<M07> 親子対談
仕事で遅れて更新遅れて……汗
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あまりの事に俺は戦慄した。アリスが強いというのは理解している。だがこれは規格外過ぎるだろ。相手は連合軍屈指の戦士だぞ。それを4人一度に瞬殺とか、狂ってる!
「あいつ、まじでバケモノじゃないのかっ!」
俺が呟くとクリフが悔しそうにぎりっと唇を噛んだ。
「そうだよ、アリスはここにくるまで、エリーザの仇を討つため、狂ったように訓練していたんだ。俺はまだ……あいつに勝てない。」
「いやそれ違う、あんなのに勝てる奴なんていねーから。」
まじでアレに勝つとか、人間技じゃないから。あれこそ人智を超えた存在の力だろ。
「アリス様はあれから努力をなさいましたから。当然です。」
いや努力のレベルじゃねぇって。相手はそのへんの野盗じゃないんだぞ。この最前線で生き残ってきた強者たちだぞ。それをこんな瞬時に、四人まとめて倒すとか、あいつわまじでバケモノだ!
俺たちを取り囲んだ兵士たちは、声も出せずに呆然としていた。自分たちの代表でも有る歴戦の勇者が、あっさりと倒されてしまったのだから当然だろう。
それも身長150センチほどしかない、子供といってもおかしくない小柄な女の子にだ。
アリスはブンッと長剣を振ると、マーク将軍と副官の方へと顔を向けた。
「治癒師を呼んで下さい。すぐに治癒すれば、アレックス殿の腕は癒着するでしょう。」
アリスの毅然とした声に、マーク将軍は我に返り、副官に向けてすぐに治癒師を呼ぶように怒鳴りつけた。
「他のものは気絶させただけです。多少の怪我はしているでしょうが、手加減はしておきました。早めに治癒すれば明日明後日にでも戦線に復帰できます。」
まるでこれが普通だとばかりに、アリスは倒れている戦士たちを一瞥した。
「マーク将軍。先ほど妾の申した言葉、しかと胸に刻んで置かれよ。」
アリスは将軍を見つめ、静かに言うと、走り寄ってきたマリアに剣を渡してその場を離れていく。
俺らを囲んだ兵士たちは、声も出せずにシーンとしていた。恐らく殆どの兵士たちは、あの数瞬の間に何が起きたのかさえ理解していなかっただろう。
そしてマリアはアリスの剣を収納にしまいこみ、マーク将軍の前にでると、片膝を付いて礼をした。
「お父上様、お久しぶりに存じます。ご挨拶が遅れ申し訳ございません。」
「うむ、久しゅうな。」
え?
マーク将軍がマリアのお父さん?え、でもマーク将軍はエグゾス帝国の人じゃないか、じゃぁ、マリアってエグゾス帝国の?
「健勝そうでなによりだ。」
「いえ、申し訳ありません。」
マリアは言いながら右手を差し出すと、手を覆っていた肘まである黒い手袋を脱いだ。
それを見たマーク将軍はその手を凝視している。、マリアの右腕は鉄で出来た義手だった。
ザックによって受けた酷い傷とは、腕を切り落とされたということか。
「お父上様から頂いた身体、傷物にしてしまいました。」
ついで上着のボタンを外し、胸を父に見せる。
「な、なんとなんだと……だ、だれがコノような……」
歴戦の将軍とはいえ、やはり愛娘に刻まれた酷い傷跡を見て、言葉を詰まらせていた。
「魔族との戦闘にて受けました。」
「魔族、だと?」
「アリス様をお守りする際に力足りず、申し訳ございません。」
マーク将軍は我が娘の痛々しい姿に唇を噛み締めている。赤くなったり青くなったりと忙しいが、それはそれで将軍である前にやはり父親なのか。
娘を持ったことがないから解らないけど、例えばアマンダに置き換えたら、俺も似たようなもんだよな。
「此度の試合、真剣にてと申し伝えられております。私は残念ながらアリス様程の達人ではございません。見ればお相手はかなりの使い手とお見受けいたします。手加減すること叶わず、お相手を殺してしまうやもしれませんが、よろしいでしょうか。」
マリアが淡々と、まるで感情の無いロボットのように話し、対戦相手となる第6師団特戦隊長ロンサムを見た。
「………」
マーク将軍は汗を滴らせ、まるで殺人機械のように変貌してしまった我が娘を見つめている。
確かにマリアって感情の起伏が余り無い時あるけど、今は実の父に向けて更にそれに磨きがかかってるなぁ。でも多分あれ、芝居だよな。
偶にすっごいいい笑顔で笑ってる時あるし、俺と話してる時だって、感情が無いわけないし。
父親の前だから、できるだけ感情を出さないようにしてるだけか。ああ、不器用なんだな。
「恐れながら。」
マーク将軍が戸惑っていると、ロンサムが近づいてくる。
「私としましても、マリア様を見る限り、殺さぬよう加減して勝ちを得られる相手とは思えませぬ。」
「お前まで言うか。」
「ハイ、かと言って戦士たるもの、命惜しさに戦場を後にするなど、死に勝る恥。しかし互いに死線を探る戦いとなれば、ここはどうでしょうか。互いに武器は剣ですから、模擬刀を使ってはいかがでしょう。もちろんマリア様がご承諾いただければ、ですが。」
「模擬刀、だと?」
ロンサムって人、やたらと雄弁だな。将軍は一瞬躊躇ったけど、確かに模擬刀であれば死ぬことは少ないだろう。だけど特戦部隊長たるものが、命惜しさにそのような事を言うとは思えない。
つまりはそれほどギリギリの戦いになりかねないってことかな。
自分が無事に済むというよりも、場合によってはマリアが命を落とすかもしれない、そういうことだろう。部隊長であり手練の戦士として自分が死ぬことよりも、相手を殺した場合を考えてるってことか。
なにより相手はアリスの侍女であるとともに、ファルコン最高権力であるマーク将軍の娘だ。父親の前で娘を殺すことは避けたい。それがロンサムの真意といったところか。
「私もそれに同意致します。」
マリアの一言で、将軍の気持ちは決まった。互いに剣を模擬刀に変えて試合となった。
マリアは右手が使えない。左手に模擬刀を持ち、ロンサムと対峙するわけだが、ロンサムは盾を持っている。それはかなりのハンディとなるのかと思ったのだが、このマリアってのもとんでもない奴だ。
これまでの戦いで見てきた限り、恐ろしく素早く動き、相手を翻弄してきた。特にアリスと組んだ時の動きは、以心伝心の如く互いの動きの合間を縫って敵を切りつけていた。
ではソロではどうなのか。その動きはまるで忍者の如くにロンサムを翻弄していった。だが流石にロンサムもまた一流の剣士であるのか、マリアの疾風のような動きについていき、剣戟の音だけを響かせていた。
最前線の最高戦力と一進一退の攻防を綴るマリアの実力は賞賛に値するものだ。逆にアリスが規格外過ぎるということだろう。
だけど、これこそ《人間の範疇》の戦いなんだな。
結局二人の攻防は終わりがなく、途中でマーク将軍の合図で戦いは終わった。両者引き分けということだ。
マリアは少々悔しそうな顔をしていたが、マーク将軍からお褒めの言葉を賜り、嬉しそうであり、またちょっと目が潤んでいた。兵士たちの前であるから、抱きしめるみたいなことはしないが、居なければそのくらいしてたかもしれない。
なんか親子の感情の交差を見た感じで、ほんのりしてしまった。
そして俺の番だ。
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