもよ、人の叡智とドワーフの技術により造りし、遠距離砲撃筒。受けてみるが良い。」
第1師団将軍オースティン=メイヤーは、遠距離砲撃筒と呼ばれた巨大大砲の横に陣取り、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
遠距離砲撃筒の操作者に指示を送ると、操作者は数人掛かりで、ぎりぎりと歯車に付いたハンドルを回していく。
「距離対角、よしぃ!」
角度を測っていた測量士が叫ぶと、砲筒の一つが止まり、つづいて四門の砲筒が、それぞれ測量士の指示によって次々に止まっていく。
「角度よーし」
「準備よーし」
次々に聞こえてくる声に、将軍はこくりと頷き、ゴクリと固唾を飲んで要塞を見た。
「撃てぇぇ!」
オースティン=メイヤー将軍が叫ぶと同時に、魔術師達が一斉に魔法を発動し、5門用意された遠距離砲撃筒が火を吹いた。
「要塞バールを打ち砕けぇぇ!」
50センチの巨大な砲筒から発射された魔力弾が、要塞バールめがけて緩やかな放物線を描いて飛んだ。
頂点の高さは要塞バールの頂上部に近いかもしれない。
500メートルの距離を飛んだ魔力弾は、要塞バールの門より上30メートル程の位置にある、魔力砲台が設置された箇所に着弾した。
魔力結界が離れ張られ、魔力弾を寄せ付けないはずの要塞に直撃したのだ。
凄まじい破壊の音が鳴り響き、衝撃が要塞バールを揺らした。
要塞の魔力砲台が吹き飛び、龍族の鱗の堅さを持つ外壁が破壊され、崩れ落ちていく。
居住区でそれを見ていた少女は、目を見開き、口を開け放ち驚きを露わにしていた。
要塞が直接攻撃を受けたのは、初めてのことだ。
それは少女が知る限りどころではない、要塞が建造されていら、初めての事なのだ。
増して硬質な龍族の鱗の堅さを持つ外壁が崩れるなど、予想もしていなかった事である。
少女は人の知恵と底力に改めて感嘆した。しかし、そもそもアレは、あの爆発した力はなんなのか。
今まで人と魔族の魔力弾の打ち合いを見てきたが、今のは明らかに異なって見えた。
「……魔力弾ではない、か。人も考えるものだな。」
戦いを傍観していたものは、人が使った新しい技術と、その威力を興味深く見つめる。
砲筒の角度を調整し、より遠くまで飛ばす技術。そして砲弾に使われた、破壊のための技術。それらは今まで見たこともない技術だった。
興味深く人の新型兵器を見つめると、その者は傍観を諦め、窓から離れると部屋を出て行った。
これがもし転生者であったなら、あの爆発力を一発で《火薬》だと見破っただろう。
おそらくまだ砲弾を飛ばすための技術は開発されていないのか、魔術師達によって砲弾を発射していたが、着弾した時の火炎と煙、そして破壊力は、《黒色火薬》のそれだ。
あれは魔力による爆発ではなかったのだ。そのために要塞バールを包む結界も、龍族の鱗をも吹き飛ばす、物理的は破壊に対しては役には立たなかった。
剣と魔法に頼り、文明の進化が滞っていた世界にあって、ついに火薬の製法が生まれたのだ。
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