愛の反対は無関心
俺の思考はますます貧相なものになる。
完全に選択を間違えた。
りっちゃんを選ぶべきだった。
気づいて俺は家を飛び出し、会いに行った。
マザーテレサの言葉だったか——愛の反対は無関心。これはその通りだ。
朝、大学に向かうりっちゃんと玄関前で顔を合わせた。
合わせていたのは、俺だけで、りっちゃんは俺を無視して素通り。
一言も口を利いてはくれなかった。
俺は泣き崩れた。
せめて、石ころを見るような目をくれてもいいのに。
せめて、毛嫌いしている態度をするとか。
せめて、唾を吐くとか。
何かあってもいいのに、俺には目をくれず、大学に向かった。
俺と一緒に目指した大学に。
片方は落第し、片方は合格。
頭を掻き毟りながら勉強する俺の横で辛抱強く指導してくれた。
落第したとき、目に涙を浮かべて、来年があるよと言ってくれたのに。
俺はなんて事をしてしまったんだ。
今までケンカは何度かあった。しかし、今回ばかりは仲直りできない。
愛想尽かされたのだ。
俺の人生、夢も希望もない。自らその夢と希望を捨てた。捨ててしまった。
悪神3人が、号泣している俺を部屋に連れ戻して……いよいよ俺は死にたくなった。
「貴様は、寄り添って面倒をみてくれた幼馴染みを捨てたひきこもりニートのゴミクズ人間だが、まあ、そんなに落ち込むな。お茶を淹れてやった」
シキモが慰めにお茶を淹れてくれた。
黒豆と昆布と梅干しの入った、縁起のいい福茶だった。
死神に福茶を淹れてもらった男は、おそらく俺が始めてだろう。
福茶はおいしかった。涙の味がした。
「お母様とお父様、帰ってこないね」
ふぅちゃんに菓子を与えながら、らうは彼女気取りでいる。
どこを探してもコイツほどのサゲマンはいない。
すべてはこの貧乏神から始まった。
俺から養分を吸い取れば吸い取るほど、らうはご機嫌になって、俺は堕ちて行く。
二者択一で、俺は貧乏くじを引いたのだ。
「カーチャンとトーチャン……俺を捨てたんじゃないかな…………」
愛想尽かしたのはりっちゃんだけでなく、両親もそうなのかもしれない。
息子の不甲斐なさを嘆いて家をでていったに違いない。
俺は要らない子なんだ。
両親と口も利かずにひきこもってばっかりで働く意欲もなくカーチャンの作ったメシを消費するだけの息子が家に居たら、そりゃ見捨てる。
見捨てられて当然だ。
「もしも俺に息子がいて、そいつがひきこもりニートだったら、俺は息子を追い出す。……いや、追い出す勇気もないから、息子を置いて俺の方から家を出て行く。……俺がそうするんだ。カーチャントーチャンだって俺を見捨てたに違いない。そのうち、この家と土地は売りに出されて俺は無一文で追い出されるに違いない。絶対にそうだ、そうに違いない」
「一晩出かけただけじゃない。メモを書き残したんだから小旅行じゃないの?」
らうは気楽に考えているようだ。
能天気な押し掛け女房め。貧乏神のくせに生意気だ!
一瞬で怒りは沸点に達し、一瞬で醒めた。
怒る気力すらまともに維持できない。俺の精神はまいっていた。
「私は、ゆーくんと一緒にいられて幸せよ?」
同意を求めるかのように言って、らうは生き生きとした表情で幸せいっぱい。
俺は不幸せでいっぱい。