16珍味消失!
これは、超珍しい岩亀じゃない。
でも、なんでこいつ、こんなに興奮してるの。
岩亀は、元来とってもおとなしい生き物で、こんなふうに馬車を壊して暴れまわるようなことはしない。
興奮するようなものは、今まで通ってきた道にはなかった。
さっきからする硫黄の匂いは、この岩亀が興奮して、体から出す、威嚇の匂いだ。
まずい。
少しでも動こうものなら、地中に潜って、こっちを襲ってくる。
土の中に入られたら、突き上げられるまで、こっちからはわからない。
今持っているのは、普通の小刀だけ。
これじゃ、あの固い甲羅にキズ一つつけられない。
まずい、まずい、まずい。
どうしよう。
落ち着け私。
なにかこの状況を引っくり返せるようなものを持ってなかった?
思い出せ、自分。
サイドバックの中には、蜘蛛が入った瓶と非常食。
ひじょうしょく
そう言えば、オリョウさんから、冗談交じりに貰った毒消しが・・・。
私は、異様に興奮しながら迫ってくる岩亀が大きく開けた口の中に、貰った毒消しを放り込んだ。
岩亀はそのままそれを飲み込んだ。
ダメか!
岩亀は、前足を地面にめり込ませ地中に潜り込もうとして、頭を地面に突っ込んだ。
くそ、もう・・・。
なぜか岩亀は、体の半分を土の中にいれた所で、動かなくなった。
私はそろそろと岩亀に近づく。
後方に回って見るが、ピクリともしなかった。
空気中にも、もう硫黄の匂いはなかった。
助かった。
私は思わず、傍の木にもたれかかった。
疲れて、何もする気が起きない。
そこに、離れて見ていたベンたちが近寄ってきた。
「オノウ、もう大丈夫なのか?」
こいつら、見てたんなら、少しくらい攻撃しろよ。
私は、そう思いながらも、まっすぐ立つと、岩亀に近づいた。
「それにしても、オノウは、すごいな。こんなの見ても、顔色ひとつ変えずに、冷静に対処するんだから。」
巨乳お姉さまを抱きかかえて、岩亀から離れて、避難していたピンテルが、やって来ると、物凄く興奮してくれた。
「なあ、岩亀の生肉って、絶品なんだろ。」
コットンが刀を抜いて、岩亀に近寄る。
「死にたくなければ、やめろ、コットン。」
私の声に、今にも斬りかかろうとしていた、コットンの手がとまる。
当然、彼は私の方を振り向いた。
「なんでだぁ。」
そして、疑わしい目で、私を見た。
「そいつに、オリョウさんに貰った、”キラーの毒消し”を飲ませたんだ。」
聞こえた三人は、びくりとして瞬時に、動かなくなった岩亀より離れた。
三人の目が、私を見た。
そりゃそうか、”キラーの毒消し”は飛んでもなく高価なもので、どんな毒でも、たちどころに消してしまう、ある意味万能薬なのだから。
ただし、何も毒がない状態で飲めば、これ以上もないほどの、劇薬にもなる代物だ。
ベンは私の話を聞いて、恐々と森の中で震えている二人の女性に、この岩亀に触らない様に、ピンテルにいいに行かせた。
「さて、オノウ。これからどうする?」
ベンがなぜか、私にそう聞いてくる。
なにを言いたいのか、わからなかったが、私は答えた。
「そりゃ、実地研修の場所に、向かうだけだけど。」
ベンは私のこの言葉に、驚愕しているようだ。
「どこに行くところだったのか、わかるのか?」
「そりゃ、これを見れば。」
私は岩亀を指した。
「あっ。」
ベンもやっと、気がついたようだ。
ロック・タートル男爵家。
国内で唯一の岩亀が生息する、領地をもつ貴族だった。




