31.メイドではなく料理人、あれ?
私がびっくりして、執事を見ると、彼は傍に置いてあった、箸を器用に使うと、次々に私が作った料理を食べていった。
「結構です。」
彼はそう言うと、傍に置いてあったワゴンに、それを乗せて、どこかに運んで行った。
どこにいったのだろうか?
ふと疑問に思ったが、別段まだ作った料理は残っていたので、そちらを違う皿によそって、台所でそのまま食べていると、戻ってきた執事に呼ばれた。
仕方なしに、調理した料理をそのままにして、執事の後についていった。
執事は、結構がっしりした扉を開けると、部屋の中に入った。
私もその後に続く。
そこには、先程私が作った料理が盛られた皿が、空っぽの状態で、置いてあった。
「いかかでしょうか、ラナ様。オノウをこのまま、この屋敷に置いておく件は?」
ラナ様は、書類から顔を上げずに、頷いた。
「ああ、そうしてくれ。後はお前に任す。ハンス。」
ハンスと呼ばれた執事は、私を連れて部屋を出ると、一言呟いた。
「では、明日から、ラナ様の朝食をお願いします。」
そう言って、いずこかへ去って行った。
明日の朝食をお願いしますって、言われても、台所に食料品なんて、もう今回のが最後なんですけど、わかってますか?
どうしろっていうのよ。
私はぶつくさ言いながら、取り敢えず、食べかけの食事を食べようと、台所に戻ってきた。
しかし、そこは黒山の人だかりとなっていて、大勢の使用人が残った食料を漁っていた。
「「「「「イヤー、うまかったよ。じゃ。」」」」」
そう言い残して、彼らも去っていった。
後には、さっき私が食べかけていた皿さえも、カラッポで、本当に何も残っていない、状態だった。
それはさながら、穀物庫を襲ったバッタの大軍のようだ。
後には、草木一本残っていない。
ひどい、なんで作った私が一口、いや最初・・・ほんの最初だけは、食べたけど、けどなんでかけらも残っていないの?
うっ、信じられない。
上流階級の貴族の屋敷で、餓死しそうになるなんて!
私は目の前の、森を見た。
高く垂直に伸びた針葉樹。
これなら、ここにはきっと、魔鹿が住んでいるはず。
魔鹿は夜行性だから、今、行けば、きっと食料品が・・・鹿肉が手に入る。
私は垂れてきた涎を拭いながら、持って来たサイドポーチの中を確認すると、森に入った。