貧乏神
これは俺が起床したときの事だ。
いつも自宅前の公園で騒々しく喚き散らす迷惑な市民を回避するべく、俺は陽の昇っている日中に寝ている。
そのため、今日も朝方に寝て、陽の沈んだ夕方頃に起床した。
——完全な夜型人間。夜行性である。
真っ当な生活スタイルでないことくらい俺でも分かる。が、今更どうでもいい。
とりあえず俺は、今日も堕落した日を過ごすため、5畳半のこの部屋に小学校時から鎮座する学習机に座り、日課にしているネット巡回をすべく、ホコリを吸い込んでファンの五月蝿い中古のノートパソコンを起動。
と、そのときだ。
「今日もネット? 毎日飽きないのね」
声がした、女の声だ。
5畳半のこの部屋、半年以上天日干ししていない布団を敷いたこの部屋、天井の隅に蜘蛛の巣が張って薄汚れたこの部屋において——女の声。ツンツンとトゲのある口調だった。
当然、ここには俺しかいない。
だが、俺は驚かなかった。
なぜならば、この様な現象は今までにも度々起こっていたのだ。おそらくこの現象は、現実逃避するあまり幻聴が聞こえだしたのだろう。
ひきこもり生活を送るニートの俺の精神もそろそろ限界に近づいているに違いない。
死期が近いように思われる。
俺ひとり死んだところで、この国がどうなるわけでもないのだが、せめてノートパソコンを葬っておかないと死に恥を晒す事になる。
——ふいにノートパソコンの画面に人影が映り込んだ。
これも俺ではない。
映り込んだのは俺ではなく女の子なのだから。
「……幻聴が聞こえ、今度は幻視。もうダメだ俺……」
頭をぐしゃぐしゃ掻き毟って、項垂れる。
「まぁまぁ。そんなに落ち込むことないよ」
背後からかけられたその言葉に思わず振り返り、
「おわっ! だだだ誰だ!?」
俺は驚きのあまり椅子から無様に転げ落ちた。ドスンと床に響く。
目の前にいたのは16か17歳くらいの美少女。
明るい笑顔を浮かべ、風がないのに栗色の髪が柔らかく靡いていて——
背丈は高くもなく低くもなく、すらりとした細身の体躯なのに胸は豊満。着ている花柄のシャツの形が、胸元だけ変形し、たいへん色っぽいことになっている。
黒目の大きいちょっと内斜視の美少女が——カビ臭い俺の部屋に、現れた。
「あ、私のこと見えるようになった? 初めましてかな? うーん、実は1年以上前から憑いてるんだけど、改めて思うと変な感じよねえ?」
「誰なんだよっ!? どっから入って来た!」
「混乱するのも無理ないわ。私? あなたに取り憑いてる貧乏神。名前は、らう」
「びびび貧乏神ッ!!」
——それはまさしく青天の霹靂だった。
何の因果か解らないが、これが俺に取り憑いていた貧乏神である。
グラビアアイドルのようではあるけれども貧乏神。決してビーナスなどではない。