プロローグ
物が壊れる、計画が狂う、夢を失う、家庭が崩壊する、将来に希望が持てない。
これら失敗には、2つのパターンが存在する。
1つは、少しずつ歯車が狂いだして、緩やかな速度で失敗する道を進むパターンだ。
たとえば、それまでは順調だったけれど、高校3年頃から勉強が身に付かず、テストの点数も芳しくなく、単位を落とす寸前で、しかも留年ギリギリの成績で大学受験するも全て不合格。滑り止めの大学すら落ちる始末……なのに、高校は卒業してしまう。
学生から無職の肩書きになったそいつが誰かと言うと——真鍋由。
この俺だ。
大学受験失敗のストレスを、物を壊す事で発散させたのは、この俺だ。
想像して夢見ていた計画が狂ってしまい、現実逃避から自室にひきこもっているのは、この俺だ。
役場に勤めている地方公務員のトーチャンと、近所のスーパーにパート働きのカーチャンとは滅多に喋らず、親子関係がギスギスして、家庭崩壊の原因を作ったのは、この俺だ。
——寒い時分にひきこもりを始めて、現在、8月に突入した。
季節は夏。
道路を挟んで自宅前の公園から聞こえてくる保育園児の元気な声、散歩途中に会話する老人たちの楽しげなお喋り、夏休みなのか夜には中学生が花火をしている。
一般的な常識的見地から見れば、それら娯楽に興じる人々が発する音は愉快なものだろう。が、今の俺には皮肉としか受け取れない。
奴らは、俺を嘲笑しているのに違いない。
俺はいっそ、包丁片手に公園へ乗り込んでやろうと思った。
だが——
俺にそんな度胸などはなく、人様を傷つけるなんて出来っこない性分。
将来に希望が持てず、働く意欲すらない俺はニート。
そのうえこの現状を打破するだけの知恵もなし。笑われて当然なんだ……。
そう、俺は「大学受験に失敗したひきこもりニートのゴミクズ人間」、なのである。
緩やかではあるが、確実に、失敗の道を進んでしまった。
二つめに、これとは別の失敗パターンがある。
それは、突如として失敗を突き付けられて一瞬にしてすべてが崩壊することだ。
いったい誰が、俺の人生を崩壊させたのか?
……それは、俺に取り憑いた貧乏神である。