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ドジな女神に不死にされました  作者: 無職の狸
第一章 今度の人生はスローライフで行こうと思ってたのに、どうしてこうなった
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<10> 馬は金貨1枚です

密林を走る少年が一人、ちょっと様子が違います。

††

 

 リステア大陸中央密林地帯


 その辺り一帯は、深い森が広がっている。

 

 人の通れる街道はあるが、街道は森を避けるように大回りをする形で、湾曲していた。まるで森に入ることが、いけないことでも有るかのように。

 

 森の大きさはグランダム王国の国土の3割を締める程の大密林だ。これを迂回するのだから、大変な遠回りとなる。

 

 何本か作られた人の通れる道以外は、鬱蒼とした密林に覆われており、王国の南地区から東地区へと渡るためには、その道を通るしか無かった。


 森を抜ける場合は、殆どの人達は海岸線に沿った、最も安全な街道を使う。しかし危険な密林を突っ切る道と比べると、4倍の行程が掛かってしまうのがネックだった。

 

 南の地区から東の地区に抜けるのに、海岸線の道を通れば馬車で凡そ20日は掛かる。しかし密林を抜ける道ならば、5日で行けるわけだ。

 

 政治的な使用なども有るため、数ヶ月に一度の割で、南のアクシズ辺境伯が数百人規模の大隊を動かして、街道の整備と魔獣の掃討を兼ねて行っている。


 しかしそれでも亜人や魔獣を掃討できるわけもなく、街道を使う者の被害は出る。その為一般の人々が使うことは、早馬で駆け抜けるくらいの時だ。

 

 もちろんいくら早馬でも馬車で5日も掛かるところを、1日で抜けることは難しい。当然一人ではなく、十数人で隊列を組んで抜けるのが一般的であり、当然全員武装しているのが当たり前の事だ。

 

 その危険な街道を進む一頭の馬がいた。

 

 馬に乗るのは銀髪の少年。その顔はまだ幼さすら見られるが、眼が異様に鋭くギラついていた。

 

 額に鉄製のプレートを付けたバンダナを巻き、グレイのマントをはためかせている。

 

 何故か頭の上に、茶色い動物か何かのぬいぐるみが、ベタッと乗っているのだが、何かのアクセサリーだろうか。

 

「歩きで10日以上、馬車で5日、早馬でも2日か。馬を殺す気なら1日でいけるが……」


 馬を奔らせながら、少年は馬の首を擦る。


「すまねえな、無理させて。」


 金貨1枚で買った馬だ。そうそう死なれてもらっちゃ困るのだ。

 

 少年が金持ちではなさそうなのは、その身形からも見て取れる。薄汚れた身形からは、凡そ金持ち臭さは伺えず、どちらかというと貧民街から出てきたのではなかろうかと思わせる。

 

 そんな少年にとって、やはり馬は貴重品だし、その貴重品を殺すつもりは毛頭無かった。

 

 ただ彼の願いは1つ。

 

 

 

 密林に作られた街道を奔リ抜けていくと、街道を塞ぐように転がる、数体の黒い塊が見えた。

 

「ベルアング……か。」


 少年が呟き、馬に停まるように手綱を引いた。

 

 ベルアング、少年が育った南部地区ではそう呼ばれるが、東部から北部ではオーラグリズリーと呼ばれる、羆のような魔獣だ。

 

 性格は凶暴で、肉食性。全長は3メートル程度、四足獣ではあるが、後ろ足だけで立ち上がると、かなりの巨体に見える。

 

 狩人組合ハンターギルドに於ける討伐ランクはB。一般の狩人ハンターにとって、十分警戒すべき相手だ。


 それが3匹も居るのだ。

 

 普段は山や森に篭って出てこないはずが、何故街道に居るのか、少年は不思議に思いながらも、警戒は緩めなかった。

 

 なにせ此処は密林の街道、どこから新手が出てくるかもわからない。現に彼の【危機感知】スキルは、先程からアラートを鳴らしている。

 

 周囲にはそれほど危険な魔獣たちが潜んでいる、ということだ。森から出てこないのは、こちらの出方を見ているからか。

 

