18ベンの事情。
ベンは私を見て、少し沈黙した後、決心したような目を向け、話してくれた。
「わかったよ。詳しくは言えないけど、俺は卒業後、ある方に仕えることが、決まっているんだ。」
ベンは、もう一度、白い息を吐くと先を続けた。
「それで、まあ俺は分家なんだが、主家の方で仕える方と、俺がこれから仕える人が、対立してて、もしかしたら、そのあおりをくらったのかも知れない。」
「なるほどね。それで、今後も狙われる可能性は?」
「ちょっと待ってくれ。さすがに、それでも意地悪程度で、今日みたいに、命を狙われる程とは、思えないよ。」
「他の二人は?」
「あいつらは、それこそ、命が狙われるようなことはない。」
ベンが断定した。
「それより、オノウ。君こそ、どうなんだ。君の母親が、どこかの名家のご令嬢とか、じゃないのか?」
「さすがにそうなら、父が言うと思うけど。」
二人はお互いに、顔を見合わせて、薪を持つと、その足で井戸の水を汲んでから、小屋にむかった。
結局、二人の持つ情報だけでは、今回、起こったことを説明することは、不可能だった。
私とベンは、取り敢えず、最大の注意を払おうと言うことで、合意して、その日は小屋に戻った。
翌朝、村長は約束通り、岩亀の干し肉がたっぷり入った料理と、村の名産品の一つである山ブドウのジャムで造ったデザートまで振る舞ってくれた。
さらに、私が岩亀の権利を譲ったので、村長はそのお礼も兼ねて、近くの町まで、荷積みの馬車と案内人を貸してくれた。
もちろん昼食付きだ。
案内人に聞いて見ると、男爵家までは、二日の距離のようだ。
麓の町まで行けば、男爵家までの馬車もあるようなので、私たちは、ホッと肩の力を抜いた。
「よかった。もしかして、男爵家まで徒歩かと思って、蒼褪めちゃったわ。」
クレナイが、荷馬車に座って、隣のチャチャに話しかけた。
「あたしも」
「「俺たちもだよ。」」
私たちは、交代で荷馬車に乗りながら、麓の町まで、辿りついた。
麓の町に着くと、運がいいことに、ロック・タートル男爵家から定期馬車が町に来ていた。
ベンが代表で、馬車にいた男爵家の使用人に事情を説明してくれて、その日の夕方には、無事私たちは、男爵家に着くことが出来た。
屋敷に着くと、無駄にキラキラした屋敷から、壮年の執事が姿を現して、私たちを迎えてくれた。
「とにかく、無事着かけて、お疲れ様でした。私はこのロック・タートル男爵家の執事長でセバス、こちらがメイド長のイリーです。養成館の方には、私の方で連絡しておきましょう。今日は取り敢えず、ご主人様に挨拶して、明日、屋敷の他の使用人に紹介します。」
私たち六人は、執事長セバスに連れられ、ロック・タートル男爵に挨拶した。
想像通りの太った金持ち男だった。
私たち六人は挨拶を終えると、使用人が住んでいる建屋に案内された。
「部屋は三部屋だ。仕事は日の出と共に始まるから、この建屋の玄関に明日は集合だよ。」
メイド長はそう言うと、六人を残して、去って行った。
彼女が去った後、それぞれの部屋を覗く。
ベットは部屋に二つしかなく、誰かが男女一緒になってしまう。
なぜが他の四人が、私とベンを見た。
すぐに、クレナイとチャチャは、目の前のドアを開けて、中に入ってしまった。
ピンテルとコットンも同じように部屋に入った。
通路には、私とベンが取り残されていた。
私たちはお互いに溜息をつきながら、残った部屋に入った。
「どっちを使う。」
私はドアから離れた側のベットに腰を下ろした。
ベンは黙って、ドアの横のベッドに腰を下ろした。
「「取り敢えず、寝よう。」」
私もベンも、靴だけ脱いで、そのままベッドに上がると、疲れもあって、朝まで熟睡した。