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臨 兵 闘 者 皆 陣 裂 在 前 !!


「ねえ、ゆーくん。新しく買った中古のノートパソコンで何やってるの?」

「お前に関係ないだろ。ふぅちゃんを連れてどこかへ消えてくれ」

「つめたーぃ。そのパソコンのお金、誰が支払ったの?」

「……」

 どうでもいいじゃないか。

 そんなことより重要なのはそう、このノートパソコンで何をしているかだ。


 俺は、ネットで悪魔払いの方法を探していた。

 以前、「呪いの藁人形セットを購入した主婦」というのを夕方のテレビニュースで観た事がある。その主婦はなんでも、夫の浮気を許す事が出来ずにこの呪いの藁人形セットを購入したのだとか。ニュースではもっと踏み込んだ取材をしていて、その業者にインタビューしていた。


 話を掻い摘んで言うと、その業者は丑の刻参りの代行もやっているらしい。

 藁人形を用いた呪術が出来ないという人や家族にバレるという理由から、代行料金1万円コースから手軽に注文できるらしかった。一万円コースは屋内で、山中での呪術は3万円。念入りにこれでもか! という強い呪術になると5万円になるそうだ。


 ただ、これは呪いを掛けるというもの。

 俺が調べたのは、この呪いを跳ね返す術だ。

 跳ね返すのだから、貧乏神や疫病神にも効果があるはずだ。

 試しに、九字護身法をやってみる。これは陰陽道となんかが組み合わさって今に伝わる民間呪術だ。


 俺はらうに向かって、九字を切りながら叫ぶ!

「臨 兵 闘 者 皆 陣 裂 在 前 !!」

 人差し指と中指を伸ばし、親指薬指小指を閉じて刀印を結び、叫びながら井の字を書くように空を切る!

 俺はこれを3回、らうの目の前で試した。


 らうはキョトンとした表情で平気そうだった。

 らうに「なにやってるの?」と言われ、俺は顔が熱くなった。恥ずかしかった。

 ダメだ。全く効果がない。むしろバカにされたではないか。


 俺は次の手に出る。

 目には目を歯には歯を。毒を以て毒を制す。つまり、先ほどの「呪いの藁人形セット」を用いて、忌々しい貧乏神と疫病神を呪い殺してやるのだ。いわっ、……呪ってやる!

 ということで注文した。

 初めて注文したのだが、驚いた。こういった類いの物は無地の段ボールに入って「日用雑貨」という名で配達されるのだった。呪術道具は日用雑貨なのだろう。日曜大工のようなもの、といえば呪術にも親しみがわく。

 早速中身を確かめてみる。

 ビール瓶くらいの打ち木とローソクが2本。そして燭台、竹串、白手袋、数珠、しめ縄、金槌、五寸釘、——最後、藁人形。


 段ボールを開けてこれらを見た瞬間、

「……」

 俺は鳥肌が立った。

 異様な感じがしてゾッとした。

 ただならぬ空気を醸し出す呪術道具の数々。その中でも、一際存在感を放っているのは藁人形だ。桁違いの迫力だ。

 20センチくらいの大きさで、汚くてささくれのある藁で作られた目も鼻も口も無い、藁人形。顔がないのに……。

 ——睨まれている感じが半端ない。


 俺は怖くなって、段ボールをガムテープでぐるぐる巻きにして部屋の押し入れに仕舞い込んだ。呪術道具を封印した。

 そして俺は台所から塩を持って来て撒いた。ヘタレだと言ってくれるな。

 物理的な危害でなくても、神仏に逆らえばバチが当たりそうだ。

 そ、そうさ。人を呪わば穴二つというじゃないか。らうを呪い殺したけれど、足を掴まれて墓の中へ引きずり込まれでもしたら意味がない。


 第一、こんなオカルトでくたばってくれる貧乏神と疫病神ではないだろう……。

 絶望の末、俺は布団に横になった。布団の中だけは不思議と安心する。

「ゆーくん。しばらくの間、ふぅちゃんここにいるって」

 ふぅちゃんに耳打ちされて、らうがそう言った。まるで伝言ゲームだ。

 この幼女、俺とは一切口を利かない。喋られないわけではない。利こうとしないのだ。己の口からは言わず、らうを経由して俺に命令をする。

 着ているパーカーの袖から指先だけ出して、菓子を食す。ウサギ耳フードをかぶっているのと、菓子を前歯でパリポリ食べる姿は本当にウサギっぽい。その姿、見れば見るほど可愛くて和むけど、やっぱり疫病神。居座ってほしくない、というのが俺の本音だ。


「らうもふぅちゃんも……早くどっかに行ってくれ……。君たちがいると、俺は幸せになれないんだ」

 切実な願いを伝える。

 と、らうはふぅちゃんのこぼした菓子を掃除しながら、

「んもう、ゆーくんのイジわる。私はゆーくんと一緒にいたいの。養分吸わせて」

「……いやだ」


 俺は厄介な神に取り憑かれてしまった。


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