 少年は考える。

 

 馬に乗ったままでは流石に応戦は難しい。馬上での戦闘訓練はしていないし、ましてヤりも持っていない。応戦するには馬から降りる必要がある。

 

 だが、馬から離れれば、何の躊躇いもなく森から魔獣が出てきて、馬を餌とするだろう。

 

「ベルアングの皮や肉は高く売れる。三匹なら馬2-3頭にはなるかもな。」


 少年は算盤を弾いた結果、馬を諦めることとした。

 

「いいかコッペル命がけで捕まってろよ!」


 誰とはなしに少年が言うと、頭の上のヌイグルミがムクリと頭を上げ、もふもふの顔の口が開いた。

 

「クゥ!」


 なんとヌイグルミではなく、生物である。体全体はモフモフ状態で、顔はポメラニアンにも見える。顔の大きさに比して黒く丸い目玉に小さな鼻と口が、モフモフとしている。

 

 ヌイグルミはまた頭を下げて、頭にペタリとへばりついた。

 

「なんかしがみつき過ぎじゃねぇか?普通なら痛いぞ。まあいい、しっかりしがみついとけ。」


 またヌイグルミが頭を……今度はスリスリしていた。

 

「……たく、金貨1枚、命がけで逃げろよっ!」


 馬を降りて尻を叩き、馬を走らせると、後を追うように少年も走った。

 

 馬がオーラグリズリーを避けて走り抜けようとするが、オーラグリズリーのうち1匹が襲いかかる。

 

 馬より少し遅れて走る少年にも残り2匹が襲いかかった。

 

 少年は自分に襲いかかった2匹を跳躍して躱すと、馬に襲いかからんとするオーラグリズリーに向けて、腰の剣を抜刀し、剣閃を奔らせた。


「まず一匹ぃ!」


 少年の持つ剣は、馬に気を取られたオーラグリズリーの分厚い皮と肉を斬り裂く。

 

 オーラグリズリーが首を立ち斬られ、横倒しになって悶えた。

 

 馬はその間に走り抜けていく。

 

「元気で生き残れよ~金貨1枚!」


 と馬に背を向け叫ぶと、残りのオーラグリズリーに向きなおる。

 

 左右から走り寄るオーラグリズリーにむけ、左のオーラグリズリーに向けた剣が、鋭い爪に弾かれ地面に転がった。

 

「ちいっ!」


 武器を奪われ、少年は舌打ちをする。右のオーラグリズリーの剥き出した爪が襲いかかるのを、腕で跳ね上げ腹に蹴りを食らわせる。

 

 少年の倍も体格のある、自重400キロ以上の巨体が蹌踉めいた。

 

 すぐに左に向きなおり

 

「縮地」


 縮地スキルを使い、オーラグリズリーの爪を躱して懐に入り込み、拳を唸らせ腹に喰らわせる。

 

「爆裂拳!!」


 巨大なオーラグリズリーの腹にめり込んだ少年の拳が、白い光を放つとオーラグリズリーの背中が吹き飛び、血肉を吹き出した。

 

「あっと、しまった、値段下がる。」


 ちょっとだけ残念そうな顔をすると、振り向きざまに背後で爪牙を向けていたオーラグリズリーに向けて、ふわりと跳び上がる。襲い来る爪撃を身体を捻り躱すと、頭に向けて掌底を叩き込んだ。

 

「ついでだ、掌底爆裂波。」


 手が白き光を発すると、オーラグリズリーが目玉を吹き飛ばし、耳や鼻、口から血を吹き出した。

 

 少年が地面へと着地すると、間もなくオーラグリズリーが地響きをあげて倒れた。

 

「ったく、3頭だと面倒だな。」

 

 少年は3頭のオーラグリズリーの死体を一瞥し、落とした剣を拾い上げ鞘に収めた。

 

 1頭は身体に酷い傷ができてしまったのを、残念そうに見つめながら、少年は手際よくオーラグリズリーの身体を解体し、皮と肉と爪と牙に分けて、《保存袋》のなかに放り込んでいった。

 

