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「いいえ、ロザリン。彼は恋人なんかじゃないのよ」


 ミアはそう言うと顎をくっと上げた。

 ジャスティンにキスをされたくらいで動揺する私ではないと、自分に言い聞かせながら。


「そう? 恋人じゃないのね? じゃ、よかったわ。だって私『見えた』んだもの」

「見えたって、何が?」

「あなたの結婚相手がよ!」

「はぁ?」

「いいことミア。もう一度言うわ。 私、あなたの結婚相手が見えたのよ! ほらあなたも見て頂戴」


 そう言うとロザリンは、たっぷりとした奇妙な服の袖の中から小さな水晶玉を取り出した。

 そして、少し前までお金がたっぷり入ったアタッシュケースが載っていたテーブルの上にぶ厚い布を敷き、 その水晶玉を乗せた。

 ロザリンがソファーに腰をおろした。

 フーチは彼女の膝の上に乗った。

 ミアは迷った挙句、ロザリンの隣に座った。

 ロザリンが口の中で何かをつぶやき手をかざすと、その玉の中で黒い影が揺らめくのが見えた。


 ロザリンには正真正銘の力があった。

 ジャスティンへの借金を返すため、ミアは親元を離れてこの都会に近い街に来た。

 住む場所も決めてなければ、仕事のあてもなかった。

 そんなとき、街角のカフェの一角で占いをしているロザリンを見かけた。

 ミアには、彼女の占いがとんでもなく当たるのが見えた。

 ただ、残念なのが、ロザリン自信が自分の出した占いの結果を正確に読み取れないということだった。

 ロザリンが見る映像は、カメラでいうのなら思いっきりピントがずれたもの。

 そのものを映してはいるけど、何がなんだか分からない状態。

 それをミアは正確に読んだ。

 一人の男性がやってきた。

 男性はロザリンに、宝くじを買ったほうがいいか買わないほうがいいかと尋ねた。

 どんな結果が出るのかとミアが興味深く見ていたところ、なんと一等賞が当たる結果が出た。

 しかし、それをロザリンは正しく読めない。

「今回は見送ったほうがいいわ」なんて、男性に真逆のことを伝えた。

 それを見て、ミアはピンと閃いた。

 この占いの逆ってできるのかしら?

 たとえば、近々大金を手に入れる人を捜す、みたいな。

 お金に困っている人がいい。

 その人にミアがお金を貸して、手に入れた大金から支払ってもらう。

 あらかじめ手に入る額がわかっていれば、そこから逆算して高い利息を貰うことができる。

 いけるかも。

 今まで、両親が営む施設の手伝いをしていたミアには、これといった特技も技術もない。

 だから、やるしかないのだ。

 かくしてミアは、ロザリンに声を掛けた。

 そして、ミアが望む占いをロザリンができることを確認した。

 ロザリンはミアに、住む場所の紹介までしてくれた。

 ロザリンがいなければ、ミアは今頃どうなっていたか……。

 つまり、ミアにとりロザリンの占いは、もはや占いなのではなく真実なのだ。


 ロザリンの水晶で揺らめく黒い影が段々と濃くなっていく。

「見えてきたわよ、ロザリン」

「しっかり見て頂戴よ。あなたの結婚相手なんだから」

 勝手にミアの結婚相手を占うロザリンに呆れつつも、ミアも内心興味はあった。

 ロザリンの水晶に映る人物は、徐々に輪郭をはっきりと表し始め――。


 にゃ~~~お!


 突然、フーチが仔猫らしからぬ大きな鳴き声をあげ、ロザリンの膝から水晶のあるテーブルへと飛び乗った。

 ゴロリ。

 水晶玉がテーブルの上を転がり、床に敷いた毛足の長いラグマットの上に落ちた。


「まぁ、フーチったら! おいたしちゃダメでしょ。 あら? ミア? ミア? あなた顔色が悪いわ」

 ロザリンが心配するように、ミアの顔は蒼白だった。

「あら、ミア。もしかしてもう見えたの? あなたにはその人の顔が見えたのね?」

 ロザリンがミアの顔を覗きこむ。

「……私、お金、返さなきゃ」

 ミアは小さな声でそう言った。

「ミア? なんて言ったの?」


 ミアはぶるっと震えると、更に青くなった顔をロザリンに向けた。

 ロザリンもそのミアの顔を見て、ただ事ではないということを察した。


「ロザリン! お願い! 今まで以上にラッキーな。一夜で億万長者になるような人を探して!」

「ミア。一体どうしたというの?」

「何も聞かないでロザリン。お願いだから探してちょうだい、そうじゃないと私は」


 そう言うとミアは、泣き出してしまった。

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