<26> レベルが高いと血がおいしいのです
レベルアップとは相手を殺し魂を吸い取ることですか?
††
すっかりと暗くなり、静まり返った滝壺近くの平原。
バチバチと音を立てて燃える、オーガウォリアーの死体、少し距離を置いて、ニトロ、グルーム、ゴレム、そしてジュンヤが、その背後には多少の距離を置いてレヴィとリリスが立っている。
彼らは一様に森の近くに立つ、月明かりに照らされた美しい赤毛の少女を睨みつけている。
ゴシック調の衣装をまとった、妖艶な少女。
「っ吸血鬼たあ、こいつは大物だな。」
「ああ、大物だ。」
「連戦とか勘弁して欲しいぜ。」
ニトロとグルーム、ゴレムが汗を垂らし、にいっと唇を釣り上げてる。
「まだ魔力はたっぷりだからね~。」
レヴィが唇を吊り上げるが、顔は汗でぐっしょりと濡れている。
雷神剣を持つオーガウォリアーにも、軽口叩きながら戦っていた連中にしては、随分と慎重に構えていた。
彼らが吸血鬼を警戒しているのは明らかだ。
リリスはすぐにでも聖光系の魔法、特に浄化系を使えるように、用意している。
「グルルルルルルッ」
ジュンヤの足元には、いつの間にかコッペルが付き添い、鋭い牙を出し、刺すような……丸くクリッとした黒い瞳を輝かせていた。
「あんたらさぁ~、美味しそうだねぇ。」
赤い目が欄と輝き、口が三日月のように開くと、足元の雷神剣を軽くつま先で蹴り、くるくると回転させて手に取り、グサッと地面に突き刺す。
「こんな無粋な剣で、焦がすわけにわぁ~~いかないよねぇぇぇっ」
ニタァっと歪む唇、目が爛と輝くや、一気に殺気が膨れ上がった。
「来るぞっ!」
ニトロの声と共に、少女が走った。常人には目で負えない速度で。だがその動きを捉えているのか、ニトロが大剣を振り上げた。
「きゃぁっははははは~~っ」
少女の笑い声、大剣が風を切る音、そして交差して鋭い金属音をあげる大剣と、いつのまにか伸びた少女の長い爪。
片手で大剣の剣戟を受け止め、左手で躍りかかったグルームの剣戟を受け止めた。そこにゴレムとジュンヤが向かう。
「きゃはははははっ」
甲高い笑い声が響くと、まずグルームが弾かれた。人のものとは思えぬ力で、グルームが吹き飛ばされ、さらにニトロが飛ばされ、ゴレムとジュンヤに向かってくる。
「おおおおっ!」
構えた剣を引いて、ニトロを抱きしめ、ゴレムが転がるそばから、ジュンヤが横っ飛びになると、地を蹴り少女に向かって飛んだ。
「このぉぉぉっ」
笑い声が響き渡るなか、ジュンヤの拳が少女に振り下ろされる。だが、目の前から少女が掻き消え、ジュンヤの頭に何かが触れたかとおもうと、衝撃が襲い、地面まで一直線に向かい、派手な音を立てて地面に陥没した。
「グルァッ!」
走るコッペルが一直線に少女に食らいつこうとするが、少女の足がブンッと風を切ると、コッペルの体が吹っ飛んだ。
「ホーリーサークル」
リリスの聖光魔法がほとばしり、光のリングが少女に向かって飛んだ。
「はぁっ」
リングが近くまでくると、少女の手から黒い霧が迸り、リングをかき消してしまう。
さらに黒い霧は触手を伸ばすように、リリスを包み込もうと飛んでくるが、レヴィが発した焔の壁に遮られ霧散する。
「へぇぇぇ」
レヴィの魔法に少女が感心したかのような声を発する。
「くそったれがぁ。」
ニトロが再び立ち上がり、大剣を風車のように回しながら飛び込む。
少女の爪と大剣、さらにグルームも双剣を左右に回しながら飛び込み、大剣と双剣が少女の爪と激しい剣戟の音を、擦れ合う音を、空気を切り裂くいて巻き起こった。
「あは、あはははははははっ」
2人の剣士の凄まじい剣戟の嵐に囲まれ、少女はまるで遊んでいるようでもあった。
ニトロの破壊力のある大剣を片手でやすやすといなし、跳ね返し、グルームの高速剣を、尽く躱した。
ゴレムのシールドバッシュにも、レヴィの攻撃魔法すら被弾する直前に無効化してしまう。
ジュンヤはようやく地面から出て、なんとか攻撃に加わろうとするが、3人の戦いのなか、近づくことなどほとんど不可能だった。
「あははは、たのし~~~」
少女が頬を歪ませると、無詠唱で唱えた無数の氷の刃がニトロを斬り裂き、グルームの足元から槍が飛び出した。
「わああああっ」
「うおおおおっ」
氷の刃と石の槍に切り裂かれながらも、辛うじて避けるニトロとグルーム。
ニトロが、グルームが手玉に取られている。
これが吸血鬼なのか。
こいつら魔族はどれだけ強いのか。
ケィニッヒにある程度はいけるといわれたが、目の前の吸血鬼はケィニッヒよりも強く見える。
俺より剣術スキルがあるだろう、ニトロやグルームが歯が立たないどころか、まるで相手にされていない。
遊ばれているのだ。
「あはははははははははっ」
ひときわ高い笑い声が響いたかと思うと、ニトロとグルームが吹き飛ばされ、地面を転がっていった。
後には汗一つ掻いていない少女が、楽し気に笑みを浮かべている。
「貴方たち、とても楽しい、フロントよりも楽しい人に会えたのは、驚いた~~。この世界に来て良かったわぁ」
「……この……世界?」
ジュンヤは訝し気な顔をした。
「あんた達は私の名を知るに値するよ。私は魔族の一人、ルミネスというの、死ぬまでの短い時間だけど、よろしくねぇ」
少女──ルミネスは目を細め唇を吊り上がらせて、薄気味の悪い笑みを浮かべた。
「あはぁぁぁ、美味しぃ、美味しぃぃ。」
ルミネスは爪を顔の前にすると、ニトロやグルーム達を斬り裂きいた、爪に残った血の匂いを嗅ぎ、長い舌でぺろりと舐めて味を確かめた。
思わずの美味にうっとりとし、赤い瞳をぎらつかせた。
ルミネスは歓喜し、ニトロたちを一人一人、値踏みするように見ていく。
分厚く重い大剣をショートソードの様に振り回す男。
細身の双剣を自在に操るエルフの男。
実に美味しそうだ。
あの糞ったれな、亜人臭漂うゼクスフェス《三面女》の頼みで、仕方なく此処まで来た。
良かった。
ルミネスはゼクスフェスが自分に用事を頼んだ事に、心底感謝した。
ノスフェラトゥで見かけた、レベルの高い強者に出会えたのだ。
強者の血は好物だ。生暖かく濃厚で、何よりも強者の精力は自身をも強化してくれる。
大剣使いの男はレベル88、双剣使いの男はレベル83、盾使いはレベル80。良いレベルだ。
人のレベルは高くなればなるほど、他者を殺し引き裂き、魂を喰らってきた証だ。他の者の魂を──精力を喰らった高レベルな強者の血液は、芳醇となり喉越しが円やかになっていく。
何よりも力が満ち溢れている。
レベルの高い人を引き裂く事、迫る死に恐怖し、怯えた顔を見ること、それがルミネスの食欲をそそり、快感に繋がる。
ズズッ
堪らず唇から溢れる涎を飲み込んだ。
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