「さ~~て、馬は無事に逃げたかなぁ。てか、ここからしばらく走りかよ。」


 周囲の森の中には、まだかなりの魔獣が潜み、少年の様子を見ているのが解った。血の匂いに惹かれたのか、さっきよりも増えている。

 オーラグリズリーの死体で、まだ残っている部分はかなりある。奴らが第一に狙っているのはそれだろう。


 ところが頭上のヌイグルミが、頭を上げて舌をだし、物欲しげにオーラグリズリーの死体の残りを見ている。

 

 太い骨がたっぷりと残り、其処に残ってこびり着いている肉片だけでも、結構な量がある。まだ採れると言えば、かなりの量が採れるだろう。

 

 口から涎がぽたりぽたりと……

 

「ちょまて、てめ、頭の上で涎垂らすんじゃねぇ。」

「くぅぅぅっ」

「ったく、テメエはこっち食っとけ。」


 言いながら保存袋からオーラグリズリーの肉片を取り出すと、ヌイグルミに分け与えてやる。

 

 ヌイグルミは喜び勇んで食らいつくと、1キロはあるだろう肉片をペロリと平らげてしまう。

 

「今はそれで我慢しとけ、じゃないと俺たちが餌になるからな。」


 死体の残りを食い尽くしてしまったら、魔獣が狙うのは、自分たちだ。今は多少でも肉を残しておいて、そちらに眼を行かせるのが得策だ。


「さていくかぁ。」


 少年は密林の合間から見える青い空を見上げる。

 

 空は明るい。太陽はまだ落ちていないが、あと数時間もすれば、ここは真っ暗になる。そうなれば魔獣たちはより凶暴となって、襲ってくるだろう。

 

「日が落ちる迄、全力疾走ってか。」


 はぁ、と嘆息すると少年は保存袋を背負い、街道を走りだす。

 

 最悪夜になったら、どこかの木にでも登ってやり過ごすか、などと考える。

 

 どこかに都合よく洞穴でもあればいいのだが、そうは行かない。やはり無茶だったかな~と後悔しながら走った。

 

 こんな危険な街道を行くのは、単に時間を短縮したかっただけなのだ。早く北の辺境へと向かいたかっただけだ。そして更にその先に有る、ノスフェラトゥへとゆきたかった。

 

 魔族が支配する、魔大陸へ。

 

 少年の目的は、そこにあるのだから。

 

 

 

 

 

 少し走った所で、少年の視界に複数の人影が見えた。

 

 途端に少年の眼が、凄まじい殺意を帯び、走りながら腰につけた剣を抜刀する。

 

 少年の視界に映ったものは、先ほど逃がした馬に集り、食い漁っている亜人の集団だった。

 

 どうやら逃がしてやった馬は、生きながらえる事は出来なかったようだ。


 緑っぽい色をした小さな、醜悪な面妖のゴブリンと、人ほどの背丈を持つホブゴブリンが、馬を漁っていた。

 

 少年の鬼気迫る殺気に気づいたのか、ゴブリン達は振り向き、剣や弓を構えた。

 

「死にやがれぇぇぇぇっ!」


 凄まじい憤怒と殺気と共に少年は斬りかかる。

 

 剣は少年から迸る青白い焔を纏わせていた。


 少年が怒りを覚えたのは馬が殺されたから、いやそんなことは些細なことだった。

 

 少年の憤怒は数年前の出来事から来ていた。あの日、大切な者達を守れなかったから、大切な者を奪われたから。

 

 ギラギラとした殺気を放ち、ゴブリンが放つ弓を左手で受け止め、構わず剣を振る。

 

「くたばれぇぇぇっ!」


 蒼白き光に包まれた剣がゴブリンを横薙ぎに斬り、瞬間ゴブリンの身体が爆散した。

 

「亜人ども、てめぇらは一匹も生かしておかねえ。」


 殺気を放つ眼が、残った亜人を凝視した。

 

††

初の日間ランキングに掲載されました。

これも偏に読者の皆様のお陰です~。有難う御座います

m(_ _)m。


本来毎日1話にしようと思っておりましたが、今日は嬉しいのであと2話程お送りします。

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