序章2
拓也の重大発表の2日後、俺たち4人は秘密基地に集まっていた。
「タクやん、おそいね」
京香がいかにも待ちきれないといったような面持ちで時計を見つめる。
ちなみに、拓也をあだ名で呼ぶのは京香だけだ。同じクラスだからというのもあるだろうが、この2人は仲がいい。
さて、今日は能力開発の終わった拓也とここで落ち合う約束をしているのだが。
「それにしても一体どんな能力なんだろうね」
沈黙に耐えられなくなったのか、凛がみんなに話を振る。
「そうじゃな、時間を止める、とか?」
「バーカ、時間操作なんて10人議会でやっといるレベルだろう。今まで能力発現しなかった拓也にそんな力あるわけないだろう」
「そんなの分からんじゃろうが!今までためてきた分が、こう…爆発するかもしれんじゃろうが!」
「なんだそりゃ」
10人議会というのはこの国でトップの異能を持った、その名の通り10人で構成された最高意思決定機関、平たく言えば10人の王様たちのことだ。
まぁ、おそらく一生関係のない人たちだとは思うが。
「私はねぇ、氷とかが使える能力がいいなぁ。この秘密基地暑すぎるのよね」
「京香はね、そうだなぁ、食べ物を作り出す能力がいいな」
「お前ら私利私欲しか考えてないだろうが。拓也のことなんだと思ってんだ」
「えー、だって----」
と夢中でみんなの理想の拓也を想像しているうちに、時計は午後8時を回ってしまっていた。一向に来る気配がないので、俺たちは拓也はまだいろいろと忙しいのだと判断し、今日は家に帰ることにした。
次の日、俺がいつものように学校に登校し、HRの準備をしていると、教室のドアが勢いよく開け放たれた。何事かと思ってそちらを伺うと、そこには京香がひどく落ち着かないように立っていた。
「ど、どうしたんだよ。何かあったのか京香」
「修二…タクやんが…」
俺は京香の話を聞くや否や、職員室へと走り出していた。階段を2段飛ばしで駆け上がり、拓也の担任の席まで突っ込んだ。
「なんだ八雲。そんなに慌てて」
「先生、拓也が転校したって本当ですか!?」
「あぁ、本当だよ。それがどうかしたか?」
「なんで…そんな急に…」
「なんだそんな事か。お前らも聞いているだろう?藤堂は能力が発現したんだ。いつまでもこんな所にはいられない」
「だからってそんな急に」
「お前もあいつの友人なら素直に認めてやるべきだろう」
「…はい」
「わかったらさっさと行け、授業が始まるぞ」
「…失礼しました」
職員室を出ると京香に加え、幸一・凛も揃って心配そうにこちらを伺っていた。
「で?どうだったの?」
「やっぱり転校しちゃったみたいだ」
「まったくなんというやつじゃ。わしらになんも言わずに去っていくとは」
「タクやん…」
「でも!」
急に叫んだ俺をどうしたんだという風に見つめてくる。だが俺はまだ腑に落ちていなかった。なんだか、嫌な予感がする。
「あの拓也が俺たちに何も言わずに出て行ったりすると思うか?」
「じゃが現にそうなっちょる。出て行ってなかったらどこへ行ったというんじゃ」
「都市伝説…」
「都市伝説!?お前、あんな戯言を信用しちょるというのか!?」
「完全にってわけじゃない。ただ可能性として考えられるということだ」
「ねぇ凛、都市伝説って何のこと?」
「あぁ、京香はこの手の話題に弱いもんね。あのね、この学校に伝わる都市伝説なんだけど---」
俺たちの学校、六条能力開発高校に伝わる都市伝説はこうだ。
この学校で能力の芽が確認されたものは、学校に併設されている研究所でその能力を完全に引き出されることになっている。だが、その施術を受けたものを見た者はいない。それは、実は研究所では能力を引き出したりなどせず、生徒を監禁し、非道な実験を行っているからなのではないか、というものだ。
普通ならこんな突拍子もない話信じられないだろう。しかし仲の良かった友人が現に突如姿を消した。この事実を鑑みれば、まるっきり否定する、というわけにはいかない。
「なるほどぉ…つまりタクやんはまだ研究所の中にいるかもってこと?」
「そうだ。その可能性は十分にある」
「…そうだ!今日拓也の家に行ってみようよ」
「そうじゃな、なんの確証もない噂話をするより自分の目で見た方がいいからの」
「じゃあ、放課後よろしくな」
HRも始まりそうなので、一度話を切り上げ、授業を終えた後俺たちは拓也の家へ向かった。変な話をしたせいか、道中はみんなあまり口を開かなかった。俺自身、自分で言ったことが全くの妄言であることを祈っていた。しかし俺の祈りは神に届くことはなかった。なぜなら俺たちが目指した目的地、そこには、
----家が、なくなっていた