14出発
朝の薄暗い時間に、起き上がると、洗面所で顔を洗って、昨日詰めた荷物を持つと、寮の最上階の部屋を出た。
ドアを開けて廊下を通り、階段を降りていくと、ベンたちとバッタリ出くわした。
「おはよう。オノウ。」
「おはよう、ベンとその他二名。」
「なんで俺たちは、その他二名なんだ。」
ベンの隣にいた茶毛で、青色い瞳のハンサムボーイが文句を垂れた。
「特に、意味はない。」
「じゃ、名前を呼んでくれ。」
「ご要望とあれば、ピンテル・コットン。」
「おい、別々に呼べよ。それじゃ、一つの名前みたいじゃないか。」
階段を降りて、一年前に通った生垣の通路を歩いていると、また文句を言ってくる。
「いちいち、注文が多いな、ピンテル。ちなみに、そっちは正門方向じゃないぞ。」
「えっ?」
逆方向に行こうとしているピンテルを、私は止めた。
「なんでわかったんだ?」
ベンが不思議そうに聞いてきた。
彼は方位磁石を持っているが、私が今そんなものを見て、注意したのではないことを、不思議に思ったようだ。
「なんでって、そっちの食虫草は、粘つくばかりで、味がタンパクで、不味いから。」
「粘つくばかりで、味がタンパクで不味いって、どういう意味だよ。」
茶毛で青色の瞳をした、可愛い系のコットンが、訝しげに聞いて来る。
「そのまま。食べても、それ美味しくないんだ。」
「「「はっ」」」
三人は、心底、不思議そうに、私を見た。
「昔、父と森で迷子になった時、食虫草を見つけて、食べて見たんだが、粘つくばかりで、味がタンパクで不味かったんだ。」
私は遠い目で、あの時の甘い匂いに反して、不味いばかりで、ちっとも空腹感が満たされなかった思いが蘇ってきて、一瞬、顔を顰めた。
「「「はあ?」」」
三人はなにそれ、と言う顔で、私を見た。
「それと同じ種類なんだよ、それ。」
「だから?」
「だから、この道は、なぜか、それが植わっていない方が、正門に続いているんだ。」
ベンは歩きながら、両脇にある食虫草を見た。
どれも同じに見える。
真面目な顔で私を見ると、その見分け方を聞いてきた。
「どうやって、見分けるんだ?」
「一つは匂い。」
「匂い。」
私は、頷いた。
「粘つくばかりで、味がタンパクで不味いくせに、そいつだけ、甘い匂いがするんだ。」
匂いに敏感なピンテルが、鼻をひくつかせた。
たしかに、かすかに甘い匂いがするようで、ピンテルはベンに頷いている。
「他には、なにか特徴はないのか?」
ベンが、さらに聞いてきた。
「うーん、後は花びらの数かな。」
「どういうことだ。」
「数えるとわかるんだけど、粘つくばかりで、味がタンパクで不味いものは、全部で四枚の花弁なんだけど、それ以外は、全部四枚以上の花弁があるんだ。」
私の説明の後、ベンが花弁を見ながら、数を数えて、曲がり角に来る度に、方位磁石と花弁・甘い匂いを確かめる。
私の言う通りだと、何回も確認した後で、三人は納得した。
「いつ、気づいたんだ?」
「えっ、そりゃ、ここを初めて歩いた時だよ。」
三人とも目を見開いた。
ここで生活しながら、いろいろな情報を集めて、最終試験に臨んだんじゃなくて、天然なのか、こいつは。
三人は、正門前にいた先生を見つけて、互いの顔を見て、項垂れた。
こいつと同じチームで、仕事したくねえ。
三人の心とは、別に、無事に四人が正門に着くと、先生から”下級貴族用のメイド証明書”と”下級貴族用の執事証明書”をそれぞれが貰った。
「これで、お前たちは、仮免だ。後は各貴族の屋敷で、実地訓練を積んで、本免除を取得するように。」
「「「「「「ありがとうございました、先生。」」」」」」
六人は、丁寧に礼をすると、年上の二人は、さっそく馬車に乗り込んだ。
私は、正門に来ていたオリョウさんから、保存食とお弁当を受け取ってから、馬車に乗り込んだ。
ベンと二人の友人も、それに習う。
私が乗り込んだ後、三人が乗り込もうとすると、ベンが先生に呼び止められた。
「ベン、それはお前の案か?」
「いえ、違います。オノウがオリョウさんに、頼んでいるのを見て、気がつきました。」
先生は頷くと、それ以上、呼び止めなかった。
ベンは軽く、先生に、礼をすると、二人の友人に続いて、馬車に乗り込んだ。