<21> オーガの討伐に出掛けてみました
初めてのパーティ、つまりジュンヤはぼっちだったのですね。
††
「きゃはは、可愛すぎる。」
レヴィはちょこちょこと早足で歩く、ヌイグルミの様なコッペルを痛く気に入ったようだった。
リリスもまたしゃがみ込み、手を添えたり身体のモフモフに触れたりと、まあやたら楽しそうにしている。
コッペルもまた彼女達が渡す、肉片を干したもの──ジャーキーのような保存食なのだが、牛肉じゃないことは確かだ──を貰ってやたと機嫌が良い。
こいつは食い物もらえりゃそれでいいのかと小一時間……
兎にも角にも俺たち即席パーティは、昼前に街を出てオーガウォリアー討伐に向かった。
オーガウォリアーの棲息ポイントは、不明確ではあるが街から馬で半日の距離らしい。
奴は徐々に移動しているようで、少しづつ街に向かっているようでも有るらしい。
俺たちはオーガウォリアーの移動を推測し、奴が森のなかを移動している事を考慮して、奴と鉢合わせを避ける様に、しかし奴の進路近くへと向かう。
途中で出くわして、機先を制されるのはできれば避けたい。
街道を移動中に、時折襲ってくる魔獣を倒しつつ数時間歩き、地図を広げて場所を確かめ、俺達は森の中へと向かった。
できれば奴を背後から襲いたいものだが、そううまく行くだろうか。
「無理は百も承知だよ。」
ニトロが軽口を叩く。
雑草が高く茂る森の中を、剣で草を切り捨て、地面を這う木の根を避け、跨ぎ、道のない道を進んでいく。
「この辺りには亜人共も徘徊してるからな。」
ニトロの言うとおり、何度かオークやゴブリンとエンカウントしたが、あっさりと退けてきた。
俺が思った以上にこいつらは手練のようだ。【鑑定眼】で見ても良かったが、ケィニッヒからできるだけ使うなと云われている。
鑑定眼を使うと、相手にも覗かれている事が解る。それを嫌がる者も居るからだ。
実際試しにケィニッヒが俺を覗いた時、見られているという意識があり、背筋がゾワッとした。
確かに気分が良いものではない。思わず相手を殴りつけたくなる。喧嘩を売るときには良さそうだ。
隠密で姿を隠し、魔獣に【鑑定眼】を使ってみたこともあるが、一目散に俺に襲いかかって来やがった。
つかえね~~。なんちゅう糞スキル。
つまりは相手を殺すつもりじゃなきゃ、使わないのが吉ってことか。
てことで、俺は【鑑定眼】の使用を遠慮している。だがここまでの流れをみると、ニトロ達はそれなりに腕が立つ、と云えた。
夕暮れが森をオレンジに染め、滝がゴーゴーと音を立てる滝壺近く。
「今夜はここでキャンプを張る。ここなら見通しも悪くないしな」
ニトロに云われてパーティメンバーは首肯し、早速テントを張り夕食の準備に掛かった。
獣を狩りに行く者、滝壺で釣りをする者、夕食の準備にとりかかる者、それぞれがテキパキとこなしていく。これが長年パーティを組んでいる阿吽の呼吸ってやつかと関心したのはいいが、俺はどうする。
「ジュンヤはのんびりしてていいぞ。おめえはあくまで戦力補強だからな。辺りを見回して異常がないかだけ見ててくれ。」
「……解った。」
アブレタらしい。ハブられたか?
