三、父、そして決意
そうこうしているうちに、あっという間に半年が過ぎた。
義仁は、日雇いのアルバイトとホームレス向けの炊き出しなどで、何とか飢え死にせずにいた。
今日の所持金は五十八円。
その間パチンコ代には、幾らつぎ込んだか知れない。
そんな時、偶然父親と再会した。
父親は連絡がつかなくなった義仁を心配し、義仁の居所を探し回っていたのだ。
義仁の目の前にいる父親は、しばらく見ないうちにすっかりと老け込んでいた。
額に汗を滲ませ、義仁のことを見つめている。
すると、父は義仁の状況を何も聞かず、ただ、四国へ戻って農業を継いでほしいと頼んだ。
殴るでも蹴飛ばすでもなく、ただ、義仁に頭を下げたのだ。
父親の優しさを感じた義仁は、父に四国へ戻ると約束した。
しかし、義仁は父に、あと三年待ってほしい、と言った。
義仁の心境としては、すぐでも実家に戻って暖かい布団で眠りたいところだが、この負け犬の状況を彼自身が許さなかった。
派遣社員でもフリーターでも何でもいいから、とにかく自立してからでないと、自分は一生負け犬のままだと思ったのだ。
義仁の思いを感じ取った父親は、義仁の言葉に深く頷いた。
そして、そっと右手を差し出した。
それは、義仁と父が交わす、初めての握手であった。