10.それを、お裁縫とは、言わないわ!
次の日の早朝、私はオリョウさんお手製の朝食を食べると、昨日お誘いのあった、キラン先生の裁縫教室に、足を向けた。
すでにそこは、半数以上が女子で埋まっていた。
所々に、なぜか男子の姿もあった。
ザワザワしながら、昨日の先生が来るのを待っていると、教会の鐘の音とともに、豪華なドレスを着た、キラン先生が現れた。
全員が素早く立ち上がって、優雅に先生にお辞儀をした。
私も同じように礼をする。
キラン先生は頷くと、全員に座るように、促した。
全員が着席した途端、キラン先生は、一人一人に、一枚の布を渡す。
それが行き渡ると、目の前の壁に、三枚の図案を出した。
一枚は複雑な図案の鳥で、二枚目がそれよりは、簡単な花、最後の一枚は、直線が等間隔に引かれていた。
「さあ、これだというものを、針と糸を使って、その布に描いて、ちょうだい。」
全員が、自前の針と糸を出すと、チクチクと縫い始めた。
私も同じように、白い糸を出すと、目の前の一番簡単な直線に取り掛かった。
一人一人、縫い終わると、キラン先生に見せに行って、部屋から出て行った。
最後に私の他に、先程見かけた数人の男子だけが残って、チクチクとしている。
キラン先生は近づいてくると、残って縫っている数人に男子を見ると、一人ずつ手元を見ながら、合格を出して行った。
最後に私の所に来る。
私の縫った後を見て、眩暈を起こして、机に突っ伏した。
「それはいったい、何なの?」
私は黙って、壁の図案の一番簡単なものを示した。
「これがあれなわけないでしょ。縫った糸の長さはめちゃくちゃ。線は斜めに縫えているし、どうしたら、こうなるの?」
やはり、そう言われたか。
父もこれが苦手らしく、これだけは、全くできなくても、今まで何も言われなかった。
とはいっても、裁縫以外は、教えられなくても、やれば出来たので、なぜこれだけ自分で出来ないのか、自分でも、疑問に思うほどだが・・・。
キラン先生は、項垂れた後、目に炎を燃え上がらせた。
「これは、天が私に与えた使命よ。必ず、あなたに裁縫の楽しさを、教えてあげるわ。」
なんと、その日は、もう一枚の布を渡され、五日後の授業までに、その宿題をしてくるようにと言って、その日は、解放してもらった。
私は、もう一度、昼食を食べに、オリョウさんの所に戻ると、午後は護衛術を教えている教室で、授業を受けた。
これは、あっという間に出来てしまって、すぐに教室を放り出された。
なので、その後は隣の教室でやっていた、パーティ準備のテストを受けた。
これも普段、父の仕事ぶりを見ていたので、一回のテストで合格してしまった。
次の日は、体術と薬学、その次の日は、剣術と棒術の授業も受けて、それらすべてを、一日でクリアした。
その後は、また、苦手な裁縫の授業を受けた。
私はやって来た宿題を、キラン先生に提出した。
また、ダメ出しを食らった。
今度は、同じ宿題を、六日後までに、やって来るように言い渡された。
私は、頷いて、教室を後にした。