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41.セバスの策略1

 セバスが裏庭に出ると、そこには、礼服を着たラナルフがいた。

「お見事でした、ラナルフ様。こちらは、ご褒美です。」

 そう言って、セバスはラナルフに、焼き菓子入りの袋を、二つ渡した。


 ラナルフは、幼い時に、褒美と称して、よくセバスから渡された袋を、怪訝な顔で受け取った。

「なんで、二つもあるんだ?」

 ラナルフも甘いものは食べるが、それほど好まないのを知っているはずの執事から、渡されたお菓子に、正直戸惑った。


 もしかして、これは嫌がらせか?


「もう一つは、オノウ様の分ですので、ラナルフ様の方から、渡して下さい。」

 どうやら、そうではないらしい。


「なんで、直接渡さない。」


「なんでか、私が渡すと、皆、あまり喜んで、くれないようですので。」

 悲しそうな顔で、セバスが呟いた。


 そりゃ、そうだろう。


 今まで、セバスがタダで、何かを配ったことは、一度もない。

 さすがに、あの無駄に鈍感なオノウでも、セバスからタダで、何かをもらおうとは、思わないだろう。

 ラナルフはがそう考えついた所に、セバスから声がかかった。

「そう、言えば、先程。オノウは森に入っていったようですので、後は宜しくお願いします。」

 セバスは、さりげなくそう言うと、廊下を引き返して行った。


 俺は、なにをよろしくされたんだ?


 ラナルフは、そう思いながらも、黙って焼き菓子の袋を二つ持つと、式典用の礼服のまま、森に足を踏み入れた。


 しかし、オノウはなんで森に入ったのだろうか?

 市場で、たらふく買い込んだので、当分食料に困ることはないはずなのに、なんでまた・・・。

 そんなことを考えながら、ラナルフは先を進んだ。


 かなり奥まで歩くと、前方におおきな湖が現れた。

 それと同時に、湖の所から、


 ザクザク、ボッチャン

 ザクザク、ボッチャン


 と、奇妙な音が聞こえてくる。


 ラナルフが月明かり照らされた湖で信じられないものを見た。

 そこで熊手を湖の中に突っ込んでは、水から何かを引き上げる、オノウの姿があった。

「一体、何をしているんだ?」


「あれ、ラナ様が、なぜここに?」

 私は、背後から聞こえた声に、唖然となりながら、熊手を持ち上げながら、湖の傍に立つ、ラナ様を見返した。


 ラナ様は、私を手招きした。

 私は首を傾げながら、熊手を持って、岸に上がった。


「ラナ様?」

 私は不思議そうに、手を差し出せと指示したラナ様に、黙って手を差し出した。

 そこに、小さな袋が乗せられた。

「こ・・・これは・・・幻のクッキーじゃないですか!」

 私は、右手に持っていた熊手を放り投げると、喜々とした顔で、袋の口を開けると、それをほおばった。

「うまぁー。生きててよかった。」


 ラナ様は、私のそんな表情を呆れたように見ながら、自分も先程セバスにもらったお菓子の袋を開けると、それを食べた。

 なつかしい味が口の中に広がった。


「これは・・・。」


「よく、ラナ様にいただきましたね、昔。」

 私は袋に手を差し入れて、次々にクッキーを食べながら、昔を思い出していた。


「そ・・・そうだな。」

 ラナ様は、小さい時、よく自分の部屋に遊びに来た、オノウの事を思い出した。


「ラナ様、それ、食べちゃダメですよ。」

 ラナルフが手にしようとしたクッキーを、オノウはいつも止めた。


「なんで、ダメなんだ?」


「だって、それすっごく不味いですよ。」

 周囲の大人が苦い顔で、オノウの発言を聞いていた。


「ああ、そうだな。」

 俺は、俺で、なんとも言えない顔で、オノウを見た。


 オノウは、なんでか、毒入りクッキーがわかるらしく、すぐにクッキーの山から、それを探り当てては、俺が食べない様に、皿から取り出すと、窓から外に投げ捨てた。


 外には、侯爵家で飼っていた犬がいて、よくそれを食べて、我が家の犬の方が具合が悪くなっていた。

 犬の嗅覚でも、毒を嗅ぎ取れないのに、なんであいつにはわかるんだ。

 俺には、いつもオノウの特殊能力が、不思議でしょうがなかった。


 そのおかげで、オノウが俺の傍に来て以来、毒に体を慣らすことがなくなった俺は、ベットに倒れ込むこともなくなった。

 とはいえ、侯爵家では、騎士見習いに行くまで、体を毒に慣らすことも、必要だった。

 そんな理由もあり、オノウは一人、遠方の執事養成学校に送られることになった。

 その頃の俺は、オノウの事を男だ思っていたので、俺のせいで、親許を離れることになったオノウを思って、一日でも早く騎士になって、オノウを俺の従者にし、父親と共に生活出来るようにしようと思ったのだ。


 でも実際は、昨日、ここに来たセバスにオノウの事情を説明され、あらためてセバスからオノウの護衛を任された。


 まさか、オノウの身分がそんなものだったとは、まったく知らなかった。

 今だに、クッキーをほおばる姿から、オノウが高貴な身分とは思えないが・・・。


 ラナルフは、そんなことを考えながら、湖の傍に立っていた。

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