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逆流してくる春巻き定食の味


「お前、親戚に狐や狸がいるのか?」


 食堂をあとにして部屋へ帰る途中だ。

 人通りの多い道を避けて歩き、かなり遠回りしている。


 俺の斜めうしろでらうが、

「ん? なんのこと?」

「それとも造幣局に……いや、なんでも」

「ふーん、ヘンなの。ねえ、ゆーくん」

 手、つないでいい? と言われて、俺は返答せずに歩く。

 ポケットに手をつっこむ。それが答えだ。


 俺は迂回に次ぐ迂回をして小道をとぼとぼ歩いていると、前方に車が数台、道の脇に停車していた。

 見ればそこは寺だった。

 おそらくは墓に遺骨を納めに来たのだろう。皆、黒い服装でうろうろしている。


 俺は人目に触れないように早歩きでスタスタ通り過ぎる作戦にでる。これ以上迂回しているといつになっても部屋に辿り着かない事に気づいたのだ。

 ツッカケのカランコロンという音を最小限にとどめて、競歩選手並にすたこら歩く。


 すると、俺から僅か10メートル先に、喪服姿の女性がひょっこり現れた。

 腰まで伸びた白髪ロング、唇を固く結んで目元の涼しいクールビューティー。

 喪服のワンピース、真夏なのに黒のジャケットを羽織り、黒のストッキング。

 飾り気のないその黒さが不気味だった。

 逆に。肘から指先、首から上は白肌を露出させて、異様な雰囲気を身にまとっている。

 年は俺と同じか2、3上か。

 その女性が、なぜか俺を睨むように目線をくれる。


 寺の前という事もあり、怖くなった俺は、歩いている道の反対側へ渡るように進路をとる。斜め横断だ。

 と、俺の進路上にその女性が歩み出て来るではないか。どういうことだ。

「……」

 俺よ落ち着け。俺の前に出て来るなんてそんなことはない。彼女も道を横断しているのだ。

 ——元の道へ渡ろうとした俺は、今歩いていた方に進路を修正する。


 と、俺の進路上にまた彼女が歩み出て来るではないか! しかも確実に俺を見ている。

「久しぶり。元気か?」

 うわっ! 声をかけられた!!


「えっ、あぁ……あああの」

 ドモってしまう俺。どこかで会ったことが……? 思い出せ、思い出すんだ!

 俺は喪服姿の彼女の顔を見た。

 恐ろしいほどに肌が白く、この炎天下でも汗ひとつ掻かずに冷たい表情をしている。

 白く細長い髪の毛。目元は切れ長で長いまつげが縁取っている。

 ——困った。まったく見覚えがねえ……。


「すすすみませんっ、俺、まったく覚えてなくて、」

「あれ? シキモじゃん。こんな所でどうしたの?」

 俺の背後で、らうがそう言った。まるで同級生に再会したかのように。


 その刹那、俺はすべてを悟った。

 彼女、シキモと言われたこの女性はらうの知り合いで、俺にではなくて、俺のうしろにいるらうに話しかけていたと。

 俺はただ、2人の間に挟まっていただけなんだと。


 ——ウワアアア! 恥ずかしい。死にたい!

 俺はシキモの横をツッカケの音を響かせて猛ダッシュ!! Bボタン連打の境地だ。

「あっ、待ってゆーくん!」

 待たねえよ。待つわけねえだろうが!


 ダッシュで小道を曲がって、

「えっ……!?」

 俺は思わず驚きに声上げた。

「なっ、え!? なぜ——」


 俺の目の前にシキモが立っていたのだ。

 たった今、らうと一緒に居たのになぜそこにいる?

「真鍋由……次は貴様だ」

 気怠そうに告げるシキモ。その場で勢いよく手を縦に振ったその瞬間、


 シャッッッギ!


 長さ70センチくらいの棒を手に握っていた。

「警棒っ!!」

 間違いない、あれは警棒だ。3段伸縮の黒い警棒だ!

 このシチュエーションは何なんだ? 次はお前だ、とは一体どういう意味だ!?


「冗談だろおい……何者な」

 んだよ、という言葉は途中で強制終了。

 一瞬で間合いを詰められて、シキモの顔がすぐ前にある。と同時に、俺の腹部に警棒がメリメリ食い込んでいた。

 俺、通り魔に殺される。

 死を覚悟した。


 逃げ出す前に俺は気づくべきだったのだ。

 らうの知り合いであれば、まともな神経をしたヤツじゃない。

 ——みんなありがとう。サヨナラりっちゃん。


 俺の短い人生総編集名場面が脳内で上映される。そして……。

 逆流してくる春巻き定食の味。

 今まで味わって来たワースト3に入る不味さだった。

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