滝を見上げたり森を見たり、結構暇な時間を過ごしたが、急に頭の上がうるさくなった。
「くぅっ!くぅっくぅっくぅ~~~っ!」
「うるせぇぞ。なんだ?」
コッペルがやたらとそわそわしている。なるほど原因が解った。
辺りを良い匂いが漂っている。見れば肉を焼いたのやら、シチューやらが簡易テーブルの上に並んでいる。
なるほど料理スキルを持ってる奴も居るわけだ。俺なんかはただ焼くだけだからな。腹が満ちればそれでいいとここまでやってきた。
大体あの日から味覚がなくなったんだから、何を食っても同じだ。それにコッペルは生でも食うしな。
「ほ~ら、コッペルちゃんには、生肉だよ~。」
リリスが骨付きの肉を置いてくれた。いや別にこいつは生でも喰うってだけなんだが。
でもコッペルが一目散に走り寄って、可愛らしい見かけとかけ離れた食いっぷりを見せてくれる。
「……可愛いのに、食べてる時は猛獣みたい。」
リリスとレヴィがちょっと引き気味に見ている。うん、それは同意する。てかこいつは元々猛獣だしな。
やがて俺たちの料理もできあがり、俺は薦められるままに食べてみる。
やはり味がしない。肉を食ってもシチューを啜っても、何も味がしない。解っている。
味覚が壊れてるからな。
せめてエールを呑んだ時の、喉越しが解るのが救いってところか。ん、未成年の癖にとかいうな。俺は+35歳だし、そもそもこの世界に未成年は酒飲めない、なんて法律はない。
仮にあったとしても、そんなもの守ってるのは貴族様位だろう。
「ねぇ、聞いていいかな?」
食事をしながらリリスが俺に尋ねた。
「ジュンヤって何処の出身?」
「……」
俺は黙った。村の名を言えばまたあの惨劇を思い出す。
毎日毎日夢に出てくるあの惨劇を。そしてアマンダが今置かれているかも知れない状況が脳裏を埋め尽くす。
「……そっか、まいいや。」
リリスは俺の顔を見て、あっさりと諦めた。
「あたしはさ、西にずっといった輝きの泉と森の国って国、普通の人はエルフの国って呼んでるかな~。」
懐かしそうな顔で語るリリスを、俺はじっと見つめた。
「まあ、そこをおん出てきたんだけどな。」
グルームが話に割り込み、相槌をうつ。
一緒に出てきたのかな、だとしたら2人は兄妹とか、いや恋人同士かな。
「……そうか」
俺はそう返すしか無い。彼等の関係には興味もない、それに彼等は気が向けば故郷に帰れるのだろう。
俺は……あれから3年、まだ村は残って居るのだろうか。再興してくれていれば、きっとアマンダを連れて……
──くそっ!」
またフラッシュバックが襲ってくる。破壊された村、囚われた女達、そして三面六臂の女の怒りの顔が蘇る。
見ても居ないのに、ゴブリンやオークに陵辱されるアマンダが……
唇を噛み締め、目を瞑ってそれに耐えていると、レヴィが話に入ってくる。
「あのさ、あのさ、街の冒険者が噂してたんだけど、魔王が復活したって知ってる?」
「──魔王?」
レヴィがリリスの肩を叩いて言う。
魔王の復活?どういう意味だ。目を開きレヴィを見ると、目が合った。
「ははーん、興味あるかぁ。」
レヴィが俺を見てニッと笑った。
「復活はアタシも初耳かな~。」
リリスが首をかしげた。
「うっそ聞いてないの?」
「うん、聞いてない。」
二人の会話をニトロとゴレム、グルームは黙って聞いていた。
「ノスフェラトウでさ、騎士団と傭兵部隊が、魔族と戦ってるじゃない?」
「うん。」
「そこで大々的に追加の傭兵を募集し始めてるらしいの。魔族と戦う戦士をね。」
「そうなの?」
「そうそう、なんでもこないだ迄は小康状態で戦ったり休戦したり、小競り合いだったんだけど、なんか魔族の攻勢が強まったんだって。中には城塞都市ファルコンに侵入したり、こっちの大陸まで来てるとか。」
「マジ?」
「マジマジ、最近こっち側で魔族に襲われた、なんて話も増えてるしね。」
「ふ~ん、じゃあ警戒しないとね?」
「でねでね、その原因が魔王の復活じゃないかって、噂。」
「なによ~、それって唯のホントの、飾りっけなしの噂じゃないか~。」
レヴィの話のオチに、リリスが憤慨して2人でキャッキャウフフしてる。
何やら随分と意味深い話らしいが、魔王が居よう居まいが関係ない。こちらに魔族が来ているなら、願ってもない。
そもそもあいつらは3年前に村を襲ったんだ。ああ、また脳裏をフラッシュバックが……
はぁっと溜息を吐いた所で、俺は不意に悪寒を感じて上を見上げた。
アラートが鳴り響く。
【危機感知】が迫る危機を感じ取った。
††
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