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04.こんなわたしに誰がした


 えーっと。

 うん、まあそうだよね。

 お月様がちょっと傾きはじめたような時間帯だもの、しょうがないよね。

 特にこの世界はゲームみたいなモンスターとか精霊騎士とかいるわけだから、衛兵さん達が真面目に警戒するのも当然よね。

 町を守らなきゃいけないものね。

 

 ……って、黙って理性! 吠えろ本能!

 

「じゃあこのか弱い女の子はのたれ死ねってことですか、そうですか! さっきもユリエルがいなければ死んでたわけですが、そんな女の子を朝まで放り出しますか、そうですか! 自分でか弱いっていうのも確かにドン引きかもしれませんけど、実際死にかけましたよ、嘘じゃありませんよ! ユリエルが来なかったらとっくに犬頭モンスターのお腹の中ですよ!」

 

 門前払いをくらって、わたしは一気に沸点突破。

 もうホントに限界きてるんだから!


 衛兵さんが目を白黒させているも無視してまくしたてた。

 

「それはこんな時間に夜道を歩くなんて自業自得って思うかもしれませんけど、わたしだって好きで歩いていたわけじゃないんです。いつの間にか放り出されて、気がついたら草原のまっただ中で、いきなり犬頭に追い回されて、何がなんだか死にかけて、ユリエルが来なかったらここにいるのはゴーストかゾンビか、はたまたスケルトンになってたか! 必死にここまで辿り着いた女の子に、来た道戻れとおっしゃいますか、そうですかどうなんですか! 血も涙もありませんか!」

「い、いや、それは気の毒だとは思……」

「気の毒ですかそうですか、でも追い返すんですよね、そうですよね! 町が大事ですから女の子1人道ばたで骸骨になったってかまいませんよね。そうですそうです、あなたは正しい!」

「ちょ、ちょっと、そこまで……」

「言ってますよね。完全に言ってましたよね明日出直せって! 出直すってなんですか。それって家がある人の話ですよね。でも放り出された人はどうすれば? どこに戻れば帰ればいいの? 明日の朝までどこにいればいいと?」

「わ、わかったわかった! 状況は分かったからちょっと待て! 上に確認してきてやる!」

「……ホントに?」

「本当だ! そこまで切羽詰まっているなら俺も鬼じゃねえ! 今の話だと人さらいの被害者の可能性も出てきたからな」

「ホントにホント?」

「本当だって! だがもしお前が言っていることが嘘なら、そんときは道ばたの骸骨になろうが知ったこっちゃねぇぞ!」

「……ありがとうございます」

「本当だって言ってるだろ! ……って、何だ急に。さっきの元気はどこいった」


 わたしは深々と頭を下げた。

 下げたまま上げられなかった。

 

 急に涙が浮かんできたから。

 

 ここで泣くのは卑怯過ぎるって思うけど、でも止められない。

 自分で叫んで、現状をおもいしった。

 

 本当にわたし、右も左も分からない場所にいるんだ。

 何時死ぬか分からない世界にいるんだ。

 もしかしたらもう死んでたかもしれないんだ。

 

 無情な門前払いを受けて。

 どうしてこんなことを言われるのか、考えて。

 自分の現状を連ねて訴えて。

 

 ようやくわたしは、自分の身に起きていることをしっかり理解した。

 

 お母さんにもお父さんにも会えずに。

 真希ちゃんも優ちゃんにも会えずに。 

 わたしの知っている誰にも会えずに、草原の真ん中で死んでたかもしれないんだ。

 

 自分の身体が自分ではどうにもできないってことがあるのを初めて実感した。

 

 涙が、鼻水が、嗚咽が止まらない。

 足に力が入らない。

 身体の震えが止まらない。

 

 その場にしゃがみ込んでしまったわたしの隣に、蒼い影が近寄った。

 言葉なく、ただわたしの肩に手を置いて。

 短く2回、優しく叩いた。

 

 そこからはもう、何がなんだか分からない。

 ただひたすらに涙が出た。

 高校生にもなって、こんなに泣いたの初めてだった。

 

 衛兵さんが何かを言っていたのもよく覚えていない。

 わたしはいつの間にか、意識を失った。

 


 

「おはようございます、メイコ様」


 ぼんやりと目を開けたわたしの前には金髪のイケメンがいた。

 光の中で微笑むユリエルは、月明かりの下にいたときよりも輝かしい。

 

 でもわたしは失望と絶望を一緒に感じるなんて、なかなか器用なことをしていた。

 

 ……夢じゃなかった。

 ここはわたしの部屋じゃない。

 

 柔らかいけど、多分ワラか干し草が入っている布団。

 素朴な木のベッドに、木の壁、木の床。小さな白木のテーブル。

 ベッドの側には小さな丸イスに座ったユリエルがわたしを覗き込んでいる。鎧を外して、チュニックっていうのかな、真っ白な服を着ていた。


「なにか飲み物でも持ってきましょうか?」

「……ううん、いい。いや、やっぱり欲しいかも」

「分かりました。少しお待ち下さい」


 ユリエルは静かに立ち上がって、部屋から出て行った。開いたドアの向こうには同じような何の飾り気もない木の壁。

 

 わたしはため息をつくこともできずに、頭から布団をかぶった。

 

 

【続く】

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