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 ある夜のこと。


 いつものように、ミアが部屋で一人過ごしていると、窓の外に何かの気配を感じた。

 なにやらドキドキワクワクとするような。

 ミアは、好奇心からその窓を開けた。


 開けた途端、ミアの瞳には大きな満月が飛び込んできた。

 そして、その月を背に、少年が――背中に大きな羽を持つ少年が、屋根に座っている姿が見えたのだ。


 ――悪魔、だ。


 直感的に、そう思った。


 ミアが悪魔を見るのは初めてじゃない。何度かある。

 とはいえ、天使と悪魔は同じ世界に住んではいるがその住み分けはできており、普通だったらこんなに接近するようなことはなかった。

 お互い遠巻きに、その存在を意識しているといった状況だったから。


 ミアが窓から身を乗り出すと、悪魔は立ち上がりミアを見た。


 光に逆らうように立つ姿は、ミアから見えやすいとはいえなかった。

 ミアが暗闇に向かい目を凝らすと、悪魔は「おまえなのか?」と言って、その羽を広げた。


 月の光が、羽の隙間から金色の光の粒となって溢れる。

 まるで、月明かりに祝福されたような美しく大きな羽に、ミアの心は震えた。


 ――あぁ、そうか。あれは鳥じゃなくて、彼だったのだ。


 ミアは、自分が憧れていた鳥が、鳥ではなく目の前にいるこの悪魔だったのだと悟った。


「ずっと、あなたに会いたかった。会いたい、会いたいって毎日祈っていたの」


 悪魔だろうが鳥だろうが関係ない。

 美しいものは美しいのだ。

 そんなミアの言葉を、悪魔は身動き一つせずにじっと聞いている。 

 自分の話に耳を傾けてくれる存在の嬉しさに、ミアのお喋りは止まらなかった。


「あなたの飛ぶ姿が大好き。あなたは世界で一番素敵よ。私、あなたになりたい。あなたみたいに夜を斬るような、そんな飛び方をしたいの。だから、ねぇ、あなたのその光り輝く黒い羽と、私の背中の羽を取り替えて頂戴」

 ミアは想いの全てを悪魔に伝えた。


「まさか、そんなことを言ってくる天使がいるなんてな」

「それって、どういう意味? そんなことって、どんなこと?」

 ミアの問いに悪魔は「おまえは、馬鹿だ」と、言い放った。

「私、馬鹿じゃないわ」

 ミアは羽を使い窓枠を飛び越えると、そのまま悪魔に向かって飛んだ。


「うわっ! なんだ!」

 飛び込んできたミアを悪魔が抱きとめた。

 けれど、ミアの勢いが強かったせいか二人は体のバランスを崩し、そのまま屋根を滑っていった。

 悪魔のふんばりで、落下は免れたけれど、それでもかなりギリギリの場所にいることには変わりない。

 悪魔がミアを抱きながら、一歩屋根の内側に入ろうとしたそのとき、ミアは我慢しきれずに悪魔の羽を触った。

 これは、凄い……。

 ミアは、うっとりと目を閉じた。

 悪魔の羽は、かっこよく飛べるだけでなく触り心地までいい。

 このままずっとこうしていたい。

 ミアはまるで仔猫の背を撫でるように、悪魔の羽を撫でた。


「ねぇ、お願い。私の羽と取り替えて」

 自分の羽がこんなに気持ちがよかったら、どんなに毎日楽しいだろう。

「おまえは、馬鹿決定だな」

 かすれた声で悪魔は言うと、ミアを抱えたまま安全なところまで進んだ。

 そして、暴くように月明かりにミアの顔をさらした。

 ミアの頬は輝いていた。

 瞳は暗闇の中でも光る星のようだった。

 悪魔は息をのんだ。

「……一度だけ、おまえを抱えて飛んでやるから。それでもう、いいだろう」

 悪魔はミアにそう言った